東電テレビ会議記録49時間 その2

前回のつづき。

福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録

福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録

  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

チェルノブイリの1号2号みたい……

  • 3月13日

15:20:50

1F [炉圧が]じわじわ上がってる。そっちの方が早い==同じと言えば同じ。要するに水が入らないっていうことですね。チェルノブイリの1号2号みたい……。

19:02:25

本店 (略)さっき人事部長が教えてくれたんですけど、Google Earthに航空写真でもちょっと参考になる絵が見れるんですって。パソコンのGoogle Earth
本店 いや、なんだかね、煙の出てるやつとか何とか、それが出てるっだっちゅうんで。
(略)
今ちょっと見たらば、建物が爆発する前と書いてありますから、まぁちょっと参考になるかはどうか分からないですけど、はい。
(略)
本店高橋フェロー (略)なんかFNNで、なんか上から写したのがあるっていうんで、それをまず見て、それを入手するようなことをやりたいと思うんですけど。
(略)
本店 (略)Google Earthで、これがなんか使用前らしくて、これが使用後らしいんですよ。で、ちょうど肝心なところが見えねぇんです。で、さらによーく見るとですね、これなんか元があって、これかな、これで、これを見ると、ちゃんとあのー、建屋爆発前と書いてあるんです。もうちょっと左によって爆発後に撮ってくれると、でもGoogle Earthって、ねえ、航空写真ですよね。
(略)
どっかと契約してるんだろうな。きっとなぁ。で、多分依頼して飛ばしてるはずですから、それ位だったら、ねぇ、Google Earthに協力してもいい位ですよね。
(略)
これ、てっきり爆発した煙かと思ったら違うんですね、雲なんですね。

  • 3月14日

02:58:50

オフサイトセンター武藤副社長 (略)ピットヘの移送というその作業を伴わないで海から直接汲み上げるという手立てはまったくないの?



■武藤副社長から素朴な疑問が出される。目の前に水が無尽蔵にある太平洋が広がっているのにどうしてそこから直接汲み上げて注水せず、3号機のリバーシングバルブピットにいったん水を入れてから注水しているのかという問いかけである。


1F吉田所長 いやいや、それは当然本筋がそっちなんで、それやってるんですけども。それが昨日の夜からやっててなかなか思うようにはかどってないんですよ。


■海面と敷地面の高低差は10mある。この高さをクリアして海水を吸い上げる能力があるポンプがないため、直接海の水を使えない状況になっている。

03:00:16

オフサイトセンター武藤副社長 ここは、なに、消防車何台も並べてピットに海から水を汲んでくるということはできないの?


■消防車を直列に繋ぐとポンプの吸い込む力が増す。今度は、その原理を利用しないのはなぜか、という問いかけである。


1F吉田所長 いや、そっ、いや全然それでもいいんですけど、だから、だから、昨日、あの、早く1Fに消防車が欲しいと言ったのは、そんなのも含めて何でも使えるだろうと思ったから、言ったんですけどね。
オフサイトセンター武藤副社長 分かった、分かった。
1F吉田所長 それが2Fで止まっちゃってるんですよ。

03:01:18

本店 消防自動車がいま2Fで止まっているのはですね、真っ暗で道路の確認ができなくて引き返したからであります。(略)想像したよりも巨大な消防車が4台来ています。道路にはまると1Fに到達することが不可能になる
[道路の下見をしてひび割れに鉄板を敷く必要がある]
[消防車の未着が路面状況のためと判明]
(略)
オフサイトセンター武藤副社長 (略)巨大ってどのくらい巨大なの?
本店 すみません、私も見たことありません。

03:09:43

保安院は2号機の減圧注水の開始時刻を30分前倒しして午前3時30分に開始するように求めてきた
(略)
■2号機の減圧注水を早くしろと言ってくる保安院に対し、3号機のほうが危機的状況だと考える吉田所長はいらだちを隠せないでいる。

03:28:00

オフサイトセンター武藤副社長 2号のそれで、みんなが恐れているのは、3号と同じようにしたくないということなんで。
1F吉田所長 そうそうそう、それもよく分かるんですけど。
オフサイトセンター武藤副社長 んで、そこの、なんかその3号の時の予兆みたいな、ここだったら3号の次は2号だというように、なんだ、その、思える何か、きっかけみたいなものって、難しいんだろうな、きっとな。
1F吉田所長 うー。
本店 3、1、2で、2号は4時というのは難しいでしょう か。
1F吉田所長 や、あの、だから、だから難しいでしょうかって言っても、もう分かって! 何回説明してもあれなんだけど、ピットが溜まらないことには。だめなんだ。


