ギャスケルで中原昌也

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上記に引き続き、ここまできたら中原昌也となんの接点もなさそうなのを使って中原昌也的になるかやってみることに。
以下の文章・タイトルは全てギャスケル短篇集から引用。

ギャスケル短篇集 (岩波文庫)

ギャスケル短篇集 (岩波文庫)

『墓堀り男が見た英雄』

「ちょっとの間、子供抱いてていただけませんか?」
「いいですよ。これでも昔は子供に好かれてたんですが、今ではこんな悲しい顔をしているんで、おびえてしまうみたいです」

ぼくは一度ある目標を定めたら、一意専心ことに当たることのできる男でした。毎日ぼくは死に物狂いでしたが、その努力も実を結ばず、乱暴で何事も意に介さず、いつでも罪を犯しかねない人間としてしか見なされないという状況は依然として、また今後もずっと変わるはずがないような気がしました。こんなことで、読み書きなんかできて何の役に立つでしょうか? そういった能力など、我が運命に甘んじるためにぼくが押し戻された連中の間では、無視されるか鼻であしらわれるかでした。

ぼくはまた密猟に出かけて行きました。どこに昔の仲間がたむろしているか知っていましたし、どんなに歓迎してくれるか――それはもう、立派な人たちの中へ入って行こうとした時には、とても受けることができなかったような、実に温かい心のこもった歓迎です。

俺もなんとか努力してがんばってはみたさ。でも全部やめちまったよ。いい事だろうが悪いこったろうが、構うこっちゃねえ。生まれつき運の悪い奴がいるもんだが、どうやら俺もそうみたいだ。

声が聞こえる!恐ろしい叫び声が!
声が聞こえ始め、どんどん大きくなって、耳一杯になりました。
突如として東の扉が、まるで激怒のあまり無理にこじ開けられたかのように、一大轟音とともに崩れ落ちました。

それからというもの、ぼくの人生は一変しました。執念に取りつかれたように狂信的になったのです。ぼくは自分と関係のある者に対してしか、哀れみの心を抱きませんでした。自分と考えの異なる連中に対しては、虐げる力さえあれば、きっと虐げていたことでしょう。ぼくは禁欲主義者になり、ことごとく物質的な快楽を退けました。ありとあらゆる禁欲を行なえば、神様は思うままに復讐させてくださるだろう、そんなことを時々ぼくは考えていたのです。激情に駆られた言葉を耳にしたネリーは、悲しそうに心を痛めて夜通し眠れずにいたようです。ぼくの恨みつらみと冒涜的な祈りのせいで、彼女がどんなにみじめな気持ちで眠れぬ夜を過ごしたか、ぼくの方もまた、不思議なことにわざと気づかぬふりをしたものです。

彼女は心の中で「我慢だ、我慢しろ!あの男はまだ信頼できるかもしれない」と言い続けた。

『喧嘩はできない。戦ったり暴力を使ったりするのは悪いことなんだ!』

「それじゃあ、君なら英雄というものをどのように定義するかね?」と私は尋ねた。
「ぼくの考える英雄とは、どんな犠牲を払ってでも、これまで抱いたこともない最高の義務感に従って行動する人のことさ」
 「それじゃあ、戦場の英雄でさえ認めるんだね、君は?他人に危害を加えることで証明されるとは、キリスト教精神に反する哀れなヒロイズムだな、そいつは!」

しびれを切らして俺は言った。「死んだかもしれないんだ。おそらく死んでるさ」

女は狂気じみた、にらみつけるような目でベッドの脇に立ち、微動だにせぬ幼子の真っ青になった顔を穴のあくほど見つめていた。

「死んだ!この子が死んだ!もう赤ちゃんには会えないと思うわ!」

 そう言うと、彼女はものすごい叫び声をあげました――途方もなく大きな、かん高い、痛ましい声でしたよ、あれは!それを聞いて気も狂わんばかりになった俺は、馬に拍車をかける代わりに、ナイフを取り出しました。その時の十五分間は、それはもうその後の俺の人生よりも長く思えましたよ。色々な想いや空想、夢や思い出が交錯しました。霧が――気味悪い暗幕のように包み込んで、俺たちを殺そうとする深い霧が。

「死ぬまでずっと半身不随だそうです。
ほらっ!これで話にけりが付くでしょう」彼は不機嫌そうに言った。
「死ぬまでずっと半身不随――」彼女はゆっくりと繰り返して言った。
「死ぬまでずっと半身不随」