オバマ自伝・その2

前日のつづき。

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝

オーガナイザーを諦めかけた頃に話が来て、シカゴへ。黒人のハロルド市長が当選したばかり。
最初の仕事は名簿に載っている人々の聞き取り調査

[ボスのマーティは報告書を読み]
「ああ、悪くないぞ。だんだん人の話を聞けるようになってきたな。でもまだ抽象的すぎる……世論調査か何かみたいだ。人をまとめたいなら、細かいことに気を取られず、もっと相手の核心に迫らないと。人の心を動かす何かだ。そうしないと、この人になら協力してもいい、と思ってもらえるような人間関係は築けない」
 だんだん彼の言っていることに腹が立ってきたので彼に質問をぶつけた。そんな考え方は、あまりに計算高いと思わないか? オーガナイズするためだけに他人の心に足を踏み入れて信頼関係をつくろうとするのは、人を操作する行為に等しいのではないか、と。彼はため息をついて答えた。
 「バラク、俺は詩人じゃない。オーガナイザーだ」
 どういう意味だ? 私は嫌な気分のまま彼の部屋を出た。だが、マーティーの考えが正しいと認めざるを得なかった。

教会の数だけ信仰があるのだ。リンカーンメモリアルの前に集まった群衆や、軽食堂のカウンターにいるフリーダムライダーたちなど、黒人公民権運動を象徴する人々の時代のように、さまざまな信仰が一つになる時があるのかもしれない。だがそんな瞬間は一時的で不完全なものだ。目を閉じて、同じ祈りの言葉を唱えていても、心の中ではそれぞれが自分の信じるものに対して祈っているにすぎない。私たちは自分の記憶の中に閉じ込められたまま、そのおろかな魔法にしがみついているのだ。

ボスのマーティについていけないというメンバー。そのときオバマは窓の外の少年達を指差し

「あの子どもたちの未来はどうなると思う?(略)
もう疲れたと言ったよね。ほとんどの人が同じように、もう疲れているんだ。だから彼らの未来がどうなってしまうのか知りたいと思っただけさ。彼らがまともな暮らしができるようにしてやるのは誰? 政治家? ソーシャルワーカー? ギャング?」
 自分の声が次第に興奮してきているのが分かったが、私は止めなかった。
 「仕事が欲しくてここに来たわけじゃない。ここに来たのは、地元の環境を変えようと真剣に努力している人たちがいるとマーティーに聞いたからだ。過去に何かあったかなんてどうだっていい。分かっているのは今、私がここにいるということ。そしてみんなと一緒にやっていくことに全力を注いでいるということなんですよ!もし問題があるなら、それを解決しようじゃないか。私と一緒にやってみたが何も変わらなかったと言うなら、もう辞めてくださいと私のほうから言いますよ。でもみんな、今辞めるつもりなら、私の質問に答えてください」

学校改革

[最大の問題は]教会のメンバーの大半が、教師、校長、地域の教育責任者で構成されているという事実だった。教育関係者たちは学校の実情を知っていたので、自分たちの子どもを公立学校に行かせている人はほとんどいなかった。(略)
「バラク、悪い子どもなんていないかもしれないけど、悪い親というのはいるんだ」
 こんな会話は、1960年代から我々が作ってきた暗黙の妥協点を象徴しているかのようだった。(略)
「まず知っておかなければならないのは、公立学校とは黒人の子どもを教育する場ではないということです。一度もそれが可能だったためしはない。都市部の学校の目的は、社会の管理です。目的はそれだけ。留置所のような運営がなされている。小さな刑務所みたいなものです。黒人の子どもたちが自分たちの檻から飛び出して、白人の邪魔をするようになった時だけ、やっと彼らは黒人の教育問題を考えるようになる。

学校改革予算のめどがついた夜、アパートの外で車に乗ったボーイズが大音量、他所へ行けよと行ってもきかず、いきがっていた自分の青春時代を回想

一つ重要な違いがあった。それは、私が難しい思春期を送っていた頃の世の中は、もっと寛大だった、ということだ。しかし今、この子どもたちには失敗する余裕がない。たとえ彼らが銃を持っていたとしても、その銃は彼らをその真実から守ってくれはしない。そして、この少年たちを始めとする若者たちが、かつては持っていたはずの他人への共感を失ってしまったのは、その真実のせいなのだ。そのことを、もちろん彼ら自身も察してはいるか、それを認めることはできない。生きていくには、認めるわけにはいかない。(略)
きちんとしなければと思う心は、心の中の罪悪感や共感に関係がある。つまり罪悪感や共感を持つことによって、自分には何らかの秩序が必要だと思う意識が生まれるのだ、と考えている自分に気付いたのだ。その秩序とは、必ずしも既存の社会的秩序というわけではなく、もっと根源的でもっと厳しいものだ。そして罪悪感や共感は、さらに、その秩序を守らなければならないという感覚を生み、その秩序が時々不安定に見えることはあっても、この世からなくならないでほしいという願いへと繋がっていくのだ、と。私の目の前にいる少年たちが、恐怖や嘲笑の対象ではなく、まともに彼らを受け人れてくれる秩序を獲得するまでには、きっと長く苦しい道のりを歩まなくてはならないだろう、と思った。そしてそう考えると、私は恐ろしくなった。私には既に自分の居場所があり、仕事を持ち、こなすべき予定もある。そうではないと信じたくても、私と目の前の少年たちの間には大きな隔たりがあり、私と少年たちは別世界に住み、別の言葉を話し、異なる規則に従って生きている。
 車のエンジンがかかり、タイヤの音を立てながら彼らは走り去って行った。私は、自分の愚かさと幸運を噛みしめ、結局は私も彼らを恐れているのだと実感しながら、アパートの部屋に戻った。

はじめて亡き父の故郷、ケニアに。
博士号を取りケニアに帰国した父は成功するが、やがて政変でブラックリストに、仕事を干され、水道局で雑用の仕事をする羽目に。それでも人から頼られるとなけなしの金をはたく父。そのほか色々ありますが、いい加減メンドーになったので割愛。