福島原発事故 東電テレビ会議記録

最初は会話記録の方を中心に引用するつもりだったけど、一部だけ切るとなんのことか伝わりにくいので結局編集者による解説文が中心に。
[■のついた文章が、編集者による解説]

福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録

福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録

  • 発売日: 2013/09/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

  • 3月13日

注水手段をすべて失う

03:53:49

■非常用冷却装置の中でも最後の切り札とされるHPCI(高圧注水系)を運転員がとめてしまったとの報告である。その時刻は後になって2時44分ではなく、2時42分と判明している。(略)HPCIの再起動を試みたが、直流電源を喪失していたためか動かず、注水手段をすべて失う最悪の事態に陥った。そのことを吉田所長は、この時刻になるまで知らなかった。

04:26:11

■(略)[HPCI停止で]冷却手段を失うという重大事象を、東電本店はこの時点になって保安院(NISA)に伝えることにした。バッテリーの見込みがないということはHPCIの再起動を断念したことにほかならない。

04:58:10

本店 3号は、HPCI、RCIC、だめで炉水が見えないということで15条に該当しませんか。


■原子炉の冷却手段を失い、炉の水位も不明なら、原子炉災害対策特別措置法第15条に該当するので、通報が必要ではないかとの指摘。
(略)


1F吉田所長 いまさあ、3号機が15条通報に相当しないかって言ってるんだけど、確かに冷却機能も喪失で炉水位が見れないわけだから。不明なんだよ、原子炉水位は不明なんだよ。
(略)


■ワイドレンジ、すなわち広帯域水位計で原子炉の水位が確認できているので、原子炉災害対策特別措置法第15条には該当せず、通報は必要なしと判断した。

05:12:45

本店 微妙なところで分からないけど、4時間だっけ、それまでに格納容器圧がラプチャーまで達さなければベント前に炉心損傷ということになっちゃうんだね。


■炉心損傷が始まった後にベントすると、大量の放射性物質が外部環境に放出される。それまでにベントしなければならないと考えている。


(略)
本店 分かった、だけど、いまやりに行かないとまた、線量が上がると1号の二の舞だからとにかく開けるんだな、バルブ。それでいい?


■3号機はあと1弁を開けたらベントラインが完成する状態にしてあると考えられている。放射線量が上がってしまうと、最後の1弁に近づけなくなり、1号機のときと同様に開けられなくなってしまうので早く開けようと話し合っている。

05:15:05

本店高橋フェロー 7時半、それまでにはバルブを開けに行かなきゃだめだよね? だから線量上がっちゃうから。じゃ、もうさっさとやるんだ?
1F吉田所長 もう、やろう。
本店 やりましょう。

05:15:30

本店 1Fさん、ベントライン、まだそこまで急がなくていいから、まだ格納容器のさあー、バイオロジカルシールドだとかがあるので、とりあえずプレスと国の了解をとってからやろう。それでいいよね?


■東電本店の担当者は、ベントは外部に大量の放射性物質をまきちらすことに繋がる場合もあるので、官邸の了解をとることにこだわっている。

核燃料がむき出し

05:56:41

■(略)[2:42のHPCI停止報告が吉田所長に上がったのが03:53]
そのわずか22分後には炉水位がTAF(有効燃料頂部)を割り込み、核燃料がむき出しになり始めていたということになる。
(略)
本店 広報班≪ピー音≫さん?TAFと15条の関係がよれていることに注意。TAF到着と15条がよれてる。時間がね。いま、TAFは4時15分、15条の判断は5時10分、そこ、構えが必要だから認識してください。

06:00:00

1F吉田所長 そうだよ、それだと少しおかしいな、やっぱりな。5時10分に、5時10分に。


■3号機の炉水位の早すぎるTAF(有効燃料頂部)到達に福島第一原発の現場はあわてる。5時10分に水位が見えなくなったとして15条通報を出したこととのつじつまを合わせるため、炉水位をどの水位計で確認していたことにするか調整しようとするが、混乱はなかなか収まらない。

07:04:47

本店保安班 (略)ベントをしたときの放射能の拡散挙動です。(略)気象データについては6時30分現在の福島第二のスタック(排気筒)の実気象を使ってます。これで評価をしますと、現在、南南西の風なので海側に拡散していきます。で、陸側の最大ポイントは1.05kmで敷地内13mSv、海側が北北東で3.26 km ということで16mSv。
(略)
いずれも退避しているエリアになりますので、特段プラスアルファの措置はいらないかと思います。以上です。


■東電はこのように自前のシステムでどちらの方向にどのような放射性物質がどの程度拡散するかシミュレーションしていた。内部で情報を共有して自分たちの退避にも役立てていた。政府はSPEEDIによる放射能拡散予測を公表しなかったが、この東電の予測も住民に提供されることはなかった。

07:17:27

福島第一原発は1号機の爆発以降、一度立ち入ると出る際に除染が必要になることが分かり、必要物資の運び入れがこれまで以上に滞るようになった。福島第一原発の者が外に物を受け取りに行くか、買い出しするほかなくなっていたが、買い出しの際に必要な現金も足りなくなっていた。
(略)
東電本店はここにきて福島第一原発への必要物資の運び込みが何ひとつうまくいっていないことに気づく。福島第二原発に積極的に支援させる必要があると悟る。

07:29:00

1F 資材班。資材班。あの、車のバッテリーを外そうとしてんだけど、マスクがなくて車の所に行けないんで
(略)


福島第一原発に車で通う東電社員の車のバッテリーを外して直流電源として用いる方策は、高放射線量とマスク不足でうまくいかなくなる。

07:57:40

本店 いま本省からなんですけども、なるべくね、早いうちにベンド始めて、水素とかそういったのを蓄積避けたいから、どっちかというと早くラプチャー(弁)を吹かしたいと思ってるんだけども、ドライウェルスプレイって、あんまりそういうことから考えても意味ないんじゃないかって言われてるんだけど。


■格納容器の圧力を下げるために水を噴霧するドライウェルスプレイの実行は、ベントを炉心損傷前になんとか実行させようとラプチャーディスクの早期破損を待ち望んでいることと矛盾することに官庁の人間が気づく。
[結局、ドライウェルスプレイは実施報告から30分経たないうちに取りやめに]

10:01:20

1F 吉田所長 あのね、そのとおり、今回の反省はね、今日やりますというやつを今日やってないんだよ。みんなな。やってるはずだってことになっているから、最後にこんなにギリギリのところまできちゃうんで
(略)
2号機ね。やっぱりそういうさぁ、どこがいまできてないかを共有しようよ、な!


■3号機の収束作業では色々な方策を並行して進めたが、どれもが炉心損傷開始時刻に間に合わなかった。吉田所長はその反省を2号機で生かそうと言っている。

10:18:40

■ガソリンは出荷制限がかかり、800L以上の入手が困難な状況になった。自衛隊も、軽油はたくさん持っているが、ガソリンはあまり持っていないという。
(略)
福島第一原発への物資の運び入れは、一般の運送ではできず、自衛隊頼みになっていることが分かる。

10:51:49

■「特殊武器防護隊」とは、生物・科学・原子力兵器に対応する陸上自衛隊の部隊である。その隊長が給水支援で福島第一原発に入るか入らないかを決める全権を握っているとの説明である。


1F 総務班 (略)要するにいま、退避命令が出てるんで、そこに行くということに対して、[自衛隊が]ある意味非常にセンシティブになってます、そこのところをどういうふうに説明し、納得してもらうか。ここがいまポイントになってまして(略)こういう防護服着れば大丈夫なんだよという説明といいますか、それを官邸にしてくれという話を


(略)
自衛隊への指揮命令権は当然東電にはない。東電は水という事故収束に絶対欠かせない物資の調達をすでに自前で対応できない状況に追い込まれている。

10:57:29

1F 10分ごとにやります。
1F吉田所長 もう10分と言わず、もう、ちょっとなおかつ何か変化があったらすぐに言ってくれ。
1F 了解しました。
1F吉田所長 昨日も、HPCI止まってるのに連絡なかったじゃない。2時24分(2時42分の誤り)にさ。
1F 分かりました。
1F吉田所長 あういうことないように。3号で。


■吉田所長は、13日2時42分にHPCI(高圧注水系)をとめたことをすぐに自分に報告しなかったことを責めている。 HPCIの停止がこの日の3号機危機の最大のきっかけとなったのは間違いない。


(略)
広報班 (略)あと、日曜日の朝のテレビ局の報道ぶりが非常によくないという情報が入っておりまして、とくにTBSの関口宏サンデーモーニングでですね、東京電力は何もやってないというような言いっぷりが出されたようですので、営業ルートでいますぐ抗議しております。
(略)


■TBSへの抗議の伝え方が、広報部ルートでなく営業ルートというところが東電らしい。お金の力で報道を押さえつけようという考えが、この大事故の最中にも湧き出ていたことが分かる。

3号機が爆発する

14:42:30

■3号機が爆発する可能性があることを、保安院や官邸に伝えるだけでなく、報道発表もして住民に知らせることで3者は一致する。
(略)
本店高橋フェロー やっぱり、水素の爆発はちょっと非常に心配されるよね。ということで、今のようなことを言っておくということで、1Fとしてもよろしいですか。
1F吉田所長 それは全然かまいませんが、それより、それを起さないようにするにはどうするかを、もっとよく考えたいんですけどね。

14:45:35

1F (略)非常に乱暴な意見ですけど、ブローアウトパネルは無理なので、近づくのは無理なのであれば、上のほうから天上へヘリコプターで来て、何か突き破らせる、使用済み燃料が多少あったって、使用済み燃料の比じゃなく、インベントリ(内臓している放射能量)出てるわけですから、そちらのほうを選択する余地もあるかと思います。
(略)
1F吉田所長 これとくにですね、3号に水を入れている連中がこの真下で作業しているんで、非常に危ない。
柏崎横村所長 ぼくは、ヘリコプターのやつは賛成だけどね、風向き見て。(略)爆発するかもしれんけども……。
本店 コントロールできるってことですね。
柏崎横村所長 うん、そうそうそう。爆発はするよ、でも風向きがよきゃね。ただし、昨日の映像をよく注意して見ておかないとだめだね。どれ位の高さから落とさないと。


■ヘリコプターから何かの物体を落として3号機の原子炉建屋の屋上に穴をあけるとの案が出る。柏崎刈羽原発の横村所長は風が海に向かっているときを選んでやれば陸側への放射性物質の拡散は抑えられるから、たとえその結果、爆発が起きてしまっても、その方策をとるべきだとの意見を述べた。

14:53:50

本店 高橋君、荒唐無稽だけどさ、自衛隊に頼んでさ、火器でパネルをぶっ飛ばしてもらえば?海側から。
本店高橋フェロー いや、それね、なかなか考えたんだけど、下に大事な物がいっぱいあるのよ。
本店 だって、どの道、吹っ飛ぶぜ。
本店高橋フェロー いやいや、下は吹き飛ばないから。
本店 いや、だから、上だけ。
本店高橋フェロー だから、上だけうまくやる、吹き飛ばす方法というのは、上から何か落とすとか。
本店 落とすんだったらさぁ、ヘリコプターがすっ飛んじゃうかもしれないから……。

次回につづく。