- 「ビートルズに会えないのならやめさせてもらいます!」
- 僕たちをKOしたイギリスの無名バンド
- ここがグループサウンズの出発点
- ブルージーンズはやめたけど……
- メンバー探し、植田芳暁
- 鳥塚繁樹
- 合宿の前日に決まったメンバー三号(島英二)
- すべては湘南・茅ヶ崎から始まった
「ビートルズに会えないのならやめさせてもらいます!」
(略)
当時のことに詳しい人は、今でも「ビートルズの前座でブルージーンズも出演していたのに、なぜやめたの?」と聞く。そう、確かに(略)出演が決まったときは飛び上がらんばかりに喜んだ。(略)
ところがである(略)ビートルズに事故でも起きたら国際的問題になるということで(略)僕たちはステージが終わるとすぐ楽屋に入れられ[ビートルズが武道館を出たあとようやく解放と聞かされ]
(略)
「やめる!俺はブルージーンズをやめて、客席からビートルズを見るよ。みんなには迷惑かけるけど、八ちゃん、俺はやめる。もう決めた」
(略)
――話がちょっと複雑になるけれど、実はそのときのブルージーンズはいつ解散してもおかしくない状態だったのである。(略)
[ビートルズ来日三か月前、メンバーを召集した寺内タケシ]
「俺は今『寺内企画』という会社を作っている。このまま渡辺プロダクションにいては、俺が考えているブルージーンズに変えることは無理だ。ということは、みんなの将来も保証できないということだ。新しく作る会社に移れば、みんなの将来も保証するし、給料も一人二万円はアップする。はじめは仕事も減るだろうが、スポンサーがちゃんとついているから安心してくれ。悪いようにはしない。さあ、時間がないから一人一人来るか来ないか言ってくれ」(略)
[皆がイエスと答え、加瀬の番]
「やめさせてもらいます!」(略)
次の瞬間、ダーンとテーブルを叩く音と同時に寺さんは立ち上がった。
「この話はなかったことにする」
そう一言いってから、さっと店を出て行ってしまった。
(略)
[他のメンバーから責められ]
「みんなに言わなかったけど、俺は半年ぐらい前からやめたいと思っていたんだ。ビートルズみたいに、自分たちで作詞作曲して、歌と演奏ができるグループを作りたいんだよ」
「それじゃあ、俺たちでビートルズみたいにやろうよ」
八ちゃんがいつになく積極的に発言した。
「いや、このブルージーンズはエレキの演奏で人気が出たグループだよ。〈津軽じょんがら節〉や〈運命〉のギターをいくらコピーして真似しても、所詮、それは寺さんのオリジナルだ。生意気なようだけど、俺は自分のオリジナルを作りたいんだよ」
(略)
[クレージーキャッツ映画の撮影に寺内が何時間も遅刻、ようやく現れると]
「加瀬以外のメンバーはここに集まってくれ」
(略)
数分後、その輪が解けて、[マネージャーの]ガンさんが僕のところに来た。
「寺さんは今日でやめるそうです」(略)
「結核になったそうです」
「結核?だって、昨日だってあんなに元気だったじゃないの?」
「今朝、医者に行ったら、そう言われたそうです。(略)今も他のメンバーに『俺は結核になったからやめる。あとはみんな渡辺プロに残ってがんばってくれ』と話したのです」
(略)
[翌日渡辺プロにメンバーは召集され]
「みんなも知っていると思うが、寺内が病気になったということでやめることになった」
ギョロッとした目でみんなを見まわしながら、松下部長が威圧感のある声で切り出した。
「今後のスケジュールは詰まっているし(略)ビートルズの前座の仕事はとりわけ重要だ。だから、今解散するわけにはいかない。寺内がいなくてもブルージーンズは健在というところを見せるのだ。
加瀬、今日からお前がリーダーだ。そしてみんなでバックアップしろ。いいか、わかったな!」
シーンとする会議室。
「僕にはできません。僕は一度やめるといったし、ほとんどの人が僕より先輩なので無理です。ビートルズ公演まではやりますが、そのあとやめさせてもらいます」
「やめてどうするんだ?」(略)
「まだ何も考えていません」
「加瀬は俺と一緒にバンドを作ります」
突然、内田裕也氏が言った。
「本当か、加瀬?」
