原発広告 本間龍

原発広告

原発広告

  • 作者:本間 龍
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

原子力PA方策の考え方」抜粋

チェルノブイリ事故で吹き飛んだ原発安全神話を回復させるため、1991年科学技術庁が日本原子力文化振興財団に作成を委託した「原子力PA方策の考え方」[PA=パブリック・アクセプタンス(社会的受容)]

[1] 父親層がオピニオンリーダーとなった時、効果は大きい。父親層を重要ターゲットと位置付ける。(略)真正面から原子力の必要性、安全性を訴える。
[2] 女性(主婦)層には、訴求点を絞り、信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる。「原子力はいらないが、停電は困る」いう虫のいい人たちに、正面から原子力の安全性を説いて聞いてもらうのは難しい。ややオブラートに包んだ話し方なら聞きやすいのではないか。
[3] 不安感の薄い子供向けには、マンガを使うなどして必要性に重点を置いた広報がよい。
 タレントの顔は人々の注意を引きつける能力はあるが、人気タレントが「原子力は必要だ」、「私は安心しています」といえば、人々が納得すると思うのは甘い。やはり専門家の発言の方が信頼性がある。
(略)
2) 頻度
(1) 繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る。いいこと、大事なことほど繰り返す必要がある。
(2) 短くともよいから頻度を多くして、繰り返し連続した広報を行う。政府が原子力を支持しているという姿勢を国民に見せることは大事だ。信頼感を国民に植え付けることの支えになる。
3) 時機(タイミング)
(略)
(2)広報効果の期待できるタイミングを逃さず、時機に応じたタイムリーな広報を行う。事故が発生したときは、国民の関心が高まっている。原子力広報のタイミングは最適である。
(略)
4)内容(質)
(1)国民の大部分が原子力を危険だと思っているのが現状であるから、広報は“危険だ”を前提に置いて、徐々に安全性を説いていく方がよい。
(2)訴求点をストレートに出す。ごまかしてはいけない。「隠す」、「ごまかす」という感じを持たれては何もならない。誠意を示す広報であるためには、担当者の姿勢、心構えが重要である。
(3)情緒に訴えるやり方は避ける。原子力をイメージとしてとらえてもらうのではなく、事実を知ってもらう。
(略)
(4) 原子力には、隠されたものというイメージがある。このイメージ払拭のためにも、堂々と正面から訴える。原子力はこそこそ隠れてやるものではない。(略)
(5) 一般人が信頼感をもっている人(医者、学者、教師等)からのメッセージを多くする。医者や教師が正しい理解をしているかどうかが問題で、彼らに情報を提供する必要がある。
(略)
6)手法
(略)放射線放射能が日常的な存在であることを周知させる必要がある。(略)
 安全性や生活との密着性を機会ある毎に直接的に訴えていく。川も海も火山も暴れると恐い。ただし、対策があれば安心できる。
(略)
これまで「安全」を強調しすぎた。だから何か起きると「それみたことか」、「日頃言っていたことと違うじゃないか」ということになる。世の中に危険でないものは無いのに、原子力だけは「安全だ」ということ自体おかしい。
(略)
「事故を起すかもしれない」という不安、「原子力をやらなくてもエネルギーは不足しない」という充足感に具体的に訴える必要がある。
(略)
2.マスメディアの活用
1)活字メディア
 (1) パブリシティ広報がベストである。いかにPA臭を無くするかがポイント。素材の提供をして、あとの料理の仕方は委せること。「正しい知識」の押し売りはだめ。専門家が正しい知識の理解を求めても、大衆に「聞きたくない」といわれたら、それまでだ。停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが、大衆であることを忘れないように。
(略)
2)映像メディア(略)
(2) テレビで討論会、対談、講座等を行う(政府提供では視聴率が悪いので工夫を要する)。まじめでおもしろい番組なら人はついてくる。原子力を、政治、国際情勢など時局に結びつけてやる方がよい。企画の善し悪しと同時にタイミングがある。
(略)
(5) 単発ドラマを製作・放映する。原子力は“事故”で映画の対象になるが、もっとプラスイメージでドラマの中に入れる工夫をする。
(6) あるドラマの中に、抵抗の少ない形で原子力を織り込んでいく。原子力関連企業で働く人間が登場するといったものでもよい。原子力をハイテクの一つとして、技術問題として取り上げてはどうか。
(略)
(12) テレビスポットを数多く流す。何を訴えるかが大事。どうしても頭の中に叩き込んで、覚えてもらいたいことを訴える。
(略)
(14) 何かの時には、原子力に好意的な文化人をコメンテーターとして推薦できるようにしておく。新聞、テレビがこの人のコメントを載せてほしいと思う人をリストアップし、その名前が自然にしみこむように、日頃の仕事の中で心がけていくことが大切である。

