ブローティガンのラブレター講座

ラブレターを書こうとしているヤングのために、ブローティガン詩集から引用してみたよ。
“Loading Mercury with a Pitchfork”
ぼくらは出合う。ぼくらはいろいろやってみる。なにも起こらない、だけど

ぼくらは出合う。ぼくらはいろいろやってみる。なにも起こらない、だけど
その後ぼくらは会うたびに
いつもどぎまぎする。そしてぼくらは視線をそらすのだ。

気づくことはなにかを失うことだ

気づくことはなにかを失うことだ。
このことに気づくのにぼくはなにを失ったかについて考える、
 もしかしたらそのために嘆くことになるかも。

だんだんときみをその気にさせよう

だんだんときみをその気にさせよう、
夢のなかでピクニックを
しているような気持ちに、ね。
蟻なんていないよ。
 雨なんて降らないよ

ここにすばらしいものがある

ここにすばらしいものがある。
きみがほしがるようなものはぼくには
  ほとんど残っていない。
それはきみの掌のなかで初めて色づく。
それはきみがふれることで初めて形となる。

掘ったばかりの墓穴のように妙に若々しく

掘ったばかりの墓穴のように妙に若々しく
一日が独楽のように回りながら進んでいく、
 影の部分に雨を降らせながら

モーニング・コーヒーの真横で

この詩を書き終えたら、朝の
コーヒーをのもう。
そこで質問。ぼくはきょう一日を
こんなふうに始めたいと思っているのか
  どうか?

恐怖からきみは一人ぼっちになるだろう

恐怖からきみは一人ぼっちになるだろう、
きみはいろんなことをする、
だけどどれもこれもぜんぜんきみらしくない。

なにもかもが完璧なような気がしたので

なにもかもが完璧なような気がしたので
ぼくたちは車を止め
そして外へ出た
風が優しくきみの髪をなぶっていく
こんなにも単純なことだったのだ
ぼくは向き直り
きみにいま話しはじめる

お願い

ぼくはしょっちゅうきみのことを考えている
ねえ、きみは?

脅えた蟻がこわごわきみの様子を窺っている

脅えた蟻がこわごわきみの様子を窺っている
友だちになりたいんだ
少年の頃のきみのことならなんでも知りたいんだ
いっしょに泣きたいんだ
そして
きみと生きていきたいんだ

なんでもないけどなにかある

なにかが足りない
そんな気がする
とても哀しい
なんだかぼんやり考えている
ぼくじゃないぼくの身体が
ぼくは覗きこむ
わからない
どこかが痛い
まるで翻訳者たちの会議にまぎれこんだみたいなんだ
みんな熱中している
存在しない国語についてのおしゃべりに

死につつあるきみが最後に思いうかべるのが
溶けたアイスクリームだとしたら

そうだな
そういうのが人生かもな

ついにぼくときみは

ついにぼくときみは
なんというか
最高にうまくいったのだった
賭けてもいいけれど
もうこんなこと二度とないと思っただろ?
ぼくもさ
でも
あれは喜びというより
驚きだよな