(略)
確かに、その一か月ほど前だったか、内田裕也氏から、「加瀬、そのうち一緒にバンドをやろうぜ」と飲みに行ったときに言われたことはあったが、その後、具体的な話は何もなかった。
「何も決めていません」
「加瀬、コノヤロー!」
立ち上がる裕也氏。
「ヤメロ!」
怒鳴る松下部長。険悪な雰囲気になってきた。
「とにかく、今解散するわけにはいかないのだ。お前たちだって今解散したら困るだろう。みんなで助け合ってこのピンチを乗り切るのだ。わかったな」
[モヤモヤしたまま五月の日劇ウエスタン・カーニバルは寺内抜きで強行突破]
――しかし、その直後にあの話を聞いてしまったのである。たとえビートルズの共演者であっても[接触はできない](略)楽屋に入れて鍵をかけるというあのおそるべき宣告である。
その結果(略)同じステージを踏むことをあきらめ、武道館の客席からビートルズを見ることにしたのである。
僕たちをKOしたイギリスの無名バンド
[ビートルズ、ストーンズの影響は大きかったが]
実は間近で僕たちに衝撃を与えたのは(略)六四年の秋に来日した[無名の]「リバプール・ファイブ」というグループだった。(略)
[来日時には主催者に「リバプール・ビートルズ」と改名される程度のバンド]
日本では敵なしと思っていた僕たちが先にステージで演奏した。(略)ベンチャーズやアストロノウツ(略)と共演していた僕たちは(略)完全に彼らを見下していた。
(略)
「どうだ、参ったか!日本にも[エレキを使った]こんなにすごいグループがあるのだぞ」と、優越感を感じながらステージを終えた。
(略)
[彼らが]自分たちの楽器のセッティングを始めた。(略)
僕は寺さんに、「あいつらバンドボーイもいないんですね。かわいそうに。僕たちのステージを見て、おそらく日本に来たことを後悔しているでしょうね」と言った。
寺さんも、「もっとあいつらをビビらせるように、ステージの正面に行って見てやろうぜ」と言う。
寺さんと二人でステージの正面の席に座った。(略)
五人が手を振りながらステージに登場した。
なーんだ、ユニフォームもヘアースタイルもビートルズの物真似じゃないか。
(略)
ジャーン!!!(略)
僕と寺さんは最初の音で、プラスチックの椅子からひっくり返ってしまった。
な、なんだ!!!この音は?このサウンドは?(略)
今までに聞いたこともないサウンド、音の厚さ。(略)
演奏が終わるやいなや、二人はステージに駆け上がった。
どうしてあんなサウンドになるのか?何が違うのか?大きなからだで髭を生やしたマネージャーはさっきとは逆転して、どうだ驚いたか!的な顔で、アンプやキーボードをチェックしている僕たちをニヤニヤしながら見ている。
(略)
「寺さん、見てよ。ベースアンプのスピーカー。こんなに大きいのを使っているんだ。おまけにスピーカーの前にマイクを立てて、会場のスピーカーから音を出している」
「加瀬、見てみろ。ビンソンのエコーチェンバーをボーカルに使ってるぞ。ピアノもエレキピアノだ。ホーナーって書いてあるぞ」
(略)
三日間続いたこのコンサートをスパイダースのムッシュかまやつさんや、プロのミュージシャンが噂を聞きつけて、連日、大勢やって来た。(略)
さっそく、僕たちはヤマハに依頼して、ボーカル用のアンプ、エコーチェンバー、各メンバー一人一人にマイクとマイクスタンド、キーボードの八ちゃん用にエレキピアノなどなど、少しでも彼らに近づこうと、まず機材を揃えた。
今までは、歌手は楽器を持たず歌うだけ、楽器を持つ人たちは演奏するだけだったが、彼らの影響で楽器を演奏しながら歌う、そう、ビートルズに一歩近づいた気分になってきた。
そのころから、僕はエレキの演奏を中心にしたグループより、自分たちで作った曲を、 自分たちで演奏しながら歌うグループに傾倒していったのだ。
(略)
[加瀬メモ]
リバプール・ファイブは(略)ロンドン出身で、当初は Steve Laine Combo という名前で活動。一九六四年にドイツにわたり、Blues Sounds という名前で、ハンブルグやスイスなどでライブ活動をしていた。ちなみに、その後、彼らは日本で新宿『ACB』に約一か月出演していた。また、彼らが日本に持ってきた楽器にAKGのマイクとVOXのアンプなどがあった。
