代替医療のトリック

ハゲプラザでおなじみのホメオはいいとして、東洋医学もバッサリ意味なしとされていて、どうなの梅安。

1910年カーネギー財団依頼によるフレクスナー・レポートにより米主要病院でのホメオパシー教育に終止符。衰退し1920年代には消滅しかけたが、1925年アウグスト・ビールの論文がきっかけとなり、新たな可能性が論じられるようになり、「新ドイツ医療」を作り上げようとしていた第三帝国が採用。戦後も英国王室などの有力支援者のおかげでかろうじて命脈を保つ。イギリス帝国主義医療への対抗として広まったインドから1970年代に入り「エキゾチックでナチュラルでホーリスティック」だとして西洋へ。

 科学者がホメオパスをからかうこともあった。たとえば、ホメオパスのレメディはあまりにも薄く希釈されていて、要するにただの水だから、科学者たちは辛辣にも、レメディを脱水症状の治療に使えばよいと言った。また、「ホメオパシー・コーヒーはいかが?」などと互いに言い合うこともあった。ホメオパスたちは、有効成分が少なければ少ないほど効果は強まると信じているので、ホメオパシー・コーヒーは、信じられないほど薄いにもかかわらず、信じられないほど濃い味がするはずだというのだ。同じ理屈で、ホメオパシー・レメディを飲み忘れた患者は、有効成分を過剰摂取することになって死亡しかねない、などとも言った。

ホメオパシーに効果があることを示す実験的証拠はひとつもなく、効果があると思えるような理論的説明すらないというのに、なぜホメオパシーはこの十年ほどのあいだに急成長を遂げ、何十億ドル規模のグローバル産業にまでなったのだろうか?(略)
 ひとつには、ホメオパシーの信用を失わせる研究が膨大にあるのを、一般の人たちは知らないということだ。1997年にリンデが発表した過度に楽観的な論文はウェブ上で喧伝されているのに、1999年に同じデータを用いて分析をやり直し、どちらとも言えないという結果が導かれたことに触れているサイトはずっと少ない。同様に、2005年にシャンが発表した、いっそう重要かつ否定的な論文は、ホメオパシー関連のサイトでは話題にものぼらないのが普通だ。

整骨のおしゃれカタカナみたいなもんかと思っていたので、トンデモだと知ってビツクリ。

[すべての病気は脊椎のズレからくると主張し無免許治療を行ったダニエル・デーヴィッド・パーマーは1906年実刑判決]
急成長していたカイロプラクティック運動はこの件をきっかけにますます勢いづいた。最初の受難者を得たことで、さらに多くの人たちがカイロプラクティックの教えに従おうとしたのだ。
 D・D・パーマーが活動できなかったとき、カイロプラクティックを広めたのは息子のバートレット・ジョシュア・パーマーだった。(略)[1913年出所祝賀パレードで息子が父を轢いてしまう]
公式には、死因は腸チフスとされているが、息子の車に轢かれたケガが直接的な原因で死んだ可能性が高い。実は、これは事故ではなく、父親殺しだったとの見方もある。父と息子とは、カイロプラクティック運動の主導権をめぐって激しく敵対するようになっており、またB・J・パーマーは、父親の家族に対する仕打ちに怒り、つねづね父親と対立していた。(略)
 B・J・パーマーは、当時すでに統一カイロプラクティック協会を率いる立場にあり、誰もが認めるこの運動の表看板となっていた。彼は辣腕の経営者であり、抜け目のない企業家でもあった。(略)
[原価100ドルの温度を測定するありふれた装置を《ニューロカロメーター》として2200ドルでレンタル。ボッタクリと批判される中、ラジオ放送を使ったメディア戦略でさらに成長、アメリカから欧州へも波及。米国医師会との対立で、主流医療を取り入れ腰痛&頸部痛の治療だけを行う「ミキサー」とパーマー哲学を遵守しどんな症状も脊椎マニピュレーションで治せるとする「ストレート」に分かれる。]

X線より危険なのは、ヴァラエティ番組で御馴染み「首をゴキッ」ですって

 カイロプラクターに診療を受けるとき、最初に出会う危険性はたいていX線による検査である。(略)ストレートなカイロプラクターは、耳の感染症ぜんそくや月経痛を治療するために、脊椎にX線を照射するが、それが何かの役に立つとは思えない。わけても懸念されるのは、カイロプラクターは概して、脊椎全体にX線を照射しようとすることだ。これは、他のほとんどのX線による処置と比較して、かなり大きな線量を必要とする。

「治ってるならいいじゃないか」はなぜマズイか

代替医療が単なるプラシーボ効果に過ぎないとしても、それで治っているならいいじゃないか」という声に対して

 実際、プラセボ効果を最大限に引き出すには、その治療法が特別なものに見えるように誇張した嘘をつくのが一番だ。たとえば医師たちはこんなふうに言えばいい。「このレメディは、アフリカのティンブクトゥからの輸入品なのです」、「このレメディは、今ではもう手に入らなくなっているので、治療に用いるのはこれが最後となります」(略)要するに、ホメオパシーの効果を最大限に引き出そうとすれば、医師は考えられるかぎりの大げさな嘘をつかなければならないのだ。
 昔の医師は、患者にしてやれることがほとんどないなか、たびたびプラセボ効果を利用していた。しかし現代の医療は、検証され、効果の証明された本物の治療法を手に入れた。プラセボに頼った医療システムには二度とふたたび戻ってはいけない、というのがわれわれの強い思いなのだ。(略)
われわれの立場に反対する人たちは、象牙の塔の住人が言いそうな倫理を振りかざした理屈よりも、嘘をつくことで得られる受益性のほうが大きいと言う。そういう人たちは、患者の健康のためならば、罪のない嘘をつくぐらいは許されると思っている。それに対してわれわれは、こっそりプラセボ効果を利用することが当たり前になれば、医療に詐欺文化が広まり、医療という職業が蝕まれていくもとになると反論したい。
(略)
[仮にプラセボ効果に頼るなら]
医師はホメオパシーには中身がないことがバレないように共謀して口をつぐまなければならない。医師は誰ひとり、「王様は裸だ」と言うことを許されない。それを言えば、ホメオパシープラセボ効果が台無しになるからだ。

代替医療で学位

 今では世界中の大学がさまざまな代替医療で学位を授与しているが、それは大学が体現すべきもののすべてを傷つける行為だ。いったいどうすれば、科学的にはまったく意味をなさない「気」や「ポテンタイゼーション」や「サブラクセーション」などという原理を大学で教えて、理学士の学位を授与できるというのだろうか?(この三つはそれぞれ、鍼、ホメオパシーカイロプラクティックの中心概念である)(略)
 代替医療の学位がどれほどひどいものかは、2005年にロンドンのウェストミンスター大学で、「ホメオパシーのマテリアメディカ 2A」という講座の試験に出た問題を見ればよくわかる。「プソリヌムと硫黄は、疥癬のレメディである。これらのレメディで治療される症状が、病気の瘴気をどのように反映しているかを論じよ」。これを見れば、医療の暗黒時代へと後戻りが起こっているのがわかるだろう。

『自然治癒(邦題・病気にならない人は知っている)』は500万部売れたが、その経歴は、カード詐欺で二年服役後、ネズミ講まがいで訴えられ、それでも三度復活し、テレビショッピング。虚偽で告発され2004年200万ドルの罰金とテレビショッピング出演作成放映を禁じられる。しかし言論の自由おかげでテレビでの自著宣伝が可能なためベストセラー。ネットで代替医療商品を売りまくる。

 魚油とセントジョンズワートは、伝統的治療法をルーツとする驚くべき薬であり、はじめは代替医療として売られ、やがて通常医療に受け入れられた例である。(略)
安全で有効であることが証明できる代替医療はなんであれ、実は代替医療ではなく、通常医療になるということだ。つまり、代替医療とは、検証を受けていないか、効果が証明されていないか、効果のないことが証明されているか、安全でないか、プラセボ効果だけに頼っているか、微々たる効果しかない治療法だということになりそうだ。
 しかし、代替医療のセラピストたちはあいかわらず、勲章のように「代替」という言葉を冠し、不十分な治療法に不当な尊厳を与えるために利用している。彼らは「代替」を称することで、科学からこぼれ落ちている何かを拾い上げているというイメージをまとわせようとしている。

結腸洗浄

 食物を摂取すると、腸内に有毒な老廃物がたまり、そのせいで体を毒しているという考えは、医療の素人である一般の人たちには説得力があるらしく、広く世間に流布している。