「地震予知」にだまされるな! 小林道正

訂正記事を簡単に削除する東大地震研究所

新聞で報道されて大騒ぎとなった「首都直下型地震『4年以内に70%』」という記事の元になった「東大地震研試算」だが地震研HPでも「公式見解ではないと」断り書きされている。しかも読売の記事に4つの誤りがあるとする訂正記事がHP上で公開されていたが突如削除されてしまった。

最大の問題点は、読売新聞の1月23日の記事の誤りについて、記者会見をするなり、マスコミ各社に知らせるなり、という行為をせずに、単に自身のホームページに載せているだけ、ということである。しかも、最大のミステリーは、このような読売新聞の記事に対する「訂正内容」を、さっさとホームページから削除している点である。
 この経過の真相は定かでないが、最初にホームページに4つの誤りを指摘する記事を載せた部局が「東大地震研究所アウトリーチ室」であり、その後、平田教授から強硬なクレームが来て削除したというのが真相ではないのか。
 こんな大事な新聞報道の訂正記事をいとも簡単に削除するのは東大地震研究所の姿勢としていかがなものか、大きな疑問が生じる。
(略)
 1月23日22時にホームページを開設したとし、その時点では、「首都直下型地震で、M7以上の地震が起きる確率が、4年以内が70%、30年以内が98%」という結果を発表していた。しかし、このときすでに計算のやり直しがおこなわれ、12月31日までのデータを基にした、「4年以内が50%以下、30年以内が83%」という結果を得ていたのではないか、という疑問が起きる。
(略)
[メディアで]大騒ぎになったために、「実は4年以内で50%以下です」と、言い訳をホームページに載せたのであろう。
(略)
 1月23日の読売新開の記事が出た時点で、再計算は終わっていて、「読売新聞の記事の確率は3か月前の計算結果で古い結果である」ことを承知していたのではないかという疑いがある。
 しかし驚くべきことは、火付け役の読売新聞も、毎日新聞も、東大地震研のグループの再計算の結果についての報道は一切していない、

  • 天気予報の確率

「午後の降水確率80%」とは

(1)東京地方の8割の地域で必ず1ミリ以上の雨が降る。
(2)12時から6時までの3割の時間帯に雨が降る。
 と考える人もいるが、実はそうではない。
 現在とこれまでの気象条件が同じであった過去の記録から、1ミリ以上の雨が降った場合が8割あった、というのが正しい理解なのである。(略) 東京地方の降水確率が80%という予想だった日を多数集めてみれば、その中で8割の日には1ミリ以上の雨が降っていたという意味でもある。

確率70%とは

同じ条件で極めて多数回の現象が起きてそれを観察すれば、ほぼ70%の割合でその事象が起きている、という意味である。

「4年間にマグニチュード7以上の地震が起きる確率が70%」とは(略)「今から4年間を10回経験したとして、10回中6回から9回ぐらいに地震が起きることがほとんどで、4回以下しか起きないとか、10回必ず起きることも極めて稀な事柄である」ということができる。
(略)
「10回中必ず7回は地震が起きる」という意味では決してないことを理解してほしい。

東大地震研グループの計算がおかしい

 2012年2月6日付の日本経済新聞や、2012年2月7日・6日付の夕刊フジに、東大地震研が「4年以内に50%に下方修正」という記事が載っていた。
夕刊フジの記事は次のようになっている。東大地震研の平田氏らのチームが再計算したところ、4年以内で50%以下、30年以内では83%以下になったという。そもそも70%の根拠は、昨年3月11日から9月10日に首都圏で約350回発生したM3以上の地震を基にしたためで、これを12月31日までに期間を広げて再計算したところ、M3以上の地震が減っていることから、修正値になったとしている。
 たった3か月の地震のデータを追加しただけで、これだけの確率が変化するというのは一般には信じられないことである。この3か月に首都圏の地震が極端に減少したとかいうこともない。余震の回数が極端に減少したということもない。これは、東大地震研グループの計算がおかしいと考えざるをえない。

ロバート・ゲラー発言から

「私に言わせれば、この試算や弾き出された数値には何の普遍性もない。その1つの証拠に京大の研究者が少し違うデータを使って同様の手法で試算し、『5年以内、28%』としている。同じ手法に拠りながら、数値にこれだけ大きな誤差やバラツキが出ること自体、試算に信憑性がないことを強く示唆している」
 「私は試算に信憑性がないと言ったが、だからといってM7級の地震が首都圏を直撃するリスクがないとは思っていない。東日本大震災の翌日、長野と新潟の県境でM6・7の地震が発生した。あの日、あの程度の地震が首都圏で発生したとしても何の不思議もなかった。発生確率の数値とは無関係に、日本のどの地域においても、いつでも大きな地震は起こり得るのだ」

たった4個のデータで予測88%

 「地震予知は可能」という前提で、大震法を根拠とし、毎年巨額の国家予算が東海地震の予知のためと称して、観測機器等の施設・設備に投じられてきている。
 その巨額の予算から導かれたのが、「今後30年以内に東海地震が発生する確率は88%」という予測なのである。しかし、この確率の値、88%というのは、巨額の予算を投じて得た観測結果から導かれた確率なのでは決してない。耳を疑う人が多いであろうが、「過去の東海地震が起きた記録だけから導き出している」のである。
 それも、恐ろしいことに、たった4個のデータだけを基にし、間隔のデータとしてはたった3個のデータを基にした確率計算なのである。
 4個のデータとは、
 1854年(安政東海地震
 1707年(宝永地震
 1605年(慶長地震
 1498年(明応東海地震
 そして、それぞれの間隔は、短い方から並べると、102年、107年、147年、平均して、118・7年という3つのデータだけから導かれているのである。
 そして、前の東海地震の起きた1854年から現在2012年まで、すでに158年が経過しているのである。

 私が尊敬できそうな地震学者は島村英紀氏とロバート・ゲラー氏の2人である。

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