法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する

法のデザイン?創造性とイノベーションは法によって加速する

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アンビエンスやノイズの著作権

音楽がメロディと歌詞との組み立てではなく、抽象的な音の質感のタペストリーとして作曲され得るという考え方に対処できる確かな法体系はない。――ブライアン・イーノ「音楽の共有」[『A Year』所収]
(略)
イーノ自身の楽曲に存在するアンビエンスやアート・リンゼイのノーチューニングのギターノイズが、どこまで著作物として著作権により保護されるか?という問いに、現行の著作権法やこれまで蓄積されてきた裁判例は明快な解答を用意できない。ここで我々は、著作権という権利が、いかにメロディやコード、ハーモニーといった西洋音楽の構造を前提にしか機能しないかということに思い至るわけである。

この[音楽に関する権利の帰属や収益の配分に関する]見直しは、それぞれ実は、文化的な価値がどう作られるのか、異なる文化的な価値がどこからくるとわれわれが考えているのか、異なる文化的な価値の相互関係はどういうものなのかということに関する、新しい見方なのである。だからこれらは最終的には、「オレはいくらもらえるの?」とういうつまらない問いではないのだ。――ブライアン・イーノ「音楽の共有」

A year

A year

『Loop-finding-jazz-records』

[ヤン・イェリネックの]『Loop-finding-jazz-records』は、このサンプリングに関する問題を象徴するレコードである。このレコードは、さまざまなジャズのレコードのアンビエンス(具体的に言えば、サックスの吹き終わりに残る残響など)のみをサンプルして制作された、まさにタペストリーと言うべき美しいミニマル・ミュージックであった。しかし、一聴しても、このレコードのサンプリング元が往年のジャズのレコードなどということは到底わからない。このレコードは、先に挙げた2パターンである「権利が生じていない部分」を「細かく」サンプリングした、サンプリング・ミュージックの一つの到達点として評価できるとともに、著作権的な観点からみても、音楽制作の現代的変容を切り取った極めて批評的なものだったといえる。
 サンプリングに関しては、ともに2016年、マドンナが大ヒット曲「Vogue」に使われたホルンの音をめぐる裁判において勝訴したことや、クラフトワークが彼らの楽曲「Metal on Metal」から二秒間サンプルしたラッパーを訴えていた裁判で敗訴したことで、「一秒でも違法」という法的状況は変わりつつある。

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