安彦良和対談集/アニメ・マンガ・戦争

アニメ・マンガ・戦争

アニメ・マンガ・戦争

村上隆

へぼいアニメで現代美術家面の奴に会ってもなあとテンション低い安彦に、ヒルズ職人村上隆がいやーんな商売哲学を語る。

村上 現代美術は不自由です。僕はたぶん、それを理解したから、向こうで成功してるんです。他の日本人がいくら向こうに行っても成功しないのは、「自由なはずなのに」と思うからでしょう。お茶の世界でも生け花の世界でも、フオームがありますよね。そのフオームを一回勉強しきらないと自由に崩す方法がわからないんです。

もののけ姫』を失敗作とし『千と千尋』を評価する安彦に村上ヒルズ哲学が再び。

村上 そうですね。僕の主観ですが、『千と千尋』が心地よい理由は、宮崎さんがプロダクツとしてのアニメーションに移行できたからだと思います。『もののけ姫』はガチンコ勝負というか、楽しいお祭りだったけど現場も含めて失敗しちゃったという気持ちもあったと思います。

鈴木敏夫が世論操作をしたと安彦

安彦 (略)どうも宮崎さんは今回はヤバイもの作っちやったと、たぶん内心思われたんで、先手を打ったんでしょうね、公開前に作家さんや評論家などいろんな人に見せて、”『もののけ姫』について語り合おう”とやったんです。そうすると当然、賛否両論が出たわけですよ。要するに、公開してから「おい、ちょっとまずいぞ今回のは」という話が出るのを先取りしたんです。僕の印象では、先に観た人の感想は三者三様だったんですよ。「今度のは駄作だ」って言う人もいたし、「やっぱり傑作だ」っていう人もいた。あと3分の1は「一見の価値ある。今までとちょっと違う」って言ってたんですね。だからこそ、みんな観なければいけない気になって、ご存知のように興行的に勝ったんですよ。で、日本アカデミー賞もとってナンバーワンになった。日本映画界で。宮崎さんとしておそらく最低の出来だった映画が、結果としてナンバーワンになっちゃった。(略)
『コナン』の有名な水中キスがありますよね。それがほとんどそのままテンションも惨めに下がった形で『もののけ』に出て来る。ああいうイメージの枯渇っていうのは見せない人だったんですよ、宮崎さんて人はね。

脱思想

安彦 それに乗っかって言わせてもらうと、『ガンダム THE ORIGIN』を描いて僕は何をやってんだろうって、今回はいい機会だからいろいろ考えさせてもらったんだけど、「そうか、俺はガンダムっていうものから余計な思想を取っぱらっているんだ」と。そういう風に、気づきましたね。(略)あれには、もともと思想なんてないんだよと。(略)
あのころ、「イヤだなあ、ガンダムが変になってきたなあ」と思ったのは、例のニュータイプ論なんですね。(略)どんどんそれがエスカレートしていくのを見ていて、「まあいいや。俺ももう辞めたことだし」と傍観してて。

貞本義行本人を前にオタク糾弾。

若い奴がここまでやれるのかとショックだった『王立宇宙軍』だけど

安彦 (略)『王立〜』って何が言いたいお話なの?(略)なんかすごく良く出来た話だとは思うんだけれども、結局、何なの?「青かった」とか「私はカモメ」って言いたかったら、それはもう昔の話だよって。今風の脱力感を描くにしては、ずいぶん高くついてるんじやないかってね。
貞本 いや、手厳しいです。
安彦 いやね、これだけの表現力と演出力と作画の力で、一体何をやりたかったのっていうのがわからなくて、そこがすごく気持ち悪かったんですよ。
貞本 ああ、そうですか。
安彦 『ガンダム』やなんかで「アニメも結構やってるよね」って、絵は酷いけど認められたりして、「拙くてもいいんだ。思いのたけがいくらか伝わればいいんだ」ってリミテットアニメでゴチャゴチャやっていた人間からしたら何!この絵は!って驚いて。で、何が言いたいの?って。しかも手練れなんですよ、街頭で宗教の広告を撒く少女が出て来たり、思わせぶりは上手いんですよ。でも、空を飛んで「地球は青かった」で終わりかい?って。そこん所のミスマッチが非常に気持ち悪くて。それとコンピュータの配線とか液体酸素のパラパラ落ちてくるカケラの追っかけを丁寧にやっているっていう。なぜ、ここまでやるのかな?ってね。なんか古い世代は退場しろって言われているような感覚がね。

ガンダムSF論争

君の言わんとするところはよくわかるが、SFファンのトラウマが基本にあったんだよね、SFを好きでもない人間が商売にするなという気持ちが根底にあったんだよね、と優しくフォローする安彦。頑として認めない高千穂だったが。

安彦 なんで高千穂と僕がこういう事を言っているかっていうと、僕がガンダムって企画に参加するきっかけが、高千穂のサジェスチョンだったわけね。高千穂が、まずハインラインの『宇宙の戦士』[スターシップ・トゥルーパーズ]でも読みなさいと。いつまでも巨大ロボットを作っているんじゃないと。
高千穂 そういう事を言ったんじゃないって。山浦(栄二)さんから「何か面白いSFない?」って聞かれて、当時、ウチ(スタジオぬえ)が絵を描いたばっかりだったから、『宇宙の戦士』を読んでよ、面白いよって勧めただけ。
安彦 いや、思うんだけれど、サンライズ企画部長の山浦さんが「なんか面白いもんない?」って聞いてきたら、企画書くのに決ってんじゃない。
高千穂 やだなぁ。それは中にいた人の言葉であって、僕の立場からすると「これで一人でもSFファンを増やせれば」って気持ちで言ってるんですよ。だから、あの頃は富野さんとか、あなたとか、機会があれば誰にでも『宇宙の戦士』を勧めまくってた。
安彦 (笑)山浦さんが「ヒマだから小説でも読もう」なんて、絶対考えてないって。(略)
高千穂 後で山浦さんに「あなた、面白いSF小説を教えてって、言ったじゃない。企画に使うなんて酷い!」って言ったんですよ!
安彦 だから、それは使うって(笑)。
高千穂 僕は純朴だったから、そんな事するって思わなかったもん。