2002年、東電トラブル隠し発覚

経産省から厳重注意を受けると、その後半年近くは「謹慎」して広告出稿が激減します。しかし翌2003年の3月13日と15日には朝日、読売に15段広告を打ち、「復活」ののろしを上げるのです。
 3月13日と15日の広告は一見何を言いたいのか非常にわかりにくいのですが、よくよくボディーコピーを読んでみると、謹慎中に(謹慎とは書いてはいませんが)ヨーロッパの原発施設を見学し、決意も新たにがんばりますという、反省のかけらもない内容です。タイトルには原発のげの字も入れないからそろそろ掲載してもいいんじゃない、というような、原子力ムラと新聞社の馴れ合いを見るような原稿です。
 3月26日の15段広告は、3.11後にも連日掲載された、事故に対する「お詫び」もどきと言い訳に近い「ご報告」をあわせた文章タイプのものです。正価であれば朝日と読売だけでも掲載料が7000万円以上になるシロモノであり、十数年にわたって隠蔽を続けていた企業が、事件発覚半年後には広告という手段で報告するという異常さが際立っています。
 本来であれば企業トップが報道各社のインタビューに応じて謝罪・報告会見を行うのが普通だと思いますが、ここでもカネを払って広告枠を買うという行為で主客を逆転させ、「広告主」としてメディアにプレッシャーをかける手際は、広告代理店の入れ知恵を感じさせます。(略)
 当時社長であった勝俣恒久氏(3.11事故時の東電会長)が出席し、悪びれる様子もなく「全社挙げて意識改革する」などと言っていますが、その言葉とはまったく裏腹に、経営最優先で安全軽視の姿勢であったことが3.11で明るみになったわけで、この当時から何も反省していないことがわかろうというものです。

地球温暖化対策

 1990年代後半から3.11直前まで、原発推進側が最大限に利用したのは、世界的に高まりを見せた温暖化対策でした。それまでは主に、
 「エネルギー戦略上、資源がない日本には原発が必要」
 というのがほぼ唯一の原発推進理由だったところに、
 「原発は発電時にCO2を発生させないクリーンエネルギーであり、原発を推進することが世界的な地球温暖化抑止につながる」(略)
大々的にアピールしまくったのです。

まとめ

 表では巨大広告主としてとくにテレビ局に対して睨みを利かせ、裏では活字メディアの記者たちを接待攻勢で骨抜きにし、ネガティブ記事そのものを書かせないようにもっていく。たまに事故があって事実報道としての記事が出るのは仕方がないにしても、扱いを地味にし、決して原発推進方針まで批判するような論調にはならないように、電波メディアと活字メディアの両方に対して、二重の防波堤を構築していました。そしてこの防波堤は約40年間にわたり、機能し統けていたのです。

後半は歴代の原発広告が掲載されていて、浅草キッドとか岸本葉子の姿も。
一番興味深かったのが1993年「タイムズ」等4紙に電気事業連合会が出した英文全面広告(そりゃ当たり前だけど)

「はっきりさせよう。日本の電力10社はソープをもとめている」という見出し(略)
ソープは英国核燃料公社が建てた使用済み燃料からプルトニウムを抽出する施設。ソープ操業を一刻も早く進めるよう英政府に要求している。

[関連記事]
kingfish.hatenablog.com
kingfish.hatenablog.com
kingfish.hatenablog.com
kingfish.hatenablog.com