ここがグループサウンズの出発点
(略)
俺たちで歌えるような曲を作ろう。歌謡曲ではない日本のポップスを。
(略)
曲はすぐにできたが、詞ができない。ビートルズは作曲も作詞もできるのになあ。
(略)
[海外曲に訳詞をつけていた]人のなかでも、僕が気に入っていた人がいた。安井かずみ。この人の詞は今までの日本人の作詞家にはなかったポップな感性があると僕は思っていた。
渡辺プロダクションのなかに渡辺音楽出版という会社があって、そこの社員の楊さんという中国の人が、安井かずみさんと懇意にしていると聞いていたので、お願いに行った。(略)
「加瀬、お前、十年早いよ。彼女は、今、売れている作詞家だよ。お前はまだヒット曲もないじゃないか」(略)
「そこを何とか、楊さんの力でお願いしますよ」
「無理だと思うけど、一応聞いてやるよ」
[テープと譜面を渡した 一週間後]
「シャボン玉ホリデー」のVTRを撮っているスタジオに顔を出した楊さんが、「詞が上がってきたよ」と言って、僕に封筒を渡した。
「〈ユア・ベイビー〉作詞、安井かずみ」と書いてある
(略)
ジャズ喫茶で歌うと、結構、反応がいい。ブルージーンズを担当していたキングレコードのディレクターが聞きにきて、
「加瀬君、これはシングルレコードで出そうよ。なかなか新鮮だよ」
「本当ですか?でも、誰に歌わせるんですか?」
「君たちで歌うんだよ」(略)
「僕たち、歌はド素人ですよ」
(略)
歌を入れるために一本のマイクを五人で取り囲んだが、照れているのか自信がないからなのか、みんなマイクからだんだん離れていって、ディレクターから、「大丈夫、大丈夫。自信を持ってもっとマイクに近づいて。なかなかいいよ」と、何度も言われた。
(略)
特に寺さんのファルセットがよく、この人、こんな声も出せるんだ、とこのときはじめて知った。
一九六五年八月に〈ユア・ベイビー〉は発売され(略)発売一か月後にフジテレビの「ヒットパレード」に十八位で登場した。(略)[インスト演奏や歌手]のバックなどでは出演していたが、自分たちが演奏して歌うとは。しかも自作曲を。
(略)
おそらく、グループがオリジナルを自分たちで演奏しながら歌うのは日本ではじめてのことだったと思う。(略)
[テレビを見た作詞家志望の人が曲をつけてくれと〈ノーノーボーイ〉を持ち込んできた]
「悪いけど、まだ詞にメロディーをつけたことはないので、誰か他の人に作曲してもらったらどうですか。そうだ、かまやつひろしさんがいいよ」
かまやつさんも、まだそのころは作曲をしていなかったと思うけど、何となくそんな言葉が口から出た。
(略)
しばらくして、ジャズ喫茶でかまやつさんに会った。
「加瀬、〈ノーノーボーイ〉っていう曲を作ったから聞いてくれないか。詞は少し変えたけど」(略)
「かまやつさん。これいいね!僕が作曲しなくてよかった。こんなふうにはきっと作れなかったと思うよ」
「本当にそう思う?」
と上目づかいに僕を見た。(略)
[1ヶ月後の正月かくし芸大会の楽屋]
隣りにブルーコメッツの井上大ちゃんが座った。
「ねえねえ、加瀬が作曲した曲がヒットパレードのチャートに入って来たんだって?」(略)
「俺も作曲しようかな」(略)
そして井上大ちゃんが作曲したのが、〈青い瞳〉という歌だった。(略)
そして売れたのだ。歌謡曲、演歌の間をすり抜けるようにして。
ブルーコメッツも、ブルージーンズと同じように(略)[歌手の]バック演奏をしていた。(略)
半年ぐらいの間に、ブルージーンズ、スパイダース、ブルーコメッツにオリジナル曲第一弾が生まれたのである。
まだグループサウンズ、GSという言葉はなかったのだが、日本の音楽も確実に変化し始めた。
(略)
ブルージーンズはやめたけど……
(略)
[最終回のステージ、内田裕也が話を振ってくれず]
そのままステージは終わってしまった。僕のファンも結構来ていたのに。三年間も一緒にやってきたのに。最後の言葉もちゃんと決めていたのに。なぜ?どうして?
