押井守の人生のツボ

押井守の人生のツボ (TOKYO NEWS BOOKS)

押井守の人生のツボ (TOKYO NEWS BOOKS)

  • 作者:押井守
  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 単行本
 

 初心者が最初に観るといいアニメを問われ

押井 うーーーーーん、『(科学忍者隊)ガッチャマン』。(略)

わたし、『ガッチャマン』を観てなかったら、たぶんアニメスタジオに入ってなかったですから。

 なぜ『ガッチャマン』を観ていたかと言うと、映画として観れたから。「アニメでも、これだけリアルなら映画と変わらない。だったらオレもできるかも」と思ってタツノコの門を叩いた。

(略)

「オレにもできる」というのは大きな間違いだったことは、入ってから判りました(笑)。『ガッチャマン』を選んだのは、アニメであることを意識せずに観られるから、初心者には入りやすいんじゃないかな。映画っぽいと思う。

 ――劇場アニメだとどうです?

押井 うーーーーーん『エースをねらえ!』(略)

 劇場でアニメを観て、映画を観た気分になった初めての作品が『エースをねらえ!』。 なぜそう観えるのかを知りたくて、繰り返し観ましたよ。アニメで映画を観た気分になるのは、そう簡単なことじゃない。だから、その秘密を盗みたくて繰り返し観た。『うる星やつら オンリー・ユー』がなぜ映画として観られなかったのか、その理由を探るためにね。

いまのアニメは全部同じ

いまのアニメーションは(略)

全部同じ。同じ観方しかできないように作っている。バリエーションがない。キャラクターやストーリーが違っても、作り方が全部同じですから。ゲームで言うと、全部エンジンが同じ。システムは変わらず、同じOSで動いているということです。

 ――ああ、だから、作るほうは、差別化するために声優さんの選択に凝ってみたりするんですね?

 そうです。たとえば麻紀さんの大好きな『わんぱく王子』。この奥さんが観ても、どう語ればいいか判らないと思うよ。なぜなら、おそらく彼女はいまのアニメーションの観方をしているから。

 ――違うんですか?

 違います。いまのアニオタと呼ばれる人たちは、ストーリーを追ったり演出を追ったりはしない。なぜそうなったかと言うと、特徴的な演出をする監督がいなくなったからです。わたしたちの時代には、さっきの出﨑さんや、宮(宮崎駿)さん、高畑(勲)さんというような監督がいて、それぞれに演出スタイルがあったし、それぞれに大きな違いもあった。でも、いまはそういう監督にはまずお目にかかれない。庵野(秀明)は特徴的かもしれないけどコピーばかりだし、彼以降の監督もほぼコピーの天才。庵野が特徴的なのは、元ネタが特撮にあるから。細田(守)くんの場合は宮さんとか、ああいうまったり系のアニメのコピーですよ。

(略)

彼[庵野]の演出は基本、特撮のコピーです。(略)

エヴァ』のファンの多くは、あのストーリーが好きだった。

 ――わたしはダメでしたね。どんどん歪になっていって、気持ち悪かった。庵野監督の私小説を読まされている感じ?

 だって、それ以外やれないんだから。コピーだけでは長いシリーズを支えられないから、それに代わる何かを持ってこなきゃいけなくなる。それが自分の話だったんですよ。庵野語り部じゃないから、自分を曝け出すしかない。麻紀さんが気持ち悪かったのは、庵野が結局、パンツを下ろしちゃったから。だから、見たくもないものを見ちゃった。これは、シンちゃん(樋口真嗣)の“パンツ理論” だけどね。

 ――ますます気持ち悪い。ちなみに、樋口さんのパンツ理論で言うと、押井さんの下ろし方は?

 わたしは「下ろしたらニセモノがくっついてた」(笑)。宮さんは「パンツを下ろすふりをして、常に下ろさない」。庵野は「下ろしたら、ヘンなモノがくっついてた」。

 ――樋口さん当人はどうなんです?

 それは言ってないけど、たぶん「後ろを向いて下ろす」。そういう勇気はシンちゃんにはないから(笑)。 

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