ムーミン仕様書

日活後、アニメ脚本を手がけた著者、出崎統とケンカして「あしたのジョー」を降りたり、ルパンやったり、ムーミンスナフキンスノークを独自のキャラにしたり。

日活アクション無頼帖

日活アクション無頼帖

脚本をやっていると原作者からのクレームがつく、同じつけるならトーベ・ヤンソンくらいちゃんとつけてみろと、著者はヤンソンからの手紙を公開。少しは省略しようかと思ったが、あまりにも面白いのでほぼまるごと。

トーベ・ヤンソンからのクレーム

トーベ・ヤンソン女史の手紙」
 「まず、出発点からまちがっている。即ち、ムーミン谷、ムーミン的考え方がすべてちがって表現されている。
 自動車は使うべきではない(略)。
 都会も不向きであるし、ムーミン家の内装も変えるべきであると思う。全体的にムーミン谷(略)のフィーリングがなくなってしまっている。このまちがいを救う唯一の道は、この作品に携わる者全員が良くムーミンの本を読み、ムーミンの世界に溶け込み、そのフィーリングを感じて理解していただくより他にないように思う。
ムーミン家の人々は、現代のモダーン社会に生きているのではない。彼等の住む社会は、温和で親切な社会である。
 勿論、突発的な事件もおこります。ムーミン家の人々は、事件が好きです。しかし、決して口論はしない。ムーミンパパが息子の尻を叩くなどは考えられないことであり、また、この世界では誰も人の尻を叩くことはしない。
 もし彼らが怒ったときは、たとえば、コーモリ傘でたがいの頭を叩き合うぐらいで、決して腕力をふるわない。
ムーミン家の内部がまたちがっている。部屋が先ず広すぎるし、ガランとし過ぎている。
 だから一見、事務所のように見える。ムーミン家の部屋は、どちらかと言うともっと小じんまりしている。そしてもっと家具が一杯おいてある筈です。古風な家具が一杯……。
 また、そこには赤いビロードや食卓、それからレースのカーテン、小さな細長い脚のついたテーブルやロッキングチェア等がギッシリ詰まっている。どうか新聞用コミック・ストリップ(註・英国の新聞に連載した『ムーミン』のマンガを本にまとめたもの。ヤンソン自身の筆になるものもある)を、もう一度見て下さい。
ムーミン家の人々は、もっと長い耳である筈。目はもっとたがいにはなれている筈。
 彼等の手は、いつも短いままでおくこと。たとえば、もし手を長くのばさないとギターが弾けないのなら、ギターはやめてしまう方が良い。とにかく、手はぜったい長くしないこと。
ムーミンママは、いつもハンドバッグを持っていること。
ムーミンパパは、通常ステッキを持っていること。
 ノンノンは、左の足首にリングをはめていること。また、彼女はリボンを頭につけてはいない。彼女の髪の毛はあまり濃くしないこと。更に詳しく申し上げるならば、ムーミン家の人々は、夜はパジャマとナイトドレスを着ます。天気のひどく悪い日は、オイルスキンを着用します。また、冬はマフラーをします。
(略)
特に注意してほしいことは、ムーミン家の人々には口はないということ。動画の場合、口が必要なのは判るが、できるだけ小さい口にして誰が今喋っているのか示す位に考え、また使ってほしい。決して、決して歯は描かないこと。」

中平康がカレー屋

昭和45年、長谷部安春から中平康が早稲田でカレーライス屋をやっていると知らされ訪ねるとポツンと店番をしていた

黒い賭博師 悪魔の左手 [DVD]

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上記映画等で仕事をした著者を覚えていてくれた

平氏は、ついその前年迄出かせぎに行っていた香港の映画界での氏の活躍ぶりを巧みな話術で私に語ってくれた。
 香港の女優は失恋するとすぐ自殺するので、うかつにからかうこともできないこと。
 あちらでは中平康でなく、中国風に“ヤン・スーシー”の名で撮っていたが、これは本名のヤスシを二つにバラシたものであること。
 また、同じ時期井上梅次監督がやはり出かせぎに来ていたが、氏のマンションにあるホーム・バーは一杯いくらの料金箱つきで評判が悪く、自然、人々は中平無料ホーム・バーヘ寄り集まって来るようになったこと……等々。
 サテそれから一ケ月後――私の親しい知人であるジュディ・オングの父親が、
 「台湾の映画会社がジュデイの主演で日本との合作映画を作りたいと言って来ました。監督はぜひとも中平さんにお願いしたいので、山崎さん、一つ、間に立ってください」
 と依頼して来た。ぜひとも、という言葉の裏には、これより4年前、『悪魔の左手』であの美少女ジュディを、意表をついてギャンブルの天才少年役に起用、みごとな効果をあげた中平氏の演出力にジュディの父親も母親もスッカリ参ってしまっていた、という背景がある。[結局この話はつぶれた]
(略)
[ジュディ母から電話]
先頃10チャンネルの『愛の誤算』というドラマで共演した寺尾聡にジュディがスッカリ熱を上げていて、今すぐにでも家を出て彼と同棲するなどとトンデモナイことを言い出している。そればかりか、最近では寺尾がアレはダメ!コレはすぐやめろ!などジュディの仕事のことまで一々口を出す。そのためジュディの主演で来週からクランクインがきまっている東宝映画を、今になってオリる、そして彼とスキーに行くなど無茶苦茶を言って突っぱっている、というのである。
[中平にジュディを諭すよう頼んでくれとジュディ母]

とまあこんなカンジで部分部分を引用しても面白くない本なのでこれにて終了。
kingfish.hatenablog.com
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