以前、他のメンバーがやめたときは、本人が挨拶をし、僕たちも一人一人送る言葉などをしゃべった。けれど、今回は最後まで内田氏の口から「今日で加瀬はブルージーンズをやめます」の発言はなかった。きっと、僕の身勝手なやめ方に内田氏のハラワタが煮えくり返っていたのだろう。
(略)
[数日後、会社に呼び出され]
おそるおそる渡辺プロの会議室で待っていると、ニコニコしながら入ってくる松下部長。(略)
「おい、加瀬。これから何をするか決めているのか?」
「一年くらい休学してアメリカにでも行って来ようと思っているのですけれど」
「やめとけ。外国に行って、そんなに簡単に音楽でメシが食えるものじゃないぞ。今までと同じ給料を出すから渡辺プロに残れ」
「仕事もしていないのに給料をくれるのですか?」
「そうだ。社長がそう言ったのだ。お前の作曲に期待しているのだと俺は思う。だからアメリカなどに行くなよ。わかったな!」
(略)
何もしないで渡辺プロダクションから給料をもらっているのも悪いから、早くグループを結成しなくてはと思い、どんなグループにするか、自分なりにコンセプトを考えてみた。
1 ビートルズと同じ四人編成。
2 全員ボーカルとコーラスができる。
3 まだプロの世界に毒されていないフレッシュな人。
4 僕より若い人。できれば十代。
5 アイビーファッションが似合い、清潔感のある人。
6 人に好感を持たせる人間性。
7 音楽的には、アメリカン・ポップス、リバプールサウンドが好きであること。
8 山より海が好きな人。
自分のカラーに合っていて、今の日本にないグループを組むとしたら、こんなところかな、と思った。
(略)
[現在の音楽状況で]どのようなグループを新たに誕生させたらよいのか?
そうだ!フォークロックだ。
見た感じは、大学のキャンパスでギターを抱え、反戦歌ではなくソフトなフォークソングを歌っている大学生のイメージ。サウンドは(略)バーズやママス&パパス。曲調は加山雄三氏の海の香りのするメロディーと詞。それに、もちろんビートルズのテイストを加えて。
(略)
さあ、コンセプトも決まったし、これからメンバー探しだ。
メンバー探し、植田芳暁
[まず知人の「平凡パンチ」記者にメンバー公募の記事を書いてもらう。
ヤマハにブルージーンズ・カスタムを作ってもらった縁があったので、渋谷店に行き猛プッシュ]
「それではモニターということで、ギターを加瀬さんに提供しましょう」
「ありがとうございます。あとベースとエレキギターをもう一本、ドラムセット一式、シンバルもお願いいたします。(略)あっ、大事な物を忘れていた、最近ヤマハで出したギター・アンプ二台とベース・アンプ一台。そのくらいかな?」
「ちょっと待ってください。ようするに新しいバンドの楽器全部ということですか?」
「そういうことになりますね。僕は全部ヤマハの楽器で揃えたいのです。まだそういうバンドはないでしょ」
「確かにありません。ですが、これだけの楽器を提供するには、私の一存ではできません」(略)
[浜松の本社の上司にも猛プッシュ]
「わかりました。それではご希望の楽器は全部提供しますから、はじめだけでなく末長くヤマハの楽器を使ってくださいよ」
それから三十五年。僕は今でもヤマハのギターを使っている。
渋谷の店長もやれやれという感じで、カタログから僕の希望する楽器を選ばせてくれた。お金のことを心配せずに物を選べるというのは、実に豊かな気分にしてくれるとつくづく思った。(略)
「近々、メンバー全員連れてきてくださいよ」
「そうしたいのですが、まだ一人も決まっていないんですよ」
店長は、こいつ、大丈夫かな?というような顔をして、
「それではメンバーが決定した時点で、楽器をお渡ししましょう」
僕が楽器詐欺をするとでも思ったのかもしれない。そんなことはないか。
(略)
[エレベーターを待つ間に店長が]
「加瀬さん、ヤマハの『ウイス』というサークルをご存知ですか?
