カミングズ詩集、『巨大な部屋』

訳者によってだいぶ雰囲気ちがうもんだなあ。
1984年のヤリタミサコ訳はとってもRCサクセション。「ナウい」はさすがにアレだがw。

カミングズ詩集 (海外詩文庫)

カミングズ詩集 (海外詩文庫)

アイツはビッタシ

アイツはビッタシ


ナウいんだぜ、よぉ
だからサ
オレはカタクなっちまって
気になっちゃうのさ(さあ


ユニバーサルジョイントに油をさしてバッチリ
オレのガソリン確かめてアイツの
(略)
ゆ・っ・く・り・さ、やっと、押・し・こ・む(オレの
(略)
アイツがブルッ

し・ん・で・る。


しーん
と して)

ひとつの軍隊のように(谷川昇訳)

ひとつの軍隊のように 彼女の腹は
ぼくの中に 詩を行進させた
鼻孔からつま先まで
彼女は 沈黙の匂いがした
(略)
髪はさわると危険な ガスみたいだった
荒々しく 物憂げな彼女の仕種
の中の血の音は巧みに
ヨーロッパ のもっている
シンコペーションを繰りかえそうとした
(略)
春だった
太陽がざわめいていた
めった切りする空気に
蕾の大部分は 甘く膿んだ
ぼくの目の中に
谷はこぼした くすぐるような川を
殺された世界は 身じろぎした
ぐいと引っ張られた 紐みたいに

「もちろん 神さまの次はアメリカ (藤富保男訳)

「もちろん 神さまの次はアメリカ 汝をわたしは
愛します 清教徒の国をそしてなどなど おや
夜明けのはやくに 汝がひらめいているのが見える 何世紀もが暮れたり来たり
そしてわたしどもとして何ら心配することやあらん です
(略)
どうして美しさを語るのですかい
これらの英雄的幸わせな死者より
美しいものがありましょうか
その人たちは咆え狂う殺りくにライオンのように出かけ
その人たちは代わりに死ぬのだと考えるのをやめなかったんです
それだから解放の声は聞かれないのでしょうかね」


と彼はしゃべった そしていそいで一杯の水をのんだのです

彼氏の頭をひらいてごらん (藤富保男訳)

彼氏の頭をひらいてごらん
そこに心臓があるでしょう ネェ
(ひびが入っていてね)


その心をひらいてごらん
そこにベッドがあるでしょう ねぇ
(ほんとだよ)


このベッドをあけてごらん
そこにお菓子があるでしょう ね
(結婚しなさいよ)


そのお菓子をあけてごらん
そこに彼氏の心があるでしょう きみ
(死んでるから)

巨大な部屋 (1963年) (現代の芸術双書〈2〉)

巨大な部屋 (1963年) (現代の芸術双書〈2〉)

E・E・カミングズの第1次世界大戦中の収容所体験を描いた『巨大な部屋』を高速五分サーチして一箇所引用

 廊下には窒息するような煙が充満していた。わらに火がつけられると出るような煙だ。異常にむかつき息が詰る、青白い煙だ。あまりも濃い煙だから眼が血走り、肺がいたんだがすべてを見ることができたのも、ちょっとたってからだった。おれが見たのはこうだ。五、六人の看守が一番そばの懲罰部屋から二人の女を運び出していた。女は死人になっているようだった。ぐにゃとした体だ。運び出される女の手はぐたっとしていて、床の上を引きずられていた。上向きになった青白い顔は首にべろーんとぶらさがっていた。ぐんにゃりした体は看守の腕のなかで曲っていた。
(略)
サライナの明るい大きな声が煙をとおり抜け、彼にむかっていった。しわがれ、豊かで、不意の、強烈で、す早い、喉にかかった、人殺しのような、太い声だ。
 くたばらしちまうよ、くたばらしちまうよ、
 この声の真上に、真下に、まわりに、煙のなかに、うろうろしている女たちの恐怖におののく顔をおれは見た。口をあけ、眼をつむって悲鳴をあげる女たち。眼を大きく開いて見つめる女たち。その顔のなかに主計官の穏やかな好奇心にみちた表情と監督官の神経質そうにパチパチ動きまわる眼をおれは見つけた。と叫び声が生じた。それは立ちすくんでつっ立っていたおれたちにむかって叫んでいるブラック・ホルスターのやつの叫びだった――
 「どいつが、こいつら男どもをここへつれてきたんだ? もといたところへもどるんだ、おまえらは……」