フランス座のビートたけし

著者はフランス座で三年一緒、後にたけしのエッセイの構成ライターに。
フランス座での暮らしや深見師匠の人となりが描かれてます。

幸せだったかな ビートたけし伝

幸せだったかな ビートたけし伝

 

タップを踏むたけし

「ツービート」の前のコンビ名が「リズムフレンド」。このビートへの執着心はw。

青年は首からストップ・ウオッチをぶら下げ、座長の手書きの香盤表と十日間にかけるレコードの束を照明部の私のもとに届けにくるのだ。(略)
芸人にしては驚くほど無愛想で暗い男に見えた。そして、まるで見知らぬ人間と対面するのが苦痛といった落ち着きのなさを残しながら去るのであった。

[深夜に残業をしているとステップが聞こえてきて]
窓から首をのばして見ると、照明を落とした薄暗い舞台の上で熱心にタップを踏む人影があった。
 たけしだった。たけしがひとり残ってタップの稽古を始めているのだった。(略)
[ちょうどいい、照明をいれてくれと言い]
 たけしはニヤッと照れ笑いを浮かべると、ガニ股の脚をひょこひょこいわせ、カタカタとまたタップを踏みだした。
 習いたてなのか足取りもおぼつかなく、お世辞にもきれいなタップ音とはいいがたかったが、なんのケレン昧もなく同じステップを黙々と踏み続けるたけしの靴音は、誰もいない劇場に心地よく響きわたった。

 舞台では相手がたじたじになるほどのヨタを飛ばし、師匠ゆずりのツッコミ芸人を自認するたけしだったが、楽屋ではほとんど口を利かぬ無口で暗い男と評判だった。
 ところが、無口なのは踊り子や同僚の役者がいる楽屋だけで、それは持って生まれた東京の下町っ子の人見知りの性格と、無駄口を叩かない小利口さは育ちのよさからくるものだということが少しずつわかってきた。酒場でのたけしは人が変わったようにしゃべりまくった。

家具屋店員時代

フライデー事件の時、家具屋店員時代の中卒の先輩のような暮らしをやってみたいと語ったたけし

 「可愛いからと思って、バカ野郎が。なあ」なんていってさ。ふられた相手のおねえちゃんを見たら不細工な顔しててさ。店員の世界なんてすごいおかしい世界だよね。で、日曜になると喫茶店へ行ったりして。こうやってタバコ吸っちゃったりなんかして。早朝野球チームへ入っちゃって一生懸命やってるんだよ。
 それで、社員旅行なんかがあると、(家具屋の)旦那と伜と奥さんに娘さんの四人に、オイラと相棒のふたりのトータル六人の社員旅行なんだ。それがまた鬼怒川の川治温泉なんかでさ。浴衣着て乾杯だろ。六人でいただきますなんていってもう異常だったよな。
 ああ、こんな生活もあるんだなって思ってね。喜んじゃってるのは、その先輩のあんちゃんだけなんだから。

浅草時代、たけしが本箱をプレゼントしてやると言い出し、その家具店に行ったことがあった

 埼玉の家具屋に着くと挨拶もそこそこに上がり込み、まるで自分の家に帰ってきたかのような馴れなれしさでくつろいでいたかと思うと、家具屋の息子にも兄弟のような口の利き方をして、私のことを浅草でいっしょに修業中の仲間だと紹介し、
 「古いやつなら、あまってる本箱が一個くらいあるだろう。あったら出せ」
 と、なかば脅し半分に倉庫の中を引っ掻きまわし
(略)
 「じゃあね。こんどくるときは浅草でちゃんとした芸人になってくるから、バイバイよ」(略)
 そんな傍若無人のたけしの態度にも家具屋の親子は鷹揚で、愚鈍にさえ見える家族の対応の仕方にたけし自身がイライラしているのがわかった。浅草へやってくる前の彼の青春の一端を垣間見たような気がした。

きよし登場

仲間の嫉妬か出番激減で失意のたけしの前にきよしが。

 花山の突然のボーイズ結成はたけしにとっては言葉が出ないほど衝撃的なことだったのだ。(略)
 芸人として俄かに頭角をあらわし、浅草の若い芸人仲間からも「フランス座のたけし」といわれてその存在を認知されるまでになったたけしに、深見師匠も花山も少なからず嫉妬し、焦りのようなものを感じたのかもしれない。(略)
[ある事情でコンビ解消となるも大洲演芸場十日間の仕事が入っていたきよしはたけしに声をかけてきた]
「漫才でしょうにィー。俺と組んで漫才をやるんでしょうにィー」
(略)
 「オレが漫才をやるのかよ。師匠は漫才は芸じゃないっていうしな。コントだったら自信あるけど漫才はムリだよ」
(略)
どうせフランス座にいたって花山のやつに舞台を取られてタケの出番なんてないんだろ。深見師匠も花山のボーイズにはやけに肩入れしてるって話だし、フランス座もそろそろ潮時なんじゃないのか。

「リズムフレンド」

渋谷のレストランでの「リズムフレンド」

でもこのレストランはすごいんですよ。なにがすごいって、きのうなんか知ってます? このレストランから食中毒を出したんですから。
それも、ただの食中毒じゃないみたいですよ。赤痢だという話ですからね。
ええっ!? あれは赤痢だったんですか。でもよかったですよ。お客さんは三人しか死んでませんからね。
そうですよ、コレラじゃなくって。……
(略)
支配人からこっぴどく怒られ、二回目にはマイクの電源を切られ、三回目に同じネタをやろうとした二人は当然のごとく店から追い出された。
 たけしもHも無類のブラックネタ好きだったのだ。
(略)
たけしはこの後、きよしさんと三度目のコンビを組み直し、新生『ツービート』として再出発

ブレイク一歩手前時代のたけし

楽屋じゃぜんぜん生意気じゃなかったよ。むしろいろいろ細かく気を遣う人でね。とにかく、たけしのまわりにいると楽しくて面白いから楽屋でも飲みに行くんでもみんなついてきちゃうんだよ。

 「やつは浅草の芸人たちとのつき合い方が特殊だったよ。仲間になっているようで、それでいて芸人の枠にはまらないようにしていたからね。うまいんだよ、年寄りの気に入られ方がさ。怒らせる前にすっと笑いのほうに持っていっちゃうの。それでいて柴犬みたいに可愛い部分をもってるからよけいに怒れないのよ。たけしならしようがねぇやって許しちゃうの」 

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