- YMOのリーダーですよね?
- YMO、やめるの?やめないの?
- タンゴ
- クラフトワーク
- 『地平線の階段』
- 3・11
- オハイオ・プレイヤーズ「エクスタシー」
- インターネットによる素人音楽の流通
- 70年代
- 80年代は嫌いだよ
- 上手い下手
YMOのリーダーですよね?
[NO NUKES公演後]
――終わったあとに三人で話すことはあるんですか?
いや。話さないし、いままで話したことないよ。
――えっ。そんなことないでしょう?
話してもしょうがない(笑)。
――以前、お三方が練習しているのをそばで見たことかありますけど、ぜんぜん互いに話さない。改めて不思議な関係ですよね。
ぼくもいつもそう思う。
(略)
――怒られないようにしないといけないけど……細野さんって、たしかYMOのリーダーでしたよね?
ぼくが? 現役時代はそうだったけど。
(略)
YMOっていうのはベンチャーズと同じだからね。ぼくは還暦のときに、リーダーは辞めたと宣言してるんだよ。いまはサポートメンバーだと思ってるんだ。(略)
――でも、そもそもYMOは細野さんのアイデアからはじまったわけですよね?
最初だけだよ。レコーディングとアルバムづくりの場面だけ。
――はっぴいえんども、最初はそうでしたよね。
そう。はっぴいえんども最初だけ。(略)
YMO、やめるの?やめないの?
――なんだかYMOを終えようとしてるのか、終わらなくなっちゃってるのか、細野さんは率直に言ってどう考えてるんですか?
打ち上げとかでも人に責められるんだよ。ぼくがやめようとしてるって。それが広まってるらしくて。ファン代表の人が来てね「やめないでくれ」って言うの。(略)ぼくはやめるとは一言も言ってないんだけど、夏のフェスはイヤなの。暑いから。
――冬だったら続くって言ってましたもんね。
そうそう。だから、ぼくは前から、YMOはベンチャーズだって言ってたんだ。(略)
それにだいたい、YMOをやめるもなにも、もうやめてるから。
――うーん、うーん(笑)。
変な話になっちゃうんだよ。死んだ人に、死なないでくださいって言ってるようなものだから。
――いつやめたんでしたっけ。
「散開」って言ったときだよ。(略)雪の降るセントラルパークでやった撮影がYMOのお葬式だったわけだから。それ以降は、サポートメンバーだと思ってやってる(笑)。
――細野さんはリーダーだったじゃないですか。
散開の前まではね。真面目にやってたよ。一生懸命だった。終わってからはサポートメンバーだけど。
(略)
ベーシストの職業意識で参加してるということ。
――でも、そこには演奏家としての喜びはあるんですよね?
ミュージシャンとしては、ぼくは演奏することがいつでも好きだからね。ただ、労働が過酷だとできないっていうだけ。体力がないから、もう重いベースが背負えなくなってきてるんだよ。かわいそうに(笑)。腰も背中も痛くなっちゃうの。ライブでは、もうフェンダーは背負えない。ヘフナーは軽いから使ってるだけなんだ。ヘフナーは構造的に自分の思うようには弾けない。でも、おかげで右手の親指の動きは早くなった。
――YMOはベンチャーズだって言ってるのは、肯定的な意味ですよね?
もちろん。ものすごく肯定的だよ。ベンチャーズになりたかったくらいだから。
さまぁーず大好き
EXILEの人がテレビの「笑っていいとも!」で言ってたよ(笑)。
――「いいとも」観てるんですか?
火曜日は観てるんだよ。火曜はさまぁーずが出てるから。
――本当にさまぁーず、好きですねー(笑)。
[ラジオはいいという話から]
うん。テレビを観ててもなにも入ってこないからね。
――あれれ?さまぁーずは?(笑)
「さまぁーずさまぁーず」は聴いてるだけでも面白いや(笑)。
タンゴ
[NO NUKES]が終わったころから、ずっと[ピアソラ以前の]タンゴを聴いてる。(略)
タンゴの歴史を順に追いながら、どうやって進化してきたのかを聴いてるんだよ。タンゴのエッセンスって日本人の琴線のどこかに触れるじゃない。そのエッセンスがどこにあるのかを探してるわけ。だから、すでにパターン化されたタンゴじゃなくて、まずは古典を聴いてる。タンゴを聴きだす前はファドを聴いてたんだけど、タンゴとファドってどこかに共通したエッセンスがあるでしょ。
(略)
音楽には心が動くエッセンスが必ずあるわけだよ。名曲には必ずそのエッセンスがある。ファドでいうところの「サウダージ」のような。だから、いつもそれに触れていたいというのかな。それを自分のなかで共鳴させておいて、ふくらませていきたい。僕の場合、それが曲をつくっていきたいという動機にもなるからね。
[器用貧乏と言われたという話から]
――若いときって、自分にはなんでもできると思ってましたか?