(略)
確か、三十~四十グループぐらいあると聞いています
(略)
池袋のヤマハ店が中心となってやっていますから、連絡してみたらどうですか。(略)」
(略)
[早速池袋へ]
「加瀬さんは特にどんなタイプのミュージシャンを探しているのですか?」
「(略)一番むずかしいのは、ドラムを叩きながら歌う人です。(略)ウイスにそういう人はいませんかね?」(略)
「アメリカンスクールの生徒が作っているバンドがあって(略)外人のギターが結構うまいですよ(略)ドラマーは日本人で(略)結構個性的なドラムを叩きます。歌は?どうだったかなあ。(略)
[川崎駅前ダンスホール]のジャックスという専属バンドで、アルバイトみたいな形で叩いているそうですよ」
(略)
[早速視察]
ステージも終わりかな、と思ったとき、ビートルズの〈ロックン・ロール・ミュージック〉。何とドラマーが叩きながら歌っている。顎を突き出し、ちょっと苦しそうな感じだが、ややハスキーな声で、英語も英語らしく聞こえる。(略)まだ垢抜けしてないが、真面目そうな男だ。(略)ドラムの叩き方も個性がある。
「ガンさん、どうかね?磨けば光りそうじゃない?」
「歌いながらドラムを叩いても、そんなにリズムは狂わなかったですね」
(略)
[ドラマーと面談]
突然、歩調をゆるめて歌うドラマーが言った。真剣な表情だった。(略)
「僕の本名は大串安広ですが、大串というのは焼鳥とかウナギ屋のイメージなので、ミュージシャンの芸名には合わないと思って、名前を変えたいのです(略)
植田芳暁という名前にしたいのです」(略)
「植田芳暁って名前は、自分で考えたの?姓名判断で調べたの?」
「いえ、僕の友人の名前をもらったんです」
鳥塚繁樹
[メンバー探しを依頼してあったファンの立教女子学生から電話]
「(略)[先輩に]加瀬さんの話をしたら、『ビートルズが好きで、そういったバンドをやりたい、と言っていたやつが確か二年生にいたよ。彼は今カントリーのバンドにいると思うよ』と言われたんです(略)
(略)
『甘い声で、見た感じは、そうだなぁ、ジャニーズにいるあおい輝彦にちょっと似ているかな』と言ったので(略)迷ったのですけど、思いきって電話しました。(略)」
(略)
店内を見回すと、こちらを見て会釈する目がギョロッとした青年が座っていた。(略)
「鳥塚繁樹です。はじめまして」と折り目正しく言った。
(略)
条件の5「アイビーファッションが似合い、清潔感のある人」にピッタリだ。
(略)
「カントリーをやってるんだって?」
「(略)最近はそれだけでは盛り上がらないので、ビートルズの曲もやってます、先日地方のステージのときには加山雄三さんの〈君といつまでも〉をやったら受けましたよ」
(略)
彼は立教大学の二年生で十九歳。
(略)
まずは歌を聞いてみなくては始まらない。(略)
有楽町駅に近い(略)松井ビルの五階が渡辺プロ、四階が渡辺音楽出版である。(略)渡辺音楽出版と書いてあるドアを開けようとしたら(略)
「おう、加瀬じゃないか。何しに来たんだ?」
「あれ!加山さん。(略)」 ビックリして、何を言っていいかわからず、ただ声を出していた。何しろ、当時、人気絶頂の加山雄三さんだ。やたらに眩しかった。
「俺は新曲の打ち合わせに来たんだよ。じゃ、またな」
(略)
わずか数秒の間だった。一緒にいた鳥塚は、目をパチクリ(略)
彼にしてみれば、先輩にうむを言わさず指示され、二日後に僕に会っていろいろな話を聞かされたあげく、二時間後に加山さんにバッタリ会ったわけで、まるでジェットコースターでお化け屋敷を通過したような気分だっただろう。
(略)
「それでは、〈500マイル〉を歌います」(略)
確かに甘い声だ。なかなかいいぞ。歌うドラマーとは違う声質だけど、そのほうがグループのレパートリーが広がって、かえっていいかもしれない。(略)
