ソーシャル無法地帯 出版の自由

ソーシャル無法地帯

ソーシャル無法地帯

Spokeo

Spokeoは――不動産リストからマーケティング調査までの――何百というオンライン、オフラインの情報源から情報を集めて編集するだけではなく、個々人を特微づけるためにもその情報を使うのである。(略)Spokeoのサイトに人の名前を入力すると、その人物の住所、家の電話番号(電話帳に掲載していなくても)、年齢グループ、性別、民族、宗教、支持政党、婚姻情報、家族情報、学歴が無料で見られるのである。Spokeoにはその人物の家のグーグル・マップまで含まれているのだ。(略)
月に5ドル足らずの料金を支払えば、さらに豊富な情報が見られる。(略)その人物の所有物(プールや暖炉をもっているかどうか)、ライフスタイルや興味に関する情報、Spokeoが勝手に評価した健康レベル(「下の方50%」など)や経済レベル(「普通」や「大変好調」など)の評価である。月に5ドルの会費を払えば、限定会員向けのeメールアドレスやユーザーネームを使った逆引き検索も可能になる。こうした検索を使えば、ソーシャル・ネットワーク・サイトや出会い系サイトの個人プロフィールを読み出すことができる。(略)
 毎日Spokeoのデータベースを100万人以上の人々が検索し、読み込んだ情報をもとにして、人を雇うかどうか、信用を供与するかどうか、あるいはセックスしてもいいかどうかまでを決定している。しばしばその情報が間違っていることもある。不正確な情報源から引っ張ってきたり、不完全なアルゴリズムで解釈していたりするからである。にもかかわらず、プライバシーを侵害されている人々は、自分が汚名を着せられていることにはもちろん、Spokeoの存在にすら気づいていないかもしれない。Spokeoは自らを、信用調査機関を規制する法律の支配下にあるとは考えていない。
(略)
Spokeoはこう主張する。「Spokeoは娯楽目的のみに意図されており、信用や保険や雇用の適格性を判断する目的として考えるべきものではない」と。しかし、Spokeoは人物に対する「貴重な洞察力」を提供するものとして自らのサービスを奨励している。その証拠に、サイトのバナーは、「人材リクルーターは今すぐここをクリック!」(略)別のサイト上の広告バナーでは、「彼はあなたを裏切っているでしょうか? 彼のeメールを逆引きサーチすればわかります」と宣伝しているのだ。
 私があるロースクールの教授にSpokeoの話をしたところ、彼は即座にログインして自分の生活についてSpokeoが推測している情報を見た。Spokeoは、彼の住まいは正しくつかんでいた。また自宅の電話と携帯電話の番号も正確だった。しかし彼の妻の名はジェイミーだったので、Spokeoは彼女のことを若い息子と推測していた。そして彼の年齢は実際より30歳差し引いていて、彼は30歳である自分の娘と結婚していることになっていた。彼女はもちろん同じ姓である。この間違いは彼の信用評価に影響していた。というのは、30歳であるならば、60歳よりも収入が低いと想定されたからだ。しかし、Spokeoに訴えて、間違いを訂正させるにしても、そのことを一体どうやって知ればいいだろうか? 私の同僚教授はコンピューター法を教えていたが、私が話すまでSpokeoのことを聞いたこともなかったのだ。
(略)
[トーマス・ロビンズは]Spokeoを訴えた。裁判所は、ロビンズがSpokeoの掲載行為の結果、実害を被ったという主張をしなかったという理由で、カリフォルニア州不当競争法の下で彼の申し立てを却下した。
(略)
Spokeoは野放図に広がった数十億ドル規模のデータ・アグリゲーター産業の一部である(略)
ハリソン・タンは人々の個人情報を集めて売るためにSpokeoをつくったが、彼自身はデータベースから自分の情報を除去することにした。「私はたくさんのeメールや脅迫を受けている」と彼は語っている。にもかかわらず、Spokeoは他の人々の家の住所や電話帳に載せていない電話番号などの個人情報を本人の同意なしに提供している。(略)
フェイスブックは広告会社やゲームデザイナーとの契約の中で個人情報を金銭に換えているにもかかわらず、あるユーザーがプログラムを使って自分のフェイスブック・ページから自分のデータ(友達リスト)をコピーした際、そのユーザーをフェイスブックから締め出した。フェイスブックはまた、LovelyFaces計画を応援しているアーティストたちに対し法的措置を取ると脅し、彼らのフェイスブックのアカウントを停止した。このアーティストたちは、彼らの「コンセプチュアル・アートとしての挑発」は公開された情報を使っているので合法的であると主張した。しかし彼らはフェイスブック側の弁護士からの圧力に屈した。

 [X+1]