ぼくはいつだってなんでもできると思ってるよ。たとえば、こないだエマニュエル・ウンガロという人がつくった服をショーウィンドウで見てたんだけど、ぼくもあの服をつくれそうだなと思ったんだ(笑)。ついそう思っちゃうんだよ。なんでもできそうな気になるの。
クラフトワーク
[NO NUKESの懇親会で]
バーに行ってみんなで飲んでた。ぼくは飲めないからサンドウィッチを食べてたけどね。ラルフ(・ヒュッター)がぼくの隣に座ってたんだけど「キミはぼくと同じ歳なのか?」ってしつこく聞いてくるの。ぼくは47年生まれだよと言ったら、自分は46年生まれなんだって言ってがっかりしてるわけ。自分が最年長だということがわかってショックだったみたい。せっかく会ったのにそんな話しかしてないんだ(笑)。一緒に演奏したのは初めてだったんだけど、三十年くらい前に一度会ってるんだよ。新宿のツバキハウスに一緒に踊りに行ったんだ。
スギちゃん
若いのは舞台の上にいるときだけ。舞台から下りたらもうダメだよ。だからいまはダメ。まず着るものがないもん。なにを着ていいかわからないよ。
――そういえば、ずっとその服を着てますよね?
ずっとこれ。スギちゃんみたいになっちゃった。
――スギちゃん!(笑)。スギちゃんは好きですか(笑)
嫌いじゃないよ。率直な人だなと思うね。
『地平線の階段』
二十歳のときだって、中村とうようさんの『民族音楽大全集』でタンゴなんかの南米の音楽を聴いてたしね。そういうのを聴いて『トロピカル・ダンディー』とかをつくってたわけだから、いまと似てるんだよ。いろんなことが、巡り巡ってるって感じる。だけど、聴き方は当時とは違うんだ。
――『地平線の階段』で、南米の音楽について細かくジャンル分けしながら書いてましたよね。
あれは中村とうようさんの影響だよ。
――ぼくはあれを読んでずいぶん勉強したから、会うまではこういう人だとは思っていなかったんです。
なんで?(笑)
――研究熱心な、計画的な人なんだなと思ってたんです。
ああ、そうか(笑)。
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コンビニ行くと、氷とガリガリ君買って帰るんだよ。ガリガリ君を削ってコップに入れるの。(略)
かき氷みたいに食べるんだけどね。
――今年からはじめたんですか?
去年はガリガリ君なんて一切知らなかった。去年もあったの?
3・11
実はいまでもあの津波の映像を繰り返し観てるの。
――えっ? 録画した映像を観てるんですか?
うん。あと、地震警報のあの「ちゅらんちゅらん」って音を聴きたくなるの。(略)
被災地の映像を観たり、地震警報の音を聴いたりすると意識がぱっと変わるの。
――なんのためにそうしてるんですか?
このまま元に戻っちゃって、なにごとも起きなかったような意識に戻っちゃいそうだから、そうすることで、自分を刺激してるんだと思う。
(略)
――あの地震警報の音は元々あった音楽なんですよね。
伊福部昭さんの甥の達さんがつくったんだよ。伊福部昭さんの交響曲の一部を素材にしてつくられたらしい。そいういうこともひっくるめて、また聴きたくなっちゃうんだ。ドキドキして、自分が覚醒するのがわかる。
オハイオ・プレイヤーズ「エクスタシー」
――ファンクのリズムがいまもいいわけですか?
オハイオ・プレイヤーズの「エクスタシー」って曲はリズムだけじゃなくて、構成もいい。ミニマルだからね。当時はああいうリズムはなかったんだよ。特にリフがね。あれは考えつかない。「すげえ、大発明だ」って思いながら当時は聴いてた。
――いまでもそう思いますか?