ビートルズの〈ガール〉(略)
英語の発音も丁寧で、きちっと歌っている。
(略)
三人で柴田先生の弾くピアノのうしろに並んで、アー、オー、と発声練習
(略)
「この前、加瀬君が言っていた〈夢のカリフォルニア〉のレコードを買ったよ(略)
まだこういう曲を日本で歌っているグループはいないから面白いね。(略)三人の音域がわかったから、コーラスアレンジを今日からでも始めるよ
(略)
この曲のなかで、サスフォーというコードを使っているんだ。ジャズでは使っているけど、ポップスではまだ聞いたことがないなあ。加瀬君、知ってる?」
「いや、知りません」
(略)
[平凡パンチ募集でゲットしたベースと合同練習後]
鳥塚が、ボソッと言った。
「あのベースマンとは、僕は一緒にやっていけないと思います」
ずいぶんハッキリ言うなあ、と思った。当然聞こえているはずの植田は何の反応も示さない。ということは、先日、僕の家でミーティングしたあと、二人でそのことを話し合ったのかもしれない。
僕は「どうして?」と聞き返さず、「彼のことは俺も今考慮中なんだよ」と言ったので、その話題はそれ以上発展しなかった。
実際、今日の練習でみんなとシックリいかない雰囲気があったのは確かだ。しかし、他にベースを弾いて歌う人の当てはなかった。
話は三日後に来日するビートルズのことになった。僕は東芝レコードのディレクターからチケットをもらったが、鳥塚は抽選で当たったらしい。
(略)
[遂に、ビートルズ公演]
ジョンのギターからロックンロール・ミュージックは始まった。サウンド的には(略)リバプール・ファイブのほうが衝撃的だった。コーラスのバランスなどもよくないが、そんなことは問題でない。
本物のビートルズが目の前で演奏して、歌っているのだ。しかもポールなどは、こっちを向いて手を振ってくれているではないか。
よい音はレコードで聞けばいい。これはライブだ。
(略)
あっという間の三十分だった。しばし放心状態の僕。見たぞ。聞いたぞ。
(略)
よっし、やるぞ!僕も自分のグループを作って、自分たちで作った曲を歌うぞ!
合宿の前日に決まったメンバー三号(島英二)
(略)
武道館のステージの余韻に浸りながら、夢はふくらみ(略)
合宿だ!合宿をしよう。(略)
[友達の父親が『伊東園ホテル』大株主、昼間空いている地下のバーが練習場]
広い和室一間を朝晩食事つきで、なんと一人八百円。もちろん温泉は二十四時間いつでも入れる。
(略)
平凡パンチ募集ベースマンには連絡しかねていた[ところに、後輩から電話](略)
「加瀬さんに言われて探したんですけど、一人だけいました。(略)エレキギターが弾けて、容姿は加山雄三さんにちょっと似た感じなんですよ」
(略)
[渋谷駅前『ユーハイム』で待ち合わせ]
「はじめまして。島雄一です。こっちが弟の英二です」(略)
バンドのコンセプトを話し、兄の雄一君が僕にいろいろ質問した。その間、弟の英二君は下を向いて黙っている。(略)
[翌々日の練習日]
「あれ、お兄さんは?」(略)
「今日は一人で来ました」
「お兄さん、来ないの?」
「兄はドラムをやっていて、ギターは僕なんです」
(略)
彼はブルージーンズのファンだったので、僕に会って緊張して一言も話せなかったとのこと。
(略)
ベースを渡された島はキョトンとしている。(略)
そうだ。まだ彼にベースをやってくれとは言っていなかったのだ。
「(略)ベースはギターより弦が二本少ないから、ギターが弾ければできるよ。とにかくやってみろよ」
(略)
二時間の練習が終わるころには、僕は決めていた。(略)パンチ募集ベースマンはカットしよう。明日からの合宿にはこの島英二を連れて行こう。
(略)
[合宿]二日目。朝の発声練習をやってから、楽器を使っての本格的な練習が始まった。東京での練習で、ある程度覚悟はしていたが、やはりひどい。(略)
