吉本隆明質疑応答集〈2〉正論という

吉本の言わんとするところがイマイチ伝わりにくいような気がするので、先にこちらから少し引用。

データサイエンス講義

データサイエンス講義

「これが現実と言ってスカしてる現状肯定野郎」

 例えば、これまでに雇用された経験があり、全く同じ資質を持った女性と男性を比較することにしたとします。データを解析してみてわかることは、女性達は男性達より頻繁に離職し、昇進の機会が少なく、会社においてネガティブな評価を受けたということです。
 その場合、作成したモデルは次に二人の似たような採用候補者が現れた場合、女性よりも男性を採用するという意思決定を行うでしょう。会社が女性雇用者を正当に扱っていないという可能性は検討されることがありません。

吉本隆明質疑応答集〈2〉思想

吉本隆明質疑応答集〈2〉思想

  • 作者:吉本隆明
  • 発売日: 2017/09/01
  • メディア: 単行本

福田恒存の発言には普遍性がなくて、正しいことじたいでしかない

正しいことをいうっていうのは、そんなに立派なことじゃない

 第一に小林秀雄福田恒存では、文学者としての桁がちがうんじゃないかということがいえる。小林秀雄がどういうよからぬ役割をしようと、保守的であろうと、戦争中にどうしたということがあろうと、僕らはみんな彼から恩恵を受けている。小林秀雄は日本において、近代批評の基礎を確立した。(略)
それにかんしては、どんなに見解がちがおうとどうであろうと、認めなくてはいけない存在だと思うんです。
 それにたいして福田恒存という人は、政治的ともいえないと思うんですけど、政策的といったらいいんでしょうかね、福田恒存の政策的な発言には、一種の反動的な小気味よさがあるんですよ。その役割は、小林にもないことはない。もちろん、もう少し立派で高級なかたちですけど、その小気味のよさがないことはないんです。だからそういう意味では類似点があると思うんだけと、まるで桁がちがうんではないでしょうか。
 僕は福田恒存にたいして、熱心ではないんですけどね、ただ『藝術とは何か』みたいな本はたいへん立派なものだし、国語問題について発言したこともたいへん立派で、よくやってるなと思います。常識がさっと済ませて通り越しちゃおうと思ってることについて、ことさらそれを取り出して、たいへんすぐれた論を展開して書いている。そういう仕事をいくつか、僕は知ってますけどね。だけども、時事的な事柄についての発言を読んでいるかぎりでは、そんなに高く評価できないなと思うんです。それはなぜかというと(略)
彼はしばしば、正しいことをいってるんですよ。だからつまり……
 ――現実は衝いているということですか。現実を捉えていると。
 そういう意味じゃないんです。現実をよく捉えているというのではないと思います。彼はたしかに、正しいことをいっている。では、正しいことをいっているというのはどういうことか。だれもが心のなかではそう思ってるんだけど、いわずに済ましてる。ほんとうは反対のことをいって主張してるやつでも、心のなかでほんとうに考えていることについてはいわない。福田さんはそういうことを、ぱっとみごとに出したりする。そういう意味では、正しいことをいうと思います。だけどその正しいことというのは、取り出されてないんですよ。つまり、それは正しいことじたいでしかない。たとえば、自分が正しいことをいうでしょう。そこでいった正しいことと、正しいことをいってる自分を取り出す。そうやって客観視できると、その正しいことは相対的になっちゃうんですよね。そこで相対性というのが出てくるんですよ。それからもうひとつ、普遍性というのが出てくる。
 だけど、福田さんの発言には普遍性がなくて、正しいことじたいでしかない。たとえば、ある事柄が起こるでしょう。そのことについてある人は、正しくないことを押し通そうとする。あるいは正しいことを思ってるんだけど、それをいえないでいる人もいる。福田さんはそこで正しいことをぱっというわけですが、それは正しいことじたいなだけなんです。それにたいして正しいというだけなんです。ですから正しいことじたいには、ほんとうの意昧での正しさはないと思うんですよ。ほんとうの意味での正しさっていうのは、またそれを取り出せないといけない。正しいことっていうのは、自分で取り出せないといけないんです。そこで正しさを取り出すと、正しくないと思われる流れもいっしょに取り出されてしまう。そうしないと、ほんとうはわからないわけです。ほんとうに正しいことをいおうと思うなら、その両方が取り出されないといけない。取り出されることがないと、いえないんですよ。だけど、福田さんはたいてい、即座に正しいことをいってる。そこでは正しいことじたいをいうだけで、それ以上の意味はないんじゃないか。だけど、正しいことをいうっていうのは、そんなに立派なことじゃないですよ。つまり、たいしたことじゃないと思います。

あんまりな言われようなので、ある意味、吉本隆明と通ずる面もある、福田恒存の文章を以下に。
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