閉じこもるインターネット

自動プロパガンダ装置

パーソナライゼーションのフィルターは目に見えない自動プロパガンダ装置のようなものだ。これを放任すると、我々は自らの考えで自分を洗脳し、なじみのあるものばかりを欲しがるようになる。暗い未知の領域にひそむ危険のことなど忘れてしまう。
(略)
あなたのデータがあなた自身のためにだけ使われるとは限らない。ミネソタ大学で最近おこなわれた研究で、女性は排卵期のほうが体にぴったりした服の広告に反応しがちだとの結果が得られ、オンライン広告の「タイミングを戦略的に設定」したほうがよいとの提案がおこなわれている。
(略)
小さなバックパックひとつで第三世界を歩くページを見ると、閲覧履歴を確認した保険会社から高い料率を提示されることが考えられると、法学部教授のジョナサン・ジットレインは指摘している。
(略)
 パーソナライゼーションは取引の一種である。フィルタリングのサービスを得るかわり、日常生活に関して膨大な量のデータを大企業に渡すのだ――友人には渡したくないと思うかもしれないデータを。
(略)
[企業側のデータ活用は]ユーザーに悪影響を与えるようなケースは隠れておこなわれることが多い。

アマゾンの逆トリック

1994年、若手コンピューター研究者としてウォールストリートで働いていた[のちのアマゾンCEO]ジェフ・ベゾスは、とあるベンチャーキャピタリストの依頼で、急成長していたウェブで展開する事業のアイデアを検討した。(略)
[20の候補中、予想外の書籍がトップに]
 書籍には理想的な条件がいくつかあった。まず、最大の出版社、ランダムハウスでさえ市場の10%しか占めておらず業界が寡占状態にないため、新規参入がしやすい。本を卸してくれない出版社がひとつくらいあってもまったく困らないのだ。オンライン購入に対する抵抗感がほかの製品より少ない(略)衣料品などと違って試着の必要もない。しかし最大の魅力は種類が豊富なことだった。1994年の時点で売られていた書籍は300万種類。これに対してCDは30万種類だった。これほど多くの書籍をリアル店舗でそろえることはまずできない
[依頼主は報告を気に入らなかったが、ベゾスは諦められず]
(略)
 アマゾンは、あらゆる機会をとらえてユーザーからデータを集めようとする。たとえばキンドルで本を読むと、どこをハイライトしたのか、どのページを読んだのか、また、通読したのか行ったり来たりしたのかといった情報がアマゾンのサーバーに送られ、次に購入する本の予測に用いられる。(略)読んだものに応じてサイトが微妙にカスタマイズされる。
(略)
 ユーザーがパーソナライゼーションになじんだことをうけ、アマゾンは、新たな収益源として逆のトリックを使いはしめた。(略)アマゾンにお金を払えば、ソフトウェアが 「客観的」におこなったかのように自社の本を推奨してもらえるのだ。どちらなのか、ユーザー側からは判断のしようがない。

旅行情報サイト・カヤックの収益の一つは航空会社からの紹介料だが

 もう片方は少しわかりにくい。フライトの検索をおこなうと、カヤックからコンピューターにクッキーが送られる。その実体は小さなファイルで、「東海岸と西海岸を往復する安い航空券がほしい」と書かれた付せんがひたいに貼られるようなものだ。このデータをカヤックは、アクシオムやそのライバル会社、ブルーカイに売る。アクシオムなどの企業はこれをオークションにかけ、もっとも高い値段を入札したところに売る。この場合なら、ユナイテッドなどの大手航空会社だろうか。あなたがいま関心を抱いていることを把握したユナイテッドは、関連のありそうなフライトの広告を提示する。カヤックのサイトはもちろん、あなたが訪問するほとんどすべてのウェブサイトで、だ。このプロセス全体――あなたからデータを収集し、ユナイテッドに販売するまで――は、1秒以内に終了する。

良質なコンテンツは必要ない

 昔のニューヨークタイムズはとても高い広告料が取れた。裕福でニューヨーク周辺に住み、ほかの人々に大きな影響を与える人々という上質な読者が集まっていると広告主が知っていたからだ。この集団に広告を届けたいなら、ニューヨークタイムズに頼るしか方法はないに等しかった。
(略)
いまなら、アクシオムやブルーカイからデータを買えば、エリートコスモポリタンの読者を追跡できる。(略)ニューヨークタイムズにお金を払わなくても、その読者に訴求ができる。オンラインにいるときにターゲット広告を出せばいい。言い換えると、上質な読者を得るために上質なコンテンツを作らなければならなかった時代は終わろうとしているのだ。
 数字を見れば状況はあきらかだ。2003年、サイトに出稿された広告の料金は、ほとんどが記事や動画をオンラインに出しているところが受けとっていた。それが2010年には、わずか2割まで落ちた。この差額は、データをもつ人々[アクシオムetc]のところへ流れた

新たな仲介者

[ネットによりメディア抜きで直接ホワイトハウスの記者会見が入手できる]
我々のあいだに座る邪悪な仲介者が消えるというのは、いい話に聞こえる。(略)中抜きは、新たな仲介者――新たなゲートキーパー――を目に見えなくするのだ。(略)
本を買うにはアマゾンを使う。検索ならグーグル、友達ならフェイスブックだ。このようなプラットフォームはいま、すさまじい力を持っている。かつて新聞の編集者やレコードレーベルなどの仲介者が持っていた力と基本的に同等の力を持っているのだ。ところが、これらの新しいキュレーターがどういう意図を持っているのかさえ、我々には知る術がない。ニューヨークタイムズの編集者やCNNのプロデューサーなら報道の内容や姿勢について糾弾できたというのに。

人気で記事を選択する

レディットのアルゴリズムには承認の投票が一定量に達しない記事は沈んで消えてゆく仕組みさえ用意されている。(略)
[チリの大手新聞は]読者によるクリックのみを基準にコンテンツを決める試みを始めた。2004年のことだ。よくクリックされるとフォローアップの記事が書かれるが、クリックのない話題は消えてゆく。記者の担当は廃止され、皆、クリックされる記事を書くことだけに力を入れている。
 ヤフーの人気ニュースブログ、アップショットでは、検索された文字列のデータを編集者のチームが調べ、人々が興味関心を持っている話題をリアルタイムに掘りおこす。そして、それに対応する記事を書くのだ。たとえばたくさんの人が「オバマ大統領の誕生日」を検索していたら、アップショットはこの話題に関する記事を書く。こうすれば、検索した人がヤフーのページを訪れ、ヤフーの広告を見るようになるからだ。
(略)
 では、どのような記事がトラフィックランキングの上位にくるのだろうか。ニュースの世界では、昔から「流血ならトップニュース」と言われている。新時代にはいっても同じだ。(略)
 ほかのサイトでは、もっとえげつないものが上位にくる。(略)
「お相撲さんのコスプレをした女性、スニッカーバーのコスプレをした男性に手を振った元ガールフレンドをゲイ・パブで襲う」。シアトル・タイムズ紙では、2005年、馬とセックスして死んだ男の記事が何週間も人気のトップとなった。

明日につづく。