夕食前に、大浴場のエンジェル風呂に浸りながら、やはり考えが甘かった(略)力が抜けていく自分を感じていた。
(略)
あっという間に一週間がたってしまい、渡辺プロダクションの池田マネージャーと渡辺音楽出版の楊さんが様子を見に来た。(略)
[いろいろ言い訳をし予防線を張ってから演奏]
池田マネージャーがようやく言った。
「まだ音がまとまるまで時間はかかると思うけど、新鮮だよ。あとひと月ぐらい、このメンバーでやってみて、それからどうするか決めればいいんじゃないの」
僕も同じように思っていたのでホッとした。
(略)
[以前、バンドを作るか、就職するかを加山に相談した際]
「加瀬、芸能界はそんなに甘いもんじゃないぞ。でも本気でやる気があるのなら、一生続けるつもりでやってみろ。俺の影響で音楽をやるようになったんだから、俺にも責任がある。新しいグループを作るんなら、名前を考えてやろう。(略)」
(略)
[ということで、合宿後、メンバーを横に、加山に電話]
「オー、加瀬か。ちゃんと考えたぞ(略)
ザ・ワイルド・ワンズ」 (略)
「どういう意味ですか?」(略)
「自然児という意味だよ。アメリカでもジェームス・ディーンみたいなカッコいい男をワイルド・ワンズというんだ。どっちかというと、お前も生まれてきたまんまの自然児だよ。ハハハハハ……」
(略)
三人ともキョトンとしている。「へーっ、いい名前ですね」とは誰も言わない。僕もまだピンと来ていない。(略)
[何度か声に出して、次第にピンと来るように]
「それにしても、何で加瀬さんはそんなに加山さんと親しいのですか?」
「そうか、まだみんなに加山さんとの出会いと、僕が音楽を始めるようになったきっかけを話していなかったね」
すべては湘南・茅ヶ崎から始まった
一九五七年の秋(略)東京から(略)茅ヶ崎に引っ越した。僕は慶應高校の一年生だった。家のまわりは畑だし(略)すごい田舎に来てしまったと思った。
(略)
[湘南電車で通学、藤沢駅でセーラー服の女子高校生が二人乗車、ひとりは]
今まで僕が見た女性のなかでは一番と思えるほどのかわいさだ。とりわけ目がよかった。ハーフではないと思うが、ちょっと日本人離れした顔立ち。胸がドキドキした。 彼女たちも茅ヶ崎駅で下車し、僕と同じ自転車を預けている所に入って行くではないか。
(略)
彼女たちは真っ直ぐに行く。 あとについて行く勇気もなく、左に曲がった。
(略)
同じことの繰り返しが五日間続いた。[そして冬休みに](略)
声をかけて、名前だけでも聞けばよかったな。彼女も絶対に意識していたはずだ。
(略)
[先輩から上原謙宅のクリスマス・パーティに誘われ]
家から歩いて七、八分の所にある上原謙さんのお宅に向かった。(略)
大きな門の横にある木戸が開いた。(略)あの少女がそこに立っている。相手もビッ クリした顔で僕を見た。ほんの数秒間だが、時間が止まった。
(略)
ガレージの裏の建物(略)三十坪ほどの広さで、床はフローリング、壁には大きな鏡が取りつけられていて、バレエの練習のときに使うバーがついている。(略)
女性たちはペチコートを下にはいた落下傘スカート。まるで映画で見るアメリカの若者のパーティ会場といった雰囲気だ。
(略)
彼女もペチコートでブルーの水玉の落下傘スカート。袖の短い白いブラウス。薄く化粧をしている。セーラー服のときよりずっとおとなに見え、何か圧倒される。
(略)
「それじゃあ君の名前は上原っていうんだ。下の名前は?」
「やぁね、上原は父親の芸名よ。本名は池端。池端章子です。あなたは?」
(略)
「私は湘南白百合高校の一年で、兄はあなたの先輩で慶應大学の二年生よ。今紹介するわね」
(略)
四年先輩だとめっぽうおとなに見え、それ以上話すことはできなかった。
