モールス電信士のアメリカ史

モールス電信士のアメリカ史―IT時代を拓いた技術者たち

モールス電信士のアメリカ史―IT時代を拓いた技術者たち

[モールスのオリジナル装置は数字1〜9と0の穿孔配列10符号、215は“successful”2なら“with”と置換する手間のかかるもの。協力を申し出たアルフレッド・ヴェイルは印刷所の活字の磨耗度から使用頻度を調べ、頻出度の高い文字ほど簡潔な符号に。Eは<・>、Tは<−>。]
ヴェイルは特許収益の四分の一を受け取る代わりに、新たな通信方式に関連するすべての発明・特許をモールスの名義とすることに同意していた。のちにヴェイルは「富と名誉、我これを欲せず」と日記に書き残している。

エジソン

じつは、ここからエジソンの渡り電信士としての生活が始まるのだが、その一番の原因はいい加減な勤務ぶりにあった。ある日、彼は停止指示信号の送信を怠ったために[正面衝突寸前に](略)
停車場に詰める電信士は、一時間おきに「異状なし」を意味する数字の「6」を運行指令本部に送信せねばならない、だが、夜勤に備えて休息すべき昼間に大好きな化学実験や読書に耽るエジソンは、肝心の業務中に眠気を催すこともたびたび。「それならいっそ寝てやれ」と彼は送信機に目覚まし時計を装着し、一時間ごとに「6」が自動的に打電される仕掛けを作ってしまう。(略)
再度の不始末。「貴様のような不良は裁判にかけて刑務所送りにしてやる!」という支配人の剣幕に蒼くなった彼は、あとさきを考えずに、駅舎事務所の窓から飛び出し、発車間際の貨物列車に滑り込む。

女性電信士

創業当初より、電信事業関係者たちは女性を電信士として積極的に起用している。(略)一種のデスクワーク。ために、筋肉の強靭さに象徴されるような男女の肉体的な相違は重視されず、また、短符と長符の配列をパルスに変換した電文には「らしさ」なる概念で表される社会的・文化的な性差も反映しにくい。つまりは、男性でも女性でも、職務能力にほとんど差の出ない性別中立的な仕事といえる。(略)女性は経費節減という課題にとって好都合な労働力として歓迎された。
(略)
やがてエジソンのように電鍵無宿の渡世を送る女性も登場。(略)マッティ・クーン、通称マ・カイリーのように、「巡り歩いた各局に男あり」という豪の者がいた。

「大草原〜」ローラの娘

[あのローラのひとり娘ローズ・ワイルダー・レインは田舎暮らしが嫌で電信士として自立]
「教会は私を非難し、町の新聞は私を揶揄した風刺漫画を掲載し、社説で私の暴挙を止めるべきであると力説しました。私が道徳を根底から崩し、家庭と家族を崩壊させる、なんて」とローズは書き残している(略)[ひとりで老後どうするという説教に]「そんなずっとあとの老年時代のことなんか考えもしませんでした。たった一度の人生をひとりの男に頼って過ごすなんて馬鹿馬鹿しいもの」と周囲の批判や心配をよそに、新時代の開拓者たる意気に燃えてマンスフィールドを旅立つ。1904年、17歳の春であった。(略)
驚くほど短くカットした髪、糊の効いた男物の白いワイシャツ(略)最新の都会風ファッションに身を包んだローズが帰郷すると、マンスフィールドには興奮の渦が巻き起こった。
(略)
[10年の結婚生活破綻後]
電信稼業で身につけた幅広い社会的教養とタイプライターの腕前を武器に、フリーランスの著述家として生きる道を選んだ。1922年には短編小説を対象とするオー・ヘンリー賞を受賞、文壇における名声を不動のものとする。(略)[ベトナム戦争に従軍記者として赴き、1968年81歳で死去]
「理想の家族」と称えられたインガルス家の血を継ぐ者はすでにこの世にいない。家族愛に満ちた日々を繰り広げたファミリーは、100年足らず三代で消滅した。

非情のライセンス

配属された師団や部隊と行動をともにしながら、従軍電信士たちは銃火のなか岩や木の陰、塹壕に身を隠しながら、一分間に三〇〜四〇文字という速度で、ときに数千語にも及ぶ暗号文を方面軍司令部や各連携部隊に打電する。(略)最も危険をともなう任務は、敵陣に潜入し、敵軍の使用電線に携帯型受信機を接続して電文を傍受、それを電信本部に送る盗聴であった。
(略)
軍務を解かれたあとも電信で扱った軍事機密の公表を固く禁じられ、黙々と人生を送るしかなかった。彼らは自分の活躍を子孫に誇らしく語る機会を奪われ、軍からはなんらの補償も報奨も受けられず、その稀有なる業績と体験を歴史の闇に封印されたのである。
 あまつさえ民間人身分のまま軍務に服した電信士には、軍人恩給の申請資格も与えられない。負傷したり戦死したりした者、あるいは敵軍に拿捕されても、軍人捕虜ではないために監獄で冷遇されたり、諜報員として処刑されたりした者がいるにもかかわらず……。

ひなげしの花

[女性一人で切り盛りする開拓地の停車場も多く]
そのとき彼女は育児に追われていたが、せっかくの稼ぎ口を無駄にすまいと、ひとつの条件をユタ・セントラル鉄道に申し入れる。「毎日、子どもを局に同伴したい」と。地域で唯一の熟練電信士の頼みに、会社側も「駄目」とはいえなかった。今度は電信局が家庭に代わり、育児空間の機能をはたすこととなる。
 マリー・エレン・ラヴが例外的な存在であった、というわけではない。女性電信士が仕事をしながら局舎で子育てをするのは、鉄道局のありふれた光景であった。そして、働く母親の背を見ながら育った子どもたちが、やがて電信士になることも稀ではなかった。

なりすまし

電信士のあいだでは、打鍵リズムは人間の音声さながらひとりひとり異なり、そのリズムによって誰が発信したものなのかを識別できるともいわれた。とくに女性電信士のキータッチは、概して、男性のそれより柔らかいとも。ただし、これはすぐれて感覚的な話であり(略)正しく判別することは、ベテラン電信士にも至難の業にほかならない。
その結果、《電線上の喧嘩》も当人同士の知らぬまま男女のあいだでおこなわれることがあった。男性電信士のほうが決着をつけようと相手側の局に乗り込んでいくと、喧嘩の相手がうら若き乙女であったことを知り、ばつが悪くなって退散するという光景も往々見られる。(略)
[「なりすまし」の悪戯も]
主任電信士は、女性に愛用者が多い横振りレヴァー型電鍵をもちいて、マ・カイリーになりすますと、他局の新米電信士をまんまと誘惑する。
ある日、件の新米がシルクハットをかぶり、一張羅のスーツに身を包んでポカテイロ局に姿を現わす。「用意はできているかい?」と彼は仕事中のマ・カイリーに訊ねた。

他にも色々あるけど根気がないので終了。
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