うん。いまでも思うよ。発明ってぼくの目標になってるんだ。発明のある曲は時代が経っても古くならないからね。
インターネットによる素人音楽の流通
明るいと思ってたよ。パソコンなんかで音楽をつくれるという、クリエイティブなツールができたと思って喜んだんだ。ぼくは、みんな音楽の才能は豊かなのに、演奏する教育も機会もないままそれが発揮できてないだけなんだって思ってたの。
(略)
だから、みんなが自分にしかできない音楽をやるべきだと思ってた。音楽を聴くと、その人がどんな人かわかるでしょ。だから、みんなが音楽をやればひとりひとり違う音楽ができて、みんながそれを名刺がわりにするようになれば、きっと面白くなるだろうって思ってた。そうなると、音楽は市場に流通しなくなるだろうと思ったの。経済的な側面がぜんぜんなくなっちゃうんだけど、そうなったらどうなるんだろうなってのも、一方で思ってた。
――ある部分はそうなりましたよね。
ただ、なりゆきを見ると、ひとりひとり持っている音楽の世界を、それぞれが間違ったやり方で表現しちゃったように見えるな。自分が聴いたものを、そのまま表現しちゃう。自分のなかから出てくる音楽じゃなくてね。じっくり煮詰めてないし、勉強が足りない感じだ。音楽をより深く知るということが足りないんだ。音楽という、昔から続いている文化の流れが、どれくらい自分にも入ってるか、そこにどうやって自分が加わるのか、音楽の海に自分がどうやって入っていくのか。そういうことについての勉強はみんな足りなかったね。
70年代
[キャラメルママのころのことはあまり憶えていないという話から]
――なんとなくいままで聞けずにいたんですけど、70年代のころの話を聞きたいんです。(略)
どうかな。本当によく憶えていないんだよ。重度の神経症だったし、僕がいた70年代は神経症的世界だったという印象しか残ってないな。
――そのころは、過換気症候群の症状も出てたんですか?
うん。
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80年代は嫌いだよ
[『細野晴臣の歌謡曲 20世紀BOX』]のなかに気になってる曲がいくつかあるんだ。女の子のアイドルが歌ってるんだよ。(略)
それを自分でも歌えるかなと思ってね(笑)。本当は歌いたかったんだよ、ずっと。(略)
地味で誰も聴いてないような曲のなかに、ぼくがやりたいものがあるんだよ。(略)
つみきみほと裕木奈江のは歌えるかもしれない。
(略)
――ちょっと話を戻すんですが、さっきは70年代についてうかがったので、今度は80年代について聞かせてください。
80年代は四つ打ちの時代だよな(笑)。
――表面的だなあ(笑)。
80年代は表面的な時代だ。だから嫌いなんだ。
――嫌いなんてすか? いまは80年代リバイバルが流行ってるんですよ。
ぼくには関係ないなあ。80年代は嫌いだよ。このあいだメラニーの曲を探してて、80年代のヒット曲のコンピレーションをいっぱい聴いてみたんだけど、全部つまらなかった。つまらないっていうか、いま聴きたくない音楽ばっかりなの。そんなこと言ってても、また面白くなるかもしれないんだけど(笑)。(略)
普遍性がない、あの時代の音には。
上手い下手
どこにでもうまい人はいっぱいいるんだ。オリンピックなんかを見てもそうだけど、びっくりするくらいうまい体操選手なんかがたくさんいるでしょ。だから、うまさってなんだろうって、ずっと考えてたの。才能があればの話だけど、技術を修練すれば、みんなうまくなる。コンクールみたいなところに出てくるピアニストってみんなうまいでしょ。でも、その音楽を好きでやってるのかな、って思っちゃうところはあるな。「ここが腕の見せ所」って感じでやっている人が多い気がするよ。そういう意味ではプレイヤーと作曲する人って根本的に違っているのかもしれないけれど。
――(略)下手だとはよく言われるんですけど(笑)。
そんなこと言われるんだ。かわいそうに(笑)。ぼくだって自分は下手くそだと思ってるよ。
――細野さんは、絶対に下手じゃないです。
いやいや。自分なりに下手だと思うこともあるわけ。
(略)
音楽のなかでなにが大事かという価値観は人によって違う。別にうまくなくたっていいんだからって思うのが、ぼく。
――結局、うまいってどういうことなんてすかね。
わかんない。うまくても下手な人はいるじゃない?(略)
要するに、たとえばドラムをやるならなによりもリズム感が大事でしょ。それがあってこそのドラムの技術だから。だから、リズム感があれば下手でも別にいいんだ。でも、両方を兼ね備えている人もいっぱいいてね、そういう人を見るとやっぱりうまいなと思う。打ちのめされる。自分にはこれはできないと思う。
次回につづく。
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