まさかこのとき、二年半後に加山雄三という芸名で芸能界にデビューするなど、本人も思っていなかっただろうし、僕もこの出会いが自分の人生を決める重要なターニングポイントになるとは、思ってもみなかった。
(略)
冬休みも終わり、学校の帰りにまた湘南電車で彼女たちと一緒になり
(略)
「この前、プレスリーが好きと言っていたでしょ?私の家にレコードがたくさんあるから、今度の日曜でも遊びに来れば」
(略)
プレスリー、パット・ブーン、ニール・セダカなど僕の大好きなレコードが一杯。
音響設備も素晴らしく(略)今まで聞いたこともないいい音がスピーカーから溢れてきた。
窓の外には茅ヶ崎の海、その先に烏帽子岩が見える。時間がたつのも忘れてレコードを聞き、彼女からジルバのレッスンを受けていると、お母さんがお手伝いさんと一緒に、紅茶とクッキーを持って来てくれた。
(略)
[夕方]
勝手口に置いてきた自転車の所に行くと、なんとボロボロだった僕の自転車がすっかり綺麗になっているではないか。錆もなくなっているし、垂れ下がっていた電気のコードも綺麗に巻かれている。
そのとき、うしろから声がした。
「あまり汚なかったから、直しておいてあげたよ」
振り返った僕の目に映ったのは、キャップを被って微笑んでいる人。あっ!上原謙さんだ。
僕のおふくろからもさんざん聞かされていた世紀の二枚目俳優だ。
(略)
休日にゆっくりと書斎でクラシックのレコードを聞いていたかったのに、娘のボーイフレンドに占領されて、仕方なく僕の自転車を直してくれていたのかもしれない。
(略)
「物は大切にしなくてはダメだよ。錆止めも塗っておいたし、ライトもつくようにしておいたよ。ハイ、お大事に。ハハハハ……」
(略)
[二月、彼女からプレゼントを渡され]
「なぁに、これ。誕生日は来月だよ」
「今日は何日か知ってる?」
「えーと、二月十四日だろ」
「だから、わからないの?」
「クリスマスと誕生日以外にプレゼントもらえる日なんてあるの?」
「知らないかもしれないと思って、そのなかにあるカードに書いておいたから、家に帰って見てね」
(略)
女の子からのプレゼントは生まれてはじめてだ(略)
赤いリボンをとき、白い包装紙を開けると、真白い毛糸で編んだハイソックスが出てきた。
(略)
〈今日は一年で一度だけ、女性が好きな男性にプレゼントできるバレンタインデーです。はじめて編んだので見た目はよくありませんが、気持ちはこもっています。スキーのときにでも履いてください。AKIKO。〉
(略)
赤いカードを何度も読み返した。プレスリーの〈ラヴィング・ユー〉を口ずさみながら。
(略)
彼女のお兄さんが慶應の同窓生と作っているバンド、カントリー・クロップス(略)を見て、はじめて 楽器に興味を持つようになった。そして音楽をやる楽しみを知った。
彼女のお兄さんは、ギター、ドラム、ベース、ピアノと何でもこなせたが、このグループでやるときは、ボーカルとアコースティック・ギターだった。
プレスリーの曲はそっくりに歌うし、見ていてもカッコよかった。(略)
プールで泳いでも速いし、海に潜っても、僕がサザエをようやく一個取ってくると、お兄さんは一回潜って三、四個は持って上がってくる。スキーも(略)片足を上げて一回転するアクロバットスキーなどを披露する。(略)
自分で丁寧に設計図を描いてカヌーやモーターボートを作ってしまうのだ。
(略)
いつの間にか僕のヒーローになっていった。
「僕にギターを教えてください」
(略)
高校卒業も近づいたころ、渋谷駅の売店の週刊誌に目をやると「上原謙の息子、東宝に決定」とあった。やった!
僕のヒーローはこれで、大勢の人々のヒーローになる。目頭が熱くなった。
次回に続く。
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