 [X+1]という会社は、集積されたオンラインデータを便ってウェブサイトの閲覧者をすばやく評価する。企業は[X+1]を使って、誰かが自社のウェブサイトを閲覧したときにどんな広告を表示したらよいかを判断する。(略)
顧客企業はこの種のサービスに推定で月に3万ドルから20万ドルを支払っている。
 ウォールストリートジャーナルはテストする人を雇って、[ [X+1]を使っている]キャピタル・ワンのサイトを閲覧させた。(略)[X+1]の判定は正確だった。すなわち、キャリー・アイザックは「コロラドスプリングズの若い母親で約5万ドルの年収で暮らしており、ウォルマートで買い物をし、子供向けのビデオを借りている」(キャピタル・ワンのウェブページは彼女にあまり特典のないクレジットカードを提示した)。ポール・ボーリファードは「ナッシュビル建築士で子供はおらず、旅行好きで中古車を買っている」(彼には旅行の特典がついたクレジットカードを提示した)。トーマス・バーニーは「コロラド州の建築業者で大学の学位をもつスキーヤーで、信用度が高そうに見える」(彼には、最初の利息が0%、年間会費が無料の特待カードを提示した)。

出版の自由

 出版の自由のもともとの考え方は、特に政府に関する情報や意見の流布を抑える法律に対抗して1600年代に現れた。イギリスでは、17世紀末まで、国が発行した許可証がなければ出版は許されなかった。公の政府の批判は非合法であるばかりでなく、死刑を科せられるものでもあった。(略)
ジョン・ミルトンは、マーケットの思想が民主主義に不可欠であると考えていた――マーケットの思想を呼び起こし支持する情報に市民がアクセスできるのはまさにマーケットにおいてである――。市民は健全な政治判断を下すために異なる意見を比較検討することが必要である。ジョン・スチュアート・ミル(略)も同様に個人の言論の自由の権利はほとんど絶対的であることを支持していた――他者に危害を与えないときのみに限定されるが――。
 アメリカの入植者たちが基本的価値を表そうとしたとき、彼らはミルトンのマーケットの思想を保証する尺度を採用した。彼らは出版の前に許可証を要求するイギリスのやり方を拒否し、政府批判に対する刑罰を否定した。実際、政治的発言は、特に政府を批判する場合には、最大限保護されるべき表現形式であると考えられた。結局、イギリス政府に対する入植者たちの不満は彼らを革命へと走らせることになった。その結果は合衆国憲法修正第1条に現れている。「議会は言論の自由や出版の自由を縮小するような法律を制定してはならないものとする」。
(略)
 出版の自由の権利は匿名で公表する権利を含む。これは出版に許可が必要だったイギリスの法律ではあり得ない権利である。(略)
連邦最高裁は、匿名性は個人の意見に対する迫害を免れる手段以上のものであるということを示した。
(略)
1788年に建国の父のうちの3人、アレキサンダー・ハミルトン、ジェームズ・マジソン、ジョン・ジェイは重要な文書「ザ・フェデラリスト――新憲法を支持する論文集」を発表した。発表のときには彼らの名前は出ておらず、プブリウスという仮名で印刷されていた。それは、ローマ君主制を覆すのに助力して紀元前509年にローマ・コンスルになったプブリウス・ウァレリウス・プブリコラにちなんでいた。「ザ・フェデラリスト」の論文は説得力があった。批准に参加する州(植民地)が増え、憲法は1789年に効力を発した。
 出版の自由や匿名性の保護の範囲をめぐる法律論争はこんにちまで続いている。最高裁は、出版の自由が必然的にニュースを取材する権利も含むことを認めている。また、以前の訴訟では、政治的意見の表明の場面で匿名性の権利が保護されていたが、いくつかの事例においては、匿名での企業の批判のような、直接政府に関するものではない匿名の発言も保護してきた。
(略)
1600年代のイギリスでは、政府を批判することは、たとえそれが真実であっても、国家安全保障にとって有害であると見なされて刑罰を免れなかった。アメリカにおける規則はまったく逆である。アメリカは、マーケットの思想が民主主義に必要であるという考え方の上につくられた。政治的発言は保護される。時にそれが誤りであったとしてもである。
(略)
プラバシー侵害の可能性は、実は建国の父たちの念頭にはあったのである。彼らはよしんばそれが自分に向かってきても、出版の自由を支持するつもりだった。
 建国の父の一人であるアレキサンダー・ハミルトンは、マリア・レイノルズとの往復書簡によって、2人の婚外交渉が明らかにされたのを知ったときでも、出版の自由に不信感を抱かなかった。代わりに彼はその出来事を認めた小冊子を自ら発表した。報道陣の標的にされたにもかかわらず、ハミルトンは出版の自由の断固たる支持者であり続けた。のちにハミルトンは、トーマス・ジェファーソン大統領を誹謗した罪で告発されたハリー・クロスウェルを擁護した。ハミルトンは「私の考えでは、出版の自由は善良な動機により正当な目的のために真実を公表することにある。たとえそれが政府や判事や個人を非難するものであってもだ」と論じた。クロスウェルの誹謗の対象者であったジェファーソンも、表現の自由は極めて重要であると考えていた。「彼らの新聞は嘘、中傷、厚顔無恥に満ちている」とジェファーソンは友人に語った。「彼らが嘘をついたり中傷したりする権利において私は彼らを擁護するつもりだ」。

ここらへんまでで三分の一。面倒になったのでこれで終了。

 

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