フランスと南北戦争

ニューオリンズの「箱入り娘」

ニューオリンズにはフランスの没落した良家の孤児同然のうら若き娘たちが送られた。(略)当然ながら、独身か未亡人女性で出産可能な女性が持参金つきで選ばれ、770人が送り込まれ、人口増に寄与したのである。1663年には約3000人であった住民が、10年後にはほぼ3倍になったという。
 だがニューオリンズでは、こうした「箱入り娘」たちがチョクトー族の野生の美女たちを相手にしていた荒くれ男の冒険家とは合わなかった。絶望、自殺の連続であった。そこで別の策が講じられた。獄中にいる塩の密売女や売春婦が強制的に荷馬車に乗せられ、フランス西部のラ・ロシェルの港町から新世界に送り込まれたのである。

一度スペインに委譲されていた

綿花産業も十分な富をもたらさず、ルイジアナは依然として王国にはとても高くついた。
 1763年、フランス国王はこれを隠密裏に従兄弟のスペイン国王にプレゼントしてしまった。(略)
事態を知ったルイジアナのフランス人は激怒し、スペイン人を船でキューバに追放し、フランス国王に直訴したが、国王は謁見さえ認めず取り合わなかった。一部のルイジアナ人は独立共和国の設立さえ考えたという。だが事態は変わらなかった。(略)
[革命後ナポレオン登場]
ボナパルトは当初、新大陸における格好のフランス基地となるはずのこの領有地がなぜスペインに譲渡されたのか分からなかった。
 だが1796年、彼はフランスとスペインの条約に、ルイジアナのフランス返還を想定した秘密条項があることを知った。1800年、彼はこれも秘密協定(サン・イデルフォンソ条約)によって、この譲渡条項を確認し、イタリアのトスカナ公国と交換にルイジアナを取り戻したのである。ルイジアナはまたまたフランスに戻ったが、今度も誰もことの真相を知らなかった!(略)
[その後、ナポレオンは現在の金額にして3億ドルで廉価売却。その理由は若いアメリカを強化して英国のライヴァルにするためと、翌年の皇帝戴冠式の費用のため]

フランス軍シェルブール北軍巡洋艦と南軍海賊船が対決。

 1864年アラバマ号は伝説的な《raider(海賊船)》だった。二年間、追ってくる連邦軍巡洋艦の攻撃をものともせずに、西インド諸島から東シナ海に至る海域で北軍側の商船隊を恐怖に陥れていたのである。(略)戦争後、合衆国はこのような船の建造を自国で許容したとしてイギリスに莫大な損害賠償を請求した。(略)
[そんなアラバマ号が中立国フランスに修理休養のために寄港していたら北軍の重装甲艦キアサージ号登場、満身創痍のアラバマ号は撃沈]

アメリカ分割はフランスの夢

 このように南北対決の海戦はあっけなく終わったが(略)
英国以上にフランスでは、この戦争で南軍が勝利し、アメリカ連邦が瓦解し、二つの共和国が生まれるのではないかという期待が強かった。当時のフランス外交にとって、アメリカの南北分割は夢であり、大陸を北、南、西と三分割する幻想を抱いた者さえいたという。
 それゆえ、フランス語では、この南北戦争は内戦(CiviI War)ではなく、期待を込めて《Secession(分離・離脱)》戦争と呼ばれている。アラバマ号の沈没とともに潰えたのはこの期待、つまり帝政フランスの秘かな夢でもあったのだ。

マネ『南北戦争を臨むバルコニー』

 さらに興味深いことに、この夢の崩壊、英仏海峡の「源平合戦」を描いた画家がいる。印象派創始者(略)エドゥアール・マネである。おそらくマネは1864年のこの海戦を実際に見てはいないかもしれないが、『南北戦争を臨むバルコニー』と題された絵は、戦い以上に、この戦いに向けたフランスの眼差し、アメリカの内戦に向けたフランスの好奇と期待の眼差しを表わしている

なぜナポレオン三世治下のフランスは南北戦争に熱中したか

中立国フランスで南北両軍の外交官や使節代表が自軍の有利なように宣伝・ロビー活動を繰り広げていた。そして奇妙なことに、パリでは、南軍支特派でありながら奴隷制廃止を唱える者が多数いた。とくに、パリ駐在の南軍のロビイストたちは、奴隷制という「特別制度」(南軍派の婉曲的表現)の廃絶は戦争目的ではなく、北軍による南部支配の口実であると喧伝していたのである。
 (略)カトリック教会の熱意にも支えられていた。だがおそらくもっと強力な理由は、アメリカ南部の住民の半数はフランスの血筋を受け継いでいるという出自の神話であり、また新大陸の植民地戦争に敗れたフランス人のコンプレックスとアングロ・サクソン系の北軍への復讐・対抗心であろう。
(略)
 このように南軍への共感と奴隷制非難が共存するという珍現象のなかで(略)奴隷制維特派の南軍の主張が優勢になり、この戦争は「政治的経済的な」ものであるという言説が定着した。北軍は覇権のため、南軍は独立のために戦っているというのである。(略)
さらには「アングロ・サクソン」と「ラテン」両民族の古典的な対立にまで拡大解釈されてゆく

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