剽窃の弁明

えー、なんといいますか、こうして長々と引用していくわけで、著者の主張に同意するところはある。しかし一方で、「エクリチュール」多用族だのポモ学者がパンピーを見下して「未だに必死こいてオリジナリティーとか口にして遅れてるよねー」なんて言うのを見ると若干釈然としない。パンピーだって創造的剽窃には怒ってないのではないかと、人の努力の結晶の表紙の名前だけ付け替えてトレビアン顔のパク沢ちゃんetcに怒っているのではないかと。だいたい「エクリチュール」族は自分のメシの種に関わることでもそう言えるのかと小一時間。

剽窃の弁明 (エートル叢書)

剽窃の弁明 (エートル叢書)

  • 作者: ジャン=リュックエニグ,Jean‐Luc Hennig,尾河直哉
  • 出版社/メーカー: 現代思潮新社
  • 発売日: 2002/02/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 21回
  • この商品を含むブログ (4件) を見る
極端な個人主義は危険な病である

剽窃を追求すればかならず、思ってもみなかったところ、望んでもいなかったところまで行ってしまうものだ」。とりわけ剽窃された作者のテクストの、その種本にまで。
(略)
お読みのとおり、17世紀の人間が非難していたのは盗むことではなく、がらくたを盗むことだった。
 「そんなへぼ文士には書く価値も、生きる価値もない。だが、他人のなかから自分にぴったりの有益なものだけを取り出してくる物書き、選ぶ目を持った物書き、これは理想の人間である」。剽窃した作家をこれほど執拗に追い詰めるのは時代の悪癖だ。アナトール・フランスはそう結論する。そしてこの悪癖はオリジナリティーの悪癖でもある。「だれかに発想を盗まれたら、ドロボーと叫ぶまえに、その発想がほんとうに自分のものだったかよく考えてみよう」。
(略)
 「われわれがいま目にしている極端な個人主義は危険な病である」。

本はみんなのものだった

古代ローマには文学的所有権も〈著作権〉もなかったからである。ひとたび発表された本は公共の場へと抛りだされる。だれでも借りてきて、写しを書斎に並べることができる。まことホラティウスの言うとおり、「素材はみんなの財産、やがては君の所有物になる」(『詩法』)。本はみんなのものだった。作者を讃える気兼ねも、作者に著作権料を支払う心配もなく、だれもが模倣できた。

才能のある者は盗まず、奪い取る

[パクリを非難されたシェイクスピアは]
「私はうら若い娘さんをお下劣な連中とのつきあいから救い出して上品な社会に入れてやったのです!」同様の批判を受けたとき、これも同じ理由からモリエールはもっと素朴にこう答えている。「俺は見つけたらすぐ自分の財産にする」。シェイクスピアモリエールも正しい。才能のある者は盗まず、奪い取るからである。

われわれはお互いに注釈しあってばかりいる

借用はモンテーニュにとってなんの重要性も持たない。一瞬の彼自身であり、遁走であり、つかの間の和合なのだ。引用されたのは、たまたま目に止まったから、たまたまその文章だったから、たまたま自分だったからにすぎない。
(略)
純粋なオリジナリティーもなければ、適切な反復もない。引用と借用とその他のあいだに本質的な違いなどないのだ。いかなる言説も言葉を「組み合わせ、繋ぎ合わせて」作るのであって、「われわれはお互いに注釈しあってばかりいる」。

あまりにも見事な文なので、書き直す必要などない

「これだ、この文を俺は書きたかったのだ」と剽窃者は思う。「これこそまさに俺の言いたかったことだ。あまりにも見事な文なので、書き直す必要などない」。他の言葉で言い換えても、遠回しな表現で言い換えても、裏切りになるだろう。恋の裏切りである。剽窃者は、たとえコピーするとしても、コピーをコピーするくらいならオリジナルをコピーする。

本屋の独占権のため

剽窃を非合法とみなす考え方は最近のものにすぎない。文学的所有権の表明は、個人的な所有権を文学という個別ケースに当てはめた結果得られたものではなく、あるタイトルを獲得した本屋にその独占権を版権のかたちで保証しようという動きに直接由来している、とロジェ・シャルチエは言う(『文字文化と社会』)

剽窃で損害を受けるのか

再度問いなおしてみよう。剽窃において盗みとはいったい何なのか、損害とはいったい何なのか、と。本はそのままであり続け、オリジナルのタイトルと著者名が冠されたまま、いままでと変わることなく売られてゆく。作者の名声が傷つくこともない。問題の作品同士が関係を持つことなどほとんどないし、そもそも、何行か、何頁かを盗作されたために、認められなくなったり、評価を落としたり、作品を売ることができなくなったり、うまくゆかなくなった作家がいることを立証できた者などいまだかつて存在したためしはないのだ。剽窃が、一冊の本の存在と剽窃された作家の物質的利益をほんとうに脅かしたことなど金輪際なかったのである。

残り少しだが、明日につづく。
[関連記事]
kingfish.hatenablog.com
kingfish.hatenablog.com