保安院に2号機の減圧注水の開始めどを午前4時と回答してしまった手前、その時間にこだわる本店に、吉田所長は苛立ちを見せる。

03:37:00

■吉田所長は3号機に注入した水はどこかから漏れて流れ出していると考えている。


1F 遮ってよろしいですか。あの、4号タービン地下にある水を汲み上げたいんですが、大物搬入口のシャッターを壊さないと消防車が入らないんで、壊してもよろしいでしょうか。
(略)
もう津波が来て、下のほうはすでにつうつうになっているような穴があいているんで。
1F吉田所長 あっ、それだったら、もういいや、うん、しょうがない。
オフサイトセンター武藤副社長 しょうがないじゃねえーかよ。
1F吉田所長 うん。
オフサイトセンター武藤副社長 下、つうつうになっているんだろう?もう。


■大物搬入口は大きな機器の出し入れの際に使うシャッタ一付きの入り口。事故時はシャッターを閉めておかないと放射性物質が外部に出てしまう。

04:00:09

保安院が、3号機のドライベントラインのベント弁がきちんと開くかどうか確認するよう求めてきたとの報告である。東電本店としては開けてみて閉まらなくなると放射性物質を人為的に外部環境に放出することになってしまうので、受け入れない方針で臨むと説明している。

04:03:16

[本店 開閉試験準備中と回答]
1F吉田所長 基本的にはバルブの開閉は難しいということでいいんだろう?だから、ちょっとね、それは物理的にできるできないの話のほうがあれだと思うんで、ちょっと預からせてください。
本店 現場では難しいということでしょうか。
1F吉田所長 ごめん、いまねぇ、その話はその話でいいんだけれど、ちょっとさちょっとさ、ちょっとプラントのほうが緊急なんで、ちょっとそちら、別の所でやってもらうとありがたいんだけどさ。

ダウンスケールしちゃったじゃん、水位が。うぇ!

06:24:46

1F吉田所長 急激だな。これほんと、要注意なんだよ、6時からさ、6時から6時半……20分の間に50、50、50キロ上がってるでしょ。 20分で50キロだろ、10分で25キロだろ?こんなもんもうあれだよ。7時前までにさ設計圧力超えちゃうよ。ほんで、あれじゃん、あれがダウンスケールしちゃったじゃん、水位が。うぇ!小森さん!


■3号機の炉水位が下がりすぎて測定できないことを示す「ダウンスケール」になっていることに気づいた吉田所長は、思わず「うぇ!」と言う。


本店小森常務 はい。水位がダウンスケールしてる?
1F吉田所長 うん。これね、もう危機的状況ですよ、これ。
本店小森常務 えっ、水位がダウンスケールしてる。おい、あのー、保安院に、保安院、官邸にドライウェルの圧力が上がって。

06:39:15

■吉田所長は、福島第一原発からの総員退避も考えなければならないレベルにすでになっているかもしれない、と説明している。

07:49:21

保安院が、3号機への海水注入が止まって格納容器の圧力が上昇していることについて、報道各社に情報を流さないようにしているとの報告である。安定的に注水することができず、外部環境に大量の放射性物質をまき散らすドライベントまで計画されている事実は、こうして官邸と保安院により伏せられることになった。

08:40:33

福島県が、9時開始のマスコミ取材ありの部長会議の場に、3号機の格納容器の圧力が異常上昇したとの報道発表文を出すので、それまでに報道発表するよう求めてきた。一方、東電は官邸と保安院にこの件は報道発表しないように求められている。どうしましょうかという問いかけである。
(略)
[色々相談の後]
本店 じゃあ、まず、官邸に告げ口、官邸に告げ口。県からこう言われて困っていると。

08:54:00

福島第二原発の増田所長が「途中での積み替え」を要求しているのは、ユニックがガソリンを積み込んだまま福島第一原発に入ると、放射能に汚染されて、もうそのユニックは福島第二原発に戻ってこないと考えているからである。

