童貞小説集

「この作品を紹介したいがためにこの集を編んだ」というだけあって三木卓作品は猫猫先生エキスたっぷり。ちょっと気分でデカ字にしてみた。

童貞小説集 (ちくま文庫)

童貞小説集 (ちくま文庫)

振られたと思ってたら、ブサイコちゃんが向こうからわざわざ出掛けてきたので急に上から目線になる主人公。

わたしは事の意外に驚きはしたが、じきに平静になり、ひそやかに自身が芽生えてくるのを感じた。
(略)
わたしは、無防備のまま自分をさらけ出してしまった和子に意地悪く声をかけず、じっと観察していた。

なんかここらへんの心理がわからない。さっきまでヘコんでいたのに、急にゴーマンになる。来てくれるとは思ってなかったよと気分よくウェルカムでいいのじゃないだろうか。それを上から目線になるから、ブサイコだって「なによブサオが、ちょっとコッチから来たからといって調子に乗っちゃって」と気分悪くなるわけで。それにしてもこんなに下腹部を凝視するだろうか。いやボクも相当イヤラシイ人間ですけど、もっと全体の雰囲気で欲情するもんじゃないかと。

わたしは和子の下腹を見ていた。下腹はベルトの下からややせり出すように脹らんでいて、いったん盛り上ってから両脚の付根へむかって急な曲線を描いて下っていた。厚地の鼠色のタイト・スカートの腹部には横に幾本も皺があり、その下におおわれている体のかたちを教えていた。わたしは、その下腹に自分の腹をこすりあわせる触感を想像した。それは強い刺戟でわたしをとらえた。

映画館で手を握ろうとして

「すみませんけれど、これ、困りますから」
 はじかれたように手を離し、和子の顔を見直した。和子は、硬ばっていた。わたしは恥と怒りを覚え、じっとこらえてすわっていた。和子、お前は後悔するぞ、お前の手を握ってくれる男はもういないぞ。それがわかっていないわけではないだろう。わたしは闇のなかで十分ほど何もせずにいて和子の落着くのをまった。そして耳もとに口をよせていった。「ね。ね? そんなこわくしないで、たのむよ。ね?」

さらに迫って乳をさわれば女は外に逃亡

「あたくし、こういうことは真面目に考えていきたいのよ」「おれは真面目だ」「だったらあんなところであんな厭らしいことしないでください」「厭らしくなんかない」

近所の小料理屋の女でDT喪失

 性交に対する恐怖がわたしを捕らえはじめた。できるだろうか?(略)
 試みようとしたが、恐怖と嫌悪の前で欲望は死んでいた。わたしのペニスはうなだれていて、あのはるみの両脚の付根にある裂目を逃がれたいといっていた。
(略)
自分の行くべきところは何処なのか、それすら判っていないわたしなのだった。「だめだ、おれ」わたしはとうとういった。「おれ、したいのにできないんだ。あんたとしたいのに」(略)
「匹田さん、あんたはじめてね。そうでしょう」といった。わたしは首をふって頷いていた。いくら隠そうとしたって隠せるものではないのだ。わたしは、はるみの前で何もかもさらけ出してしまった、と思った。「いいのよ。気にしなくても、もう寝ましょうよ」はるみはそういったが、その語調にはわたしを扱うのが面倒臭いという調子が感じられた。(略)
[未遂のまま添い寝してたら復活。女は寝てる]
わたしは充血しはじめた。その欲望をさらに大きく発展させるために心を集中した。(略)
目を瞑り、思い切って、はるみにからだをよせた。
 戸惑った。しばらくかかってやっと、わたしははるみにはいっていった。「ああ、いま、おれははいっていく」わたしは烈しい安堵と喜びを味わいながら思っていた。これがわたしがしなければならなかったことだ。それを今実現した。わたしは、はるみにしがみつき身体を動かした。するともうそれ以上は堪えられなかった。わたしは痙攣した。
(略)
「ひとが寝てるあいだに何するのよ」はるみは怒りに震える声でいった。「ゴムも使わないで勝手なことして。匹田さんたら知らないわよ」「大丈夫だろ」わたしは軽い声でいった。「大丈夫だよ」

志賀直哉、DTウンヌンより、男色&女中に「抱かれて」DT喪失の受け身感覚の方が気になります

私は不意にお夏の肉のある腕に首を巻かれて、引き寄せられました。二人はその儘、横に倒れました。が、その瞬間、私はこんな事は初めての経験じゃないという事を、冷やかに、しかも妙に痛切に感じました。で、お夏のするが儘に私は体の抵抗もせずに接吻したのです。
 女との関係では賞つて、こうした事はなかったけれども、基督教に接する以前に男同士の恋で度々経験した事だったからでしょう。
 私はその夜、遂に二十何年来の神秘を解きました。異った性。これはそれを識らぬ若者には永遠の神秘です。私は遂にこの神秘を解きました。智慧の実を食いました。

「私は接吻を許したのです」

[母が顔色が悪いと心配すると]
給仕に坐っていたお夏が直ぐ引きとって、
「書き物で、夜明かしをなすったんですって」と空々しくチラッと私の顔を見ました。私は息のはずむ程腹が立った。「ああ、いやな女だ」もうつくづくそう思いました。が、矢張りその夜私は接吻を許したのです。翌晩も同じ事です。その又翌晩も。

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