全女はコワイよ

前日の続き。
ベースボール・マガジン社は野球が純文学、プロレスがマンガのようなもの。週プロの利益は他部門の赤字補填に消えていく。本誌、増刊号、ビデオがいくら売れてもほぼ基本給のまま。プロレスに関われればそれでいいと疑問を持たなかった著者だが同業記者から特別手当が出るのが普通と聞かされたり、社主の故郷に情報センターやら豪華な美術館が建ったりで、会社に疑問を持つように。週プロ丸ごと買収の噂。ターザンはそんな話もあったが断った、受けてたらお前らの給料100万になってたなと。

ぼくの週プロ青春記 90年代プロレス全盛期と、その真実

ぼくの週プロ青春記 90年代プロレス全盛期と、その真実

 

移籍の裏にマスコミ

移籍劇の裏ではマスコミの人間が動いていることが多い。いろんな団体や選手とつながりがあるので、移籍交渉をする際に、引き抜く側のメッセンジャー的役割として動きやすいのだ。
 水面下で動いても何のメリットもないように思われるかもしれないが、引き抜きに直接関わっていると、その情報を独占できるわけで、移籍情報をスクープすることができる。事実上、スクープが存在しないプロレス業界において、これは大きなメリットである。
(略)
[週プロがスクープで後塵を拝したのは]
おそらくターザン山本の「手の平返し」を恐れて団体サイドが情報を漏らしてくれなかったのが最大の要因なのだろう(略)
[他社が管轄する移籍ネタは知っていてもスルーするのが仁義。記事でさりげなく匂わすのがせめてもの抵抗]

FMWインディー大統一

大仁田は週プロの『選手名鑑号』を僕に差し出した。
「俺、よくわかんないからさ、使えそうな選手に赤ペンで丸をつけてくんねぇか?」
「……FMWが引き抜くってことですか?」
「月に三十万も出せば、みんな動くだろ」
「そりゃ、動くでしょうけど……」(略)
[引き抜かれる団体のことを思い躊躇する著者]
「移籍の交渉までは頼まないよ。本当に使えるヤツだけピックアップしてくれよ。有名じゃなくても覆面かぶせりゃいいんだから」

みちプロ

[ギャラ持ち逃げ被害が反響を呼び四月大田区体育館はベースボール社買取興行に]
 あとになってサスケに聞いた話だと、大田区は自社の手打ち興行にしてもよかったという。ただ、週プロ主催興行にすることで扱いが大きくなることを計算して、あえて山本編集長の提案に乗ったという。実にシビアなビジネスマンの資質を持っていた。
 バランス感覚も絶妙で、翌年に開催された「ふく面ワールドリーグ戦」では大会記念パンフレットをゴングに作らせ、書店売りまでさせた上で、週プロにはビデオ増刊の販売権を割り振って、うまいこと両週刊誌とのパイプを太くしていた。表向きには清貧路線で、そして舞台裏では手堅く営業。

女子プロ同性愛事情

翌日の取材の打ち合わせをしようと選手の部屋に内線をかけると、団体から配られた部屋割り表とは違う選手が同宿していたり、夜、コンビニヘ買い物に出かけると、リング上では敵対しているはずの選手がまるで恋人同士のように手を繋いで寄り添っている姿に遭遇したりした。
[基本はベビーとヒールの組み合わせ。ネコの選手と親しくするとタチの選手からジェラシー]

ポーゴさん

[FMWロシア遠征。本当に悪い奴と現地スタッフに思われひどい宿舎をあてがわれたポーゴが本隊宿舎に避難]
そこに大仁田が登場。まさかのハチ合わせにどうしたものかと周囲に緊張が走ると、大仁田は「俺たち(プロレス関係者)しかいねえんだろ?いいじゃん、たまには。おーい、ポーゴさん!こっちで一緒にメシを食いましょうよ!」(略)
一度FMWを裏切り、W★INGに逃げたという負い目があるのか、年齢もキャリアも大仁田より上にもかかわらず、ポーゴさんは緊張した面持ちでほとんど口を開かない。大仁田も気を遣ってか敬語で話しかけているのだが、ポーゴさんは「ハイ、ハイ」と頷くだけだった。普段はそういう人だとわかっていたが、大仁田との上下関係がこんなにもハッキリしているとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。

全女東京ドーム前、ターザンVS宍倉

この時期、山本編集長と宍倉次長の関係もギリギリのところにきていた。(略)
[全女ドームチケット不振でターザンが猛プッシュ指令]
「……これまで女子プロレスのページをキープするのに、どれだけ苦労してきたか。いい試合があってもモノクロページに閉じ込めてきたくせに。それを今は人気があるから、何でもいいから毎週載せろだって!?バカにしているよ!」
 何年も苦労してきた宍倉次長にとって、編集長の言葉は屈辱だったに違いない。よほど頭に来たのか、何もない週は本当は取材する予定などなかった地方大会にカメラマンだけ飛ばし、わざわざ「ドームまで毎週、全女の記事を掲載します!」というキャッチまでつけてページを組んでいた。おそらく、編集長はそれが抵抗であることに気づいていなかったのだろうが……。ギスギスした空気が漂う中

全女東京ドーム

[北斗の「神取は逃げた」発言でLLPW激怒。イーグル沢井がガチを仕掛けるとの噂]
 北斗VSイーグルは、イーグルがいつもとは気合いの乗りが違う危険なパワーボムを食らわせたりしたが、懸念されていた不測の事態は避けられた。ドームだから緊迫感が伝わらなかったかもしれないが、これが後楽園ホールだったら、リングサイドに漂う異様な気配は客席まで届いたはずだ。事実、イーグルは試合後の会見で、「北斗は弱かった」と発言している。
(略)
[くどめ恋愛ネタをフライデーにリークしたのは井上貴子という噂があったため、工藤VS貴子は]
業界内では禁断のカードになっていた。気持ちを許しあえなかったのか、試合はギクシャクとした凡戦となり、工藤に3カウントを奪われたはずの貴子が直後にスクッと立ち上がり、ムッとした表情を浮かべていた。男なら完全にビジネスとして割りきるところに、ナマの感情が絡まってしまうところが女子プロレスの面白さでもあり、女の怖さを思い知らされる部分でもある。

『夢の架け橋』がもたらした批難

[ドーム参戦が決定した途端、手の平返しでリングス前田を『蘇った威光』と表紙に]
確かに自社で開催する興行のために団体の扱いを変えてしまうのは、マスコミとしてやってはいけないこと。ましてや「いい試合があったら格にこだわらず大きく扱う」という姿勢を押し出してきただけに、ドームへの参戦を表明しただけで表紙になってしまうのは編集方針を曲げたと言われても仕方がない。これは週プロの信用を落とす行為だったのかもしれない。
(略)
[Uインターが最初高田抜きのカードだったのは前年取材拒否になりかけたことがあったからで→回想]
エレベーターから怒声が聞こえてきた。扉が開くとそこには高田延彦宮戸優光がいた。まさに殴りこみである。
 宮戸が「この記事はどういうことだー!」と叫び、高田が山本編集長の顔に週プロを突きつけ、「なにコレ?なにコレ?なにコレ?」と続く。実に絶妙だ。高田は問題になるような発言をまったくしていない。当時のUインターには、何がなんでも高田を守るという鉄壁の体制があった。この一枚岩は強い。

孤立する豊田

『夢の架け橋』まであと10日、井上京子&貴子から取材拒否宣言。豊田真奈美の『フリーダムフォース』を猛プッシュしたせいらしい。

[豊田たちばっかりズルい程度で済まなかったのは]
京子たちと豊田たちが本当に仲が悪かったから。(略)
アクシデントを装ってわざと顔面にパンチや蹴りを入れたり、相手の攻撃をまったく受けなかったりする。(略)普通だったら、そんな対戦カードは避けそうなものだが、逆にプライベートでのイザコザをリング上での遺恨に利用してしまうのだから、全女とは本当に恐ろしい団体だ。
 実際、完全に団体内で孤立してしまった豊田たちに対する攻撃はハンパではなく、取材に行くたび、顔の腫れや体のアザが増えていき、リアルなケガ人が続出していった。昔から一匹狼的な生き方をしてきて、精神的にも肉体的にもタフな豊田はケロッとしていたし頑丈な伊藤薫は踏ん張っていたが、配下の吉田万里子長谷川咲恵は完全に疲弊していた。

  • W井上のその後

厚い信頼関係があった京子とは以降断絶。ずっとのち京子の新団体設立時に席を設け、新人時代互いに熱くプロレスを語り合った話をしてみたが、心を開いてくれなかった。一方貴子は数週間後に謝罪してきて

小悪魔的な笑みを浮かべて、僕の腕に絡みついてくると、「あのときはさあ、なんかそういう流れになっちゃったからあんなこと言っちゃったけど、本心じゃないのよ。ごめんね。(略)」 あまりのことに一瞬、言葉を失った。
 そもそも貴子はいきなり抱きついてきたり、甘えてきたりするキャバクラ嬢的な一面があった。

うーむ、終わらない。疲れたので明日につづく。