オフサイトセンター そんなもの出しちゃっていいよ。
オフサイトセンター武藤副社長 タイヤだけ、タイヤだけ外したらいいんだろ。 

自衛隊はあんまり当てになんないなあっていう感じです。

08:57:00

本店総務班 それで、要するに退避地域の中に入っていくということに対して、いわば民間の会社の人たちは当然、拒否を始めてるんです。それからそうなるともう、うちの人間しかいないよねと。今のはうちの人間が入るためには、じゃ今度大型車両の運転免許がないと運転できませんので、それを探すのがまた、大変な騒ぎになると。(略)それでじゃあ、自衛隊に頼むかっていうのも、いま自衛隊もですね、そういう所に行くことにものすごい拒絶反応がありまして、それでいま官邸を通してやってはもらうんですけども、現実には現場の部隊の班長の判断になりましてですね、自衛隊のですね、それで結局、行かせられないみたいな話になっちゃうというような状況にいまあるということで、いま、政府のほうに要求してあるのは、いま、小名浜の所まで来てるということは分かってきてるんですけども、そっから先をどうやって運ぶかっていうのをですね、いまちょっと検討してると。自衛隊はあんまり当てになんないなあっていう感じです。

09:08:00

■4号機の燃料プールは不幸中の幸いで、すぐ隣の原子炉ウェルとDSピット(機器仮置きピット)にあった大量の水が偶然流れ込み、冷却に成功した。震災発生前の3月7日のシュラウド交換工事が治具の寸法違いで延期になったことから、普段は水がない原子炉ウェルに水が張りっぱなしになっていて、何らかの原因で仕切りがずれて、燃料プールに流れ込んだ。シュラウド交換工事が終わったら、原子炉ウェルの水は抜かれる計画だったので、工事が延期になっていなければ、4号機の燃料プールは空焚きになっていた可能性が大きい。

報道発表を東電に求めていた福島県

09:37:20

本店 すいません。先ほどの圧力高の話、作業員一時退避としてNHKに放送されているようです。
(略)
本店小森常務 これ、テレビにこんなのが出ててね、プレスもされてなくてあんまりしゃべれなかったっていうのは県としては印象悪いでしょうね。
本店石崎部長 ええ、これは相当悪いと思いますよ。県知事のスタンスは県民の安全を守るという観点で情報を出さないのはけしからんと、こういうスタンスですから、後々ちょっとつらい立場になることは間違いないですね。


■(略)福島県は報道発表するよう東電に求めていたのに、国に押し切られ諦めていた。そのような中での報道なので、県としては住民への情報伝達がなっていないということで大変であろうという議論をしている。

10:43:12

本店高橋フェロー 官邸けっ、官邸けっ、電話中なの?
1F吉田所長 いやいや、何を言ってるか、官邸ケンテイなに?え?
本店高橋フェロー 官邸の決定指示事項というのが武黒さんからありました。で、それでえーと、3号の冷却を10tで継続して、残りを、1号を優先して冷やせと。


■1号機、2号機、3号機への注水方針を官邸が決めたとの報告である。福島第一原発の現場では1号機への注水は現時点で不要との考えだったが、官邸は1号機にしっかり注水することを求めている。

11:01:45

1F吉田所長 本店、本店。大変、大変です。3号機、多分水蒸気だと、爆発がいま起こりました。


■縦揺れが起きたとき吉田所長は何が起きたか、すぐにはつかめなかった。水素爆発でなく水蒸気爆発と言った根拠は不明だ。
(略)


本店小森常務 あと、現場の人、退避、退避。現場の人、退避。
1F 全員、現場から==。

東電拡散予測を伏せる

11:17:24

本店清水社長 そうすると、2号もあれか。
本店小森常務 あと2号も……
本店高橋フェロー あの、気をつけなきゃいけない。今はまだそうじゃ==
本店 海側をいま煙が行ってますね。
本店小森常務 海側ね。
本店 ここで本部にお諮りしたいと思います。この件ですね、事前にですね、シミュレーションしていますけども、その内容について説明するかどうか、外部に対して、官邸とか、そういうことをお諮りしたいと思いますけども。


■東電は放射能の拡散予測をしていながら、官邸や住民には知らせていなかったことが、この会話から分かる。

次回につづく。