音楽談義 保坂和志、湯浅学

エノケンとディラン

湯浅 (略)エノケンボブ・ディランに似ているのを発見したんだよ。エノケンのレコードは『エノケンの〜』ってタイトルが多いじゃない。エノケンはあたえられたものにアダプテーションしないと、つまり全部エノケンの言葉に変えないと成立しない。歌にメロディはなくて、エノケンのなかにある対象への意見をいっているような、歌っているんだかしゃべっているんだかわからない曲がエノケンには多い。それは芸人だからと思っていたんだけど、あれは音楽に対する考え方がもとからそうなんだ、これはボブ・ディランと同じなんだと思った。ボブは昔のひとの曲を勝手に使って曲をつくったじゃない。いまはもっとわかるようにやっているけど、昔はだれかの歌を勝手にとってきて自分の詞を乗っけて歌った曲がいっぱいある。高田渡さんもそうだよね。それは自分のメロディというか言葉のなかの強弱や抑揚を乗せる器を探して昔のひとの曲をとってきて使っていたからだと思うんだよ。(略)

バックのひとたちはその曲を演奏しているからその曲には聞こえる。でもエノケンだけとりだすとエノケンの語りであり歌であり、元のメロディは消えている。ディランなんかは、ライブでは全部同じというのはいいすぎだけど、昔から聴いている曲なのに曲の半分くらいまで行っても曲名がわからないのはざらだからね。(略)

エノケンボブ・ディランだったのはすごいショックだった。だからエノケンが好きなのかとようやく理解できたんだよ。

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