劇的瞬間の気もち

なかなか体験できない事例の数々。
薄いし暇つぶしにはもってこいだ。

劇的瞬間の気もち

劇的瞬間の気もち

長身の人の場合

身長190センチの監督が僕と視線が合うように椅子の上に立ち
「お前は見えなくていいところまで見えてしまうな」
と話しかけてきたのを覚えている。僕は
「まったくです。どこもかしこも汚れて、埃まみれだ」
と答えた。
視線が人よりもずっと高いから、人の家に行っても、誰も気付かない汚れが目にとまる。これまで、冷蔵庫の上をきれいにしている人に会ったことはない。

「まったくです・・」とか最後のフレーズとか村上春樹っぽく呟いてみたい感じです。
やれやれ、どこもかしこも汚れて埃まみれだ。
雄牛の角で突かれた人の場合

大きなナイフで体を半分に切られるような感じだ。ジッパーを勢いよく下ろすときのような、物が裂ける音が聞こえて、自分がジッパーになった気がした。

宇宙飛行士

月面では何の音も聞こえない。宇宙服の内部にあるチューブを流れる液体の音だけだ。よく映画で、宇宙飛行士の息遣いが聞こえる場面があるが、あれはうそだ。あれほど激しく呼吸したら、すぐに酸素が切れてしまう。冷静に行動し、規則正しい呼吸を心がける。月面では、これがとても重要になる。

乱交パーティー(「なぜか、いつも男のほうが多い」らしい。笑える。)

ひとことで言おう。乱交パーティーっていうのは、よく調教されたタコとセックスするみたいな感じだ。
多くの足が絡み合い、あちこちから伸びてくる手に引っ張られ、いたるところに舌や広げた脚がある。口の中には常に何かが入っている。次から次へといろんなことが起きて、頭がついていかない。想像もできなかったことが、目の前で現実となる。
別の表現をしようか。発展途上国を旅行している暑い一日、かな。何本も手が伸びてきて、何かをもらおうとするけど、すべてを満足させることはできないし、そのうち気カも萎えてくる。

年収4万ドルで500万ドルの宝くじに当たる

どうしたらいいのか、まったくわからない。自分の死亡記事を見たような感じと言ったらいいだろうか。
ありとあらゆる種類の感情が一気に押し寄せてくる。
朝の六時だったから、妻も子供たちもまだ寝ていた。起こさなかったよ。そして準備を
して、仕事場である老人ホームに行った。(略)でも、何をしても集中できない。だから、電球を取り替えるといったごく単純な作業をこなすことにした。ちょっとでも複雑なことは、全部人に任せた。とにかく、考えることが必要な作業はしたくなかったんだ。(略)
昼食を取るために家に帰ると、息子の一人がこう言った。
「パパ、ワシントンに住んでる人が大当たり、だってさ」
「ああ、そうかい。でも、パパじゃないよ」とだけ答えておいた。
息子二人が出て行った後、妻に向って「実は、俺なんだよ」と囁いた。妻はその場で青くなった。そしてその場にふたりで座って、かなり長い間話し込んだ。私は、また落ち着かなくなってきた。(略)
その後も、私たちは一年間まるまる働き続けた。妻は近所のカレンダー工場で働いていたんだが、私も妻も仕事を辞めるには早すぎると感じていた。
私は翌年仕事を辞めて市長選に立候補し、当選した。市長職の年俸は6399ドルだ。でも、私は報酬を受け取っていない。この金額をそのまま老人福祉予算に寄付している。

スキー場で転んで90分間記憶喪失になる

記憶喪失の実際の症状は映画で見るようなもんじゃない。記憶の80%は残っているが、肝心な20%が思い出せないんだ。(略)
大丈夫。大丈夫だぞ。僕は再び自分に言い聞かせた。よし、もう少し簡単なことから始めよう。季節とか、そういったことだ。目の前に雪があるので、冬に違いない。一月、二月・・・と、月の名前も順番通り思い出すことができたが、どの月が冬なのかがわからない。

潔癖症になる

頭を洗うだけで一時間かかる。まずはうなじだ。そして耳の上、前と洗っていって、最後にてっぺんを洗う。頭が終わったら、額を六十回こする。六十回に達しなくても、超えてもいけない。すべての部位を決まった回数こする。一回でも多くこすってしまったら、最初からやり直しだ。どんなに疲れようと、しないではいられない。

一生懸命作成した文章が一瞬にして消えた人
さてこんなことを書くと本に合わせたやらせのよう思われるかもしれないが、階上の物音を逃れてファミレスで書き写したのです。そして帰ってきてノートパソコンから移す時に間違えて逆に上書きしてしまったのです。こういうときに限ってやたらと大量に引用してるし。呆然。くやしいのでスキャナでがしがしやりなおしたのです。それでも結局50分かかった。くそっ。あのファミレスでの時間を返して。