イギリス近代史講義

イギリス近代史講義 (講談社現代新書)

イギリス近代史講義 (講談社現代新書)

  • 作者:川北 稔
  • 発売日: 2010/10/16
  • メディア: 新書

17世紀晩婚化

イギリスは17世紀には明らかに単婚核家族化、工業化以前で庶民が20代後半で結婚というのは他地域と比較してかなり晩婚。14歳前後からワンランク上の家に7〜10年奉公に出てその間は独身。

子どもは、14歳くらいで実家を離れると、住み込んだ先の子どものようなものとして扱われます。相続権などはありませんが、10年間くらい住み込んでいると、われわれの感覚にくらべて実の親との関係が薄くなっていくことが考えられます。家族史の常識として、イギリスではこういうライフサイクル・サーヴァントを終えて結婚をするというときに、親元に帰って、親と一緒に住むというかたちがありません。そういうスタイルがないから、三世代家族がないのです。このように話はすべて整合しています。
 結婚して新しい家族をつくることができるのは、10年くらい資産を貯めていたり、資格を獲得していたりするからです。このかたちは、現在のわれわれの高学歴社会によく似ています。
(略)
 元の親の家はどうなるかというと、高齢者夫婦だけになるか、むしろ多くの場合はどちらかが欠けてしまい、独居老人になります。こうしたことから、イギリスの近世社会には独特の救貧問題が発生します。
 17世紀のはじめに、エリザベス救貧法とよばれる法律が出されます。(略)資本主義が発達したからだと、かつては説明されてきました(略)むしろ、いまお話ししたような家族の構造に非常に関係があったと考えられます。

「家族継承財産設定」

[全国的に適用されるパブリック・アクトに対し]
個人の権利や所有権に関わることを、議会が決める場合にプライヴェイト・アクトが適用されます。たとえば、誰か特定の人の土地を囲い込むといった場合はプライヴェイト・アクト、一般に、囲い込みを全国的に禁止するというような規定の場合は、パブリック・アクトになります。(略)
 プライヴェイト・アクトのなかで一番多いのは、地主の当主が放蕩で財産をなくしてしまうと一族が困るので、地主の財産が分散しないようにする法的措置で「家族継承財産設定」(略)
現在の地主が、一族の土地を、たとえば未成年の孫に譲る。そして孫から現在の地主が借地をする形式をとります。こうすると、当主は借地人になってしまうので、この土地を売ることはできなくなるのです。極端な場合は、長男が結婚をするときに、いずれ生まれてくるはずの孫に譲るというようなことがおこなわれました。藁人形を孫に見立てて、その孫に譲るという儀式的なことをしたという話もあります。しかし、その孫が成年になれば、所有権が発生しますから、孫が売り飛ばしてしまう可能性が出てきます。そこでまた継承財産設定をやりなおすのです。

ドックランド

かつてロンドンの港はどこかという大論争がありました。(略)言い換えれば、ロンドン港で荷物の上げ下ろし、つまり、荷役をする特権をもっている人夫たち――シティ・ポーターといいます――の特権が、どこまで有効なのかという問題でした。(略)
[19世紀初頭ロンドン港は交易量が激増し大混雑、窃盗も多発、シティ・ポーターの非能率が大問題に]
荷主や海運業者はたまらないので、シティ・ポーターを使わずに荷役をすませる合法的な手段を模索
[テムズ川から水をひいて各自所有地に「ドック」とよばれる大型船を係留できる「プール」をつくった] 
ポーターが特権をもつ「ロンドン港」ではありません。こうして広大な土地にひろがった水面こそが、今日、ドックランドと言われている場所です。