「巨人の星」
[担当P・佐野寿七談]
岳夫さんは3種類のピアノスケッチを書いてきてくださったんですよ。Aパターンはテンポの速いマーチ風、Bパターンは童謡に近い従来の子供向け、Cパターンはテンポを無視した旧制高校の寮歌風。僕らは迷わずAと答えて、岳夫さんは一週間でテーマ曲「めざせ栄光の星」を書き上げました。社内の反応も良く、巨人軍の広報からもOKをもらったんです。ところが肝心のスポンサーからNGが出ちゃったんですね。(略)
「ウチは日本酒が好き。でもこれはスコッチウイスキーだ」と。自分たちが求めているのは「蒙古放浪歌」だと言われました。[わざと野暮ったく作って、OKに](略)
丸山明宏(現・美輪明宏)さんに歌ってもらったりもしました。
「キャンディ・キャンディ」
[堀江美都子談]
レコーディングの日に、先生がスキップしながらスタジオに入って来られたんですよ。本当に。どうしちゃったのっていうような感じで(笑)。あとで聞いたら明け方に曲ができたらしいんですよね。ハイになられてたみたいで。「ミッチ、これはね、100万枚売っちゃうからね」って言って。
松山祏士談
僕と先生との間柄は師弟関係という感覚ではなく、早い話が共同経営者だったと認識しているんです。メロディーというものは、霊感で生まれるもので、それはたいへんな才能だから、僕のような外野がどうこう言えるものではありません。ただ、こちらのテリトリー(アレンジ作業)に入って来られたら、それについてはこちらに任せて欲しいというところがありました。そこは先生も承知されていましたね。
(略)
岳夫先生の書くメロディーは、とてもオーソドックスなんです。先生は出身がドラムでしょう? でも、それを人から言われるのがいやだったんですよね。先生がお書きになる譜面には、絶対にシャープやフラットがつかないんです。これは褒め言葉で言っているんですけれど。
いわゆる「ハ長調」なんてすね。でも、あのお方の「ハ長調」というのは、普通の人がいうところのそれとは違って、無駄なものを削ぎ落としていった先の「ハ長調」なんです。メロディーにつく和声も常識的な三和音じゃないということがわかって、一時期どうアレンジすればいいか悩みました。
それで、「ここ、(和声の重なる順序を)こうしたらどうでしょう?」と聞いたら、「いや、違うんだよね」とくるから、違うというなら具体的なものがあるだろうと思って「どうしたらいいんでしょう」と聞き返すと「それを考えるのが、あなたの仕事でしょう」とこうくるわけなんです(笑)
(略)
メロディー譜に関しては岳夫先生が責任をもつわけです。ところが、メロディー譜だけでは、一般的、商業的な価値を生むような商品にならなかった(略)レコードとして音源を確立させるには現場の色々な葛藤がある。その最終的な責任は僕がとらなくてはならなかったわけです。それこそトラックダウンも含めてね。(略)
録音のディレクションは僕もやっていましたが、最終的に営業をやってテレビ局と話をつけられるのは岳夫先生でしたから、やはり実質的なプロデューサーは僕ではなく岳夫先生です。
岳夫の父・浦人は直純の父の弟子で、直純は浦人の弟子。岳夫は自由学園になじめずすぐ大泉中学に転出したのだが、その理由のひとつがピアノを自在に弾きこなす直純の存在だった。
この頃の山本への、そしてピアノに対するコンプレックスは、その後も岳夫の中でしばらく尾を引いた
1979年「テレビ映像研究」
フジテレビ・嶋田親一との対談
嶋田 ご存知の通りお父さんが渡辺浦人先生で、僕は実は浦人先生の方と先にお仕事をさせて頂いたわけで、非常に恵まれた家庭ですよネ。
ここから渡辺岳夫論になってくるんだけど、この人はこの家に生まれていながら最初は作曲家を志望していなかった、ここらあたりが僕は、テレビというメカと渡辺岳夫という人間が、非常にいい形でフィットしたポイントじゃあないかなと思えるんです。だからこの人は物事にのめり込んでいきながらフッと冷静に見ることが出来るという
渡辺 僕は素人だという意識がずーとあるんでネ(略)音楽学校にも行ってないしネ別にそんなことひがんで言ってるんではないけど、もともと、音楽というものは全くわからなかったし、結局やることがないから音楽をやっちゃっただけでネ……。自分の中で、駄目だなという意識が何時も頭のどこかにありますヨ。
直純なんていうのは音楽なんてもう手の内なのね………(略)
僕は怖いんだネ、いまだに怖い(略)こんなものでいいのか? ということで怖い。突然、コン、コンと抜けている部分、欠落しているものがあるようでね。(略)もっといけないことは[自分で作った曲以外は]ピアノも弾けないし、ギターも弾けないでしョ……。
(略)
渡辺浦人という作曲家の息子だから、生まれた時から天才教育を受けてもうピアノは弾ける、作曲は出来る、なんでも出来ると受け手は思っていたらしいけど、こっちは何も出来ない。
[テレビの現状批判]
渡辺 病根は深いヨ。(略)少なくとも文化事業であるということ、それに免許制ですよ(略)
視聴率の問題にしても、あらゆる問題にしても僕らのところに聞えすぎるヨ。一つ一つのもっているセクションがみんな垂れ流しのように下に流してくるんだ。だから自分のもっている仕事の一番大事な部分というものは、みっともないから下には流せないという、当然咀嚼していく部分というものがあるべきなんだヨ。
[低報酬批判]
渡辺 劇伴は賤業なんですネ。(略)ブッチャケて言いますとネ、貴方のフジテレビが開局した時、30分の僕の作曲料は1万5千円だった。いま20年たって60分番組の作曲料が8万円ですヨ、月に4本やって32万円。(略)
8万円の作曲家なんだよ、46才にして。もっとやすい人もいっぱいいる。(略)
テレビ映画の僕らの作曲料なんてものは1本3万円から4万円、1クール(13本)1回録音して39万か40何万ですヨ。(略)
嶋田さん、喰っていけないんだから……。まあ僕みたいに3本も4本もやっていてこの通りなんだからネ。(略)
何故喰べていけるかというと[アニメ主題歌レコードの印税のおかげ]
(略)
やっぱり“ハイジ”が外国で売れたのは嬉しかったですネ。実数80万枚いったんだから。
「アルプスの少女ハイジ」
[担当P・高橋茂人談。イスラム圏にも売れるよう]
ハイジの心を支えている宗教色をなくし、誰にでもわかるようにとようにと、視覚化できるものを考えました、その結果、ハイジとおんじが暮らす山小屋の後ろに、大きなもみの木を植えたわけです。(略)そういえば、あの木を何本にしたらいいか、岳夫さんと話し合ったことがあったなあー。風が吹き抜けるときに出る音は、木を何本にすればもっとも効果的かって。結局、三本にしたんですが。