復興予算流用の真相

『国家のシロアリ』

国家のシロアリ: 復興予算流用の真相

国家のシロアリ: 復興予算流用の真相

WHOにも復興予算

世界保健機関」(WHO)の拠出金に、復興予算から7158万円が出ているのだ。
 「震災復興には世界的な関心が高まっていますから、WHOが外国人を雇い入れる資金を出しました。専門家から震災復興に関しての助言を貰いたいと思ったからです」(厚生労働省国際課)
 WHOが雇い入れる「外国人」とはどういう意昧なのかと関くと、「WHOから見た外国人」であり、結局のところ、なんとそれは「日本人」なのだという。「日本人」とは、言うまでもなく厚労省の役人を指す。
 お分かりだろうか。WHOが外国人を雇い入れる資金とは、厚労省の役人がWHOに天下るための資金、ということである。

捕鯨損失補填にも復興予算

[シーシェパード対策の監視船派遣費用5億と調査捕鯨中止の損失補填18億、計23億]
 繰り返すが、2011年度の復興予算は、当初予算ではなく、その後の3回にわたる補正予算で手当てされた。シー・シェパード対策費は、3度目の「3次補正予算」から出ている。(略)
 調査捕鯨船が切り上げたのは、震災の起こる前の2月18日だった。震災前に起こった出来事なのだから、震災と関連付けるにはそもそも無理がある。それにもかかわらず、事後請求は補正予算なのだから当然と言い切る水産庁職員の発言には、「復興予算は、単なる補正予算の一種にすぎない」という本音が垣間見えた。
――なぜ復興予算から捕鯨の損失捕てん費やシー・シェパード対策費が出るのか。
 「石巻の復興のためです。我々としては石巻の再活性化のためにも商業捕鯨の再開がしたいのです。石巻港は古くから、捕鯨で賑わうクジラの町として知られていました。しかし現在は国際的に捕鯨はモラトリアム(停止状態)にあります」
――関連性が全く分からない。石巻と南極の調査捕鯨はどう関係があるのですか。
 「石巻の人は捕鯨の再開を望んでいます」
――調査捕鯨石巻港から出発しているのですか。
 「いいえ。7000トンの母船は広島港です。
(略)
――商業捕鯨が再開されれば、石巻港から南極に捕鯨に行くのですか。
 「いえいえ。石巻港に母船は入れませんから。石巻での捕鯨は湾岸漁業で、石巻港近くのミンククジラを小さな採集船で獲っているんです。南極に行ったりはしません」
――じゃあ、なおさら石巻とは関係ないじゃないですか。
 「いえいえ、石巻捕鯨の町だったので、南極に行っている乗組員さんの中には、石巻や、石巻周辺の人も多いんですよ」
――何割くらいいるのですか。
 「いや、それはちょっと手元にはないですが」
――何か石巻に関係があることはないのですか。たとえば、南極で獲ったクジラの流通と石巻港が関係あったりとか。
 「獲ったクジラは東京に持って行って、全国に流通します」
――なおさら、石巻と関係ない。
 「獲ったクジラは千葉の工場で捌くのですが」
――千葉ですか?
 「石巻出身者には、クジラを捌くのが上手な人が多いんですよ」
――千葉に石巻出身者が多いのですか。
 「いや、それは分かりませんけれど、石巻にはクジラを捌くのが得意な人が多いのです」
――石巻の復興と調査捕鯨は全く関係ないのですね。
 「いいえ。クジラの町・石巻はいつの日か、捕鯨が復活して町に活気が戻ることを待ち望んでいます」
 冗談で言っているのか、シラを切り通そうとしているのか、筆者には真意を測りかねた。

青天井

[概算要求では]財務官僚の厳しい査定に撥ね返され、各省庁の役人が臍を噛む光景が恒例となりつつあった。
 ところが、復興予算に限っては、様相が全く違っていた。財務省は2011年8月の時点で、各省庁に「復興関連予算は青天井だ。遠慮しないで要求してくれて構わない」と太っ腹な姿勢を見せ(略)
 ある省の課長は、もっと意図的な指示があったと証言している。
 「実は財務省の主計官から、“欲しい予算があったら、復興名目で出したら付けてやるから、復興に関連があるように書いて要求しろ”と言われたので、本当はこんなの復興予算で要求するなんてまずいと思っていたけど、要求したんです」(略)
 こうして復興予算の大半は、霞が関の予算の分捕り合いに消えていった。

