前日のつづき。
- 作者: エリックラックス,Eric Lax,井上一馬
- 出版社/メーカー: 清流出版
- 発売日: 2010/09
- メディア: 単行本
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[リチャード・シッケルが]僕の映画の観客はある時点で僕から去っていったと書いていたんだけど、それは彼としては珍しく間違っていると僕は思うんだ。観客が去っていったんじゃなくて、僕が彼らから去ったんだよ。彼らにはとっても思いやりがあるから、もし僕が彼らとの契約を最後まで守っていたら、彼らは僕のもとを去る気配など微塵も見せずに、いつの間にか愛情に溢れた思いやりのある観客とは別のものになっていたことだろう。だから僕はみずから違う方向へ進み、その結果、当時の観客のかなりの部分が裏切られたように感じて気分を害したんだ。僕が『インテリア』とか『スターダスト・メモリー』を作ったのが彼らには気に入らなかったんだよ。
(略)
多くの人たちはいまでも、僕の絶頂期は『アニー・ホール』や『マンハッタン』の時代と思っている。そうした映画が彼らの心の中で暖かく迎えられているのはすごく嬉しいけど、その考えは間違っている。『夫たち、妻たち』『カイロの紫のバラ』『ブロードウェイと銃弾』『カメレオンマン』、さらには『マンハッタン殺人ミステリー』『ギター弾きの恋』といった映画のほうがずっと優れているんだ。
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僕だって昔は自分の作品について書かれた批評は読んでいたんだけど、ある時点から完全にやめてしまったんだ。だってあまりにも馬鹿ばかしすぎるんだよ。自分が喜劇の天才だとか反宗教的だと言われている文章を読むなんて馬鹿げているよ。ナンセンスにもほどがある。
スン・イが僕を解放してくれたということは言えるだろうな。もっと若いときに彼女に会いたかったよ。(略)
これ以上ないくらい滑稽で馬鹿げたやり方で偶然に、僕とはほとんどと言っていいほど共通するものがない若い朝鮮系の女性とぶざまな形でよろめくように関係を持つようになって、それが魔法のようにうまく行ったんだ。(略)学習障害を持つ子どもたちへの特殊教育の分野で修士号を持ち、『アニー・ホール』どころか僕の映画の四分の三はまったく見たことがなくて(笑)、昼はツナチーズサンドでいいという女性と、僕はいったいどうなってしまったのかということさ。
あれは僕にとって何の得るところもない体験だった。僕はイギリスヘ行ってゲストとして滞在した。日当がよかったので大儲けさせてもらった。(略)[暇だったので]来る日も来る日も来る日も、夜の九時から朝の八時までぶっ続けでポーカーをやった。(略)ヒルトン・ホテルの一室でやったこともあったな。当時はむこうで『特攻大作戦』の製作中だったんで、その映画に出ていたリー・マーヴィンやチャールズ・ブロンソン、ジョン・カサヴェテス、テリー・サヴァラスなんかとよくやったな。あの町にいた人間はみんなやっていたよ。ハワード・コセルなんかも取材に来てやっていたし、映画のプロデューサー連中もやっていた。誰も彼も、ウィリアム・サロイヤンもやっていたな。
リハーサルの合間を縫ってキートンと夕食を食べにいったんだ。その夕食がすごく楽しかったので僕は思ったんだよ。なぜ明日別の女の子とデートする必要がある。いったい何を考えているんだ。この子こそ素晴らしいじゃないか、最高じゃないか、とね。それでも結局翌日は別の女の子とデートに行ったんだけど、二度と電話はかけなかった。
で、ワシントンで芝居の初日を迎える頃には、僕らはお互いのことを真剣に考えるようになっていた。でも、一緒に行動したりしなかったりで、まだ半信半疑だったんだけど、僕が『バナナ』の撮影で海外へ行くことになったからお互いに結論を出さざるを得なくなって、結局、一緒にいることになったんだよ(微笑)。彼女が僕と一緒にプエルトリコに来て五か月間デルモニコス・ホテルで一緒に暮らして、その間に僕のペントハウスの改装工事をしてもらって、それから二年間そこで一緒に暮らしたんだ。
(略)
僕とダイアンとの波長はだんだんよくなっていった感じだな。舞台の外でと同じように舞台の上でもしっくりいくようになったんだ。(略)
キートンとは、関係が深まって彼女のことをよく知るようになるにつれて特別なものになっていったんだ。
でもね、僕がキートンと一緒に映画に出たのは、しばらく別れて住むことにしてからなんだよ。付き合っていたときに一緒に映画に出たことはないんだ。そのときはもう彼女は別の人間と暮らしていたんだ。
ミクロの精子圏を冒頭にすればよかった
ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう [DVD]
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降下準備を整える落下傘部隊をパロって、ウディを含む多くの精子たちが準備を行っている)。その点をポーリン・ケールにたずねると、彼女は「あれはすごく面白いわよ。あの映画の問題はむしろ、そのあとを続けるのがしんどくなることね。最初がよすぎるから」と言った。会社側は「まだ変えられるよ」と言った。で、僕はみずからの直観に反して、冒頭のシーンを宮廷の道化師に変えて、精子を最後に移したんだけど、そうするべきではなかったんだ。やっぱりあの映画は精子で始まって、巨乳で終わるべきだったんだよ。あれ以来僕は自分の臆病な間違いをずっと後悔している。みずからの直観の女神を裏切ったんだから、何を言われても反論できない。
(略)
「インテリア」のあとはしばらく誰も関心を示してくれなかった。だからコメディ路線を続けることにしたんだけど、僕が本当にやりたかったのは、あの映画のイタリア語の挿話でやったような風刺だったんだよ。
陰鬱
『インテリア』は人生に対する僕の思いを表現している。われわれは寒々として空虚な虚無の世界に生きていて、芸術に救いはなく、人間のほのかな温もりだけが救いだ、という僕の思いをね。(略)『重罪と軽罪』では、この世に神はいないから犯罪を犯しても逃げ切れる様を描いた。自分以外に自分を取り締まる人間はいない、ということをね。『カイロの紫のバラ』では、前にも言ったように僕の思いは、人間は現実と空想のあいだで選択を迫られ、そこでは当然現実を選択しなければならず、現実は常に人間を打ちのめす、ということだった。『インテリア』では、人がお互いに対していかに冷たく心が通じ合わないかという思いと、人生も死も悲惨で、救いはどこにもない、という思いが色濃く反映されていた。これをみんな合わせれば(クスクス笑って)陰鬱だよね
子供時代は映画を見て現実逃避し、
自分の作りたい映画も作れるようになったから、美しい女性たちや機知に富んだ男たちと、劇的な状況と衣装とセットから或る非現実の世界に一年間暮らして、現実をごまかすこともできた。(略)そう、それからときには何人かの女優とデートすることもできた。それに優ることが何かあるだろうか。僕は、観客の側ではなく、カメラの向こうの映画の世界に逃げ込んで生きてきたんだよ(間)。皮肉なことに、僕は現実逃避者の映画を作って、それによって現実を逃避できたのは観客じゃなくて、僕だったというわけさ。