自然はそんなにヤワじゃない

 

殺虫剤で多様性アップ


大型種ほど殺虫剤に弱い。競争に強いものはストレスに弱い。

[ワムシ、ミジンコで多様性が上がっていたところに]
大型のカブトミジンコが現れると、多くの動物プランクトン種が競争に負けて姿を消し、多様性は低くなってしまった。(略)ところがここに殺虫剤が投与されると、カブトミジンコがいなくなり、その後ワムシや小型ミジンコが再び増え始めてプランクトン群集の多様性が高くなったのである。(略)
殺虫剤が生物群集の多様性を上げたのである。(略)
このことから、人間の活動はいつでもどこででも生物多様性を低下させているわけではない、ということがわかる。(略)
 ただし、これも程度問題であることを申し添えておく。あまりにも人間による撹乱が強いと、ほとんどの生物種が生きていけなくなり多様性が低下することになる。言い換えれば、適度な撹乱が生物多様性を高くするといえる。

不均一で多様性

 適度な洪水(増水)はまた、水をうねらすことによって、川の中に淵と瀬をつくった。これがそれぞれの環境に適応した異なった水生昆虫の生息場になり、その場所の生物多様性を上げることになった。すると、この場合は、一定の面積の中に異なる環境を持つ場をつくることが重要だったといえる。つまり、環境が不均一であることが高い生物多様性を維持するのに必要なことなのだ。洪水は川の地形を変えて空間的に不均一な環境をつくったが、殺虫剤投与による一時的な生息環境の改変は、時間的に不均一な環境をつくったといえよう。時間的な環境の不均一性は洪水によってもつくられる。

藻類の光合成により酸素濃度が上昇し嫌気性細菌が死滅

 三十億年前の嫌気的な環境下で光合成を始めたシアノバクテリアは、それまでその環境下で優占してきた生物たちにとっては、環境をめちゃくちゃにする極悪人であったといえるだろう。ところが、その極悪人は、新たな生物の誕生を導いたのである。(略)また、大気で増えた酸素は、宇宙線と反応してオゾン層をつくり、地上への紫外線の透過を防いだ。それにより、それまで強い紫外線が降り注いでいたために生物が棲むことのできなかった陸上が、生物の生息場所として、新たに開けたのである。
(略)
 今、大きな現存量を持つに至った人間は、活発に活動し、生態系を攪乱している。それによって、今後少なからぬ数の生物種を絶滅させ、または絶滅危惧種にするだろう。すると、彼らにとっては、人間は環境を悪化させる悪者となる。ところが、その一方で、人間によって新たにつくられた地球環境に適応する生物種が増え、新しい生物種も多く生まれるに違いない。そうなると、新しい環境に適応した生物たちにとっては、人間は「神様のようなありがたい生物」ということになるのではなかろうか。

微生物で水質浄化という勘違い

微生物によって汚濁物質(有機物)が分解されるときには、有機物をつくっていた元素の多くは無機物に戻るので、その分有機物を減らすことになる。しかし、そこが池や湖のように太陽光が降り注ぐ場所ならば、その無機物は植物プランクトンによる光合成で再び有機物につくりかえられてしまう。これでは元の木阿弥だ。それどころか、この方法では、他の場所で増やした有用微生物を水中に投与するので、その分、微生物中に入っていた窒素やリンを水中に投入することになり、汚濁を促進することになりかねないのである。
 微生物を湖や池に投入すると水質が浄化されるという勘違いはなぜ生まれたのだろうか。
 私は、下水処理場の浄化システムの誤解が原因ではないかと思っている。
(略)
 下水処理場では、水中の有機物を食べて増えた微生物は、処理層の中で沈殿し、水中から除去されているのである。簡単に言うと、水に溶けている有機物など沈みにくい有機物を微生物に食べさせて、微生物を増やす。増えた微生物は大きな塊をつくるため、沈みやすくなる。そこで、それを沈殿槽の中で沈めて集め、除去するのである。これによって水の中から有機物が取り除かれることになるのだ。また、それによって、徹生物の中に含まれていた窒素やリンを水の中から除去したことにもなる。したがって、ただ単に微生物をよどんだ水たまりに人れるだけでは、水質は浄化されない。
 畑や人の腸内で役に立つ良い細菌(有用微生物、発酵菌)は、どこででも人間が好む環境をつくってくれるものと、人は勘違いしているのではないだろうか。

ユスリカが水質浄化

湖が汚れると増えるユスリカが、湖の水質浄化に貢献しているのである。このように書くと、驚く人がいるだろう。(略)
[窒素やリンを大量に含んだ排水により]植物プランクトン有機物)が大量に増え、それが水質を汚濁させたのである。植物プランクトンを増やした窒素やリンの多くは、死んだ生物体と共に湖底に沈み、そこに溜まることになる。その窒素やリンが湖底でじっとしていてくれれば水質は汚濁しない。なぜなら、そこは光が届かない暗い湖底なので、太陽光を必要とする植物プランクトンはそこでは増えられない(略)
[だが強風で]湖水全体が攪拌されて、湖底の窒素やリンが水中に舞い上がる。すると、再び植物プランクトンの増殖を促し、アオコの発生につながるのである。(略)
ユスリカ幼虫は水中から沈んでくる有機物を食べている。それにより、本来なら湖底にたまる窒素やリンを体の中に取り込んでいるのである。(略)
[羽化し陸地に飛んで行く]ユスリカによる窒素やリンの、湖から陸上への持ち出し量はバカにならない。(略)[陸上から流入した]リンの総量の約5%に相当するという研究報告もある。(略)
人に嫌われている動物も、意外なところで人間の役に立っているのである。

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