環境省の箱モノ利権

 瓦礫処理をやると「検討」しただけで巨額の交付金を受け取っていた自治体の存在が報じられると、全国から一斉にその自治体へ抗議が殺到した。(略)
堺市廃棄物政策課に取材してみると、意外な回答が返ってきた。
 「説明させてください。当市はそもそも検討を表明などしていません。当市はもともと、ゴミ焼却炉の新清掃工場の大改修を、180億円をかけて[やる予定だった](略)
この改修予算を一般会計の交付金でまかなおうと国に要望したところ、3月に環境省から大阪府を介して、『復興財源に切り替えないか?』と打診があったのです。当市は、『いいえ、一般会計でお願いしたい』と回答していました。にもかかわらず4月には、『復興予算を充てることにした』と内示があったのです」(略)
 驚くのは、市が復興予算を要求したわけでなく、むしろ環境省が復興予算による交付金を押し付けていたということだ。
 総額約36億円の交付を受けた埼玉・川口市に取材しても同様の説明だった。(略)
「[神奈川の環境衛生組合4団体は]瓦牒は受け入れないと表明していました。ところが、なぜか環境省から“復興予算の交付金が決まったこと連絡があった”不思議に思っているところに、“受け入れを検討しただけの自治体にも復興予算が交付される”と報じられだしたので、寝耳に水の話でした」
 断わっても環境省が勝手に復興予算を置いていったというのである。
(略)
 そうまでして環境省が復興予算を全国の自治体にばら撒く理由は何なのか。
(略)
 「環境省にとって1兆円という予算はかつてない規模、国交省のような事業官庁に匹敵する財源が降って湧いたのだから、他の省庁には譲りたくないという考えがあったのでしょう。そのためには全額を使い切る必要がある。(略)
 「省庁再編で環境省が発足した際に、ゴミ処理の所管が厚労省から環境省に移されたことで、焼却場の建設許認可が同省の巨大利権となりました。本来、環境省は米国のように排ガス規制などを行なう規制官庁であるべきですが、日本の環境省は事業官庁化しているのです。(略)
[瓦礫を]広域処理という名目にしたのは、無駄な処理場に仕事を与えたり、整備や新規建設の口実を与えたりするためなのです。
(略)
かくして復興予算は、焼却炉という環境省の箱モノ利権の拡大に利用されたわけである。

被災地に金が行かない

被災者や復興のために必要と思われる予算の執行率は低く、一方で復興と関係の薄い事業の執行率ばかりが100%に近い執行率だったのだ。
(略)
「被災失業者の離職転換給付合」4・4%
原子力発電所事故対応の徹底」22・6%
「被災した障害者施設の事業復旧のための設備整備」17・3%
「被災者生活再建支接合補助金」38・7%
日本年金機構の設備整備」(運営交付金)100%
法務省施設の復旧」(官庁施設9庁、矯正施設15庁)99・5%
「クールジャパンによる日本ブランド復興経費」96・2%
東京スカイツリー」開業前プレイベント 99・9%
「日本原子力開発機構の東海研究開発センターの復旧費用」100%

 なぜ、このような配分となったのか。復興庁は「被災地は要求しすぎている」と感じていたようだ。(略)
しかしその一方で、同じ地域を対象とした事業であっても、自治体の予算ではなく国の予算となるものには、潤沢に配分されていた。たとえば同じ宮城県内においても、国道は、県が県道に要求した額とほぼ同額の361億円を要求。その結果、県道には要求の8分の1の43億円に対し、国道では満額の361億円が認められていた。(略)
宮城県や県下の自治体への道路予算には厳しい一方で、沖縄の国道のかさ上げに予算が配分されている。この整合性をどう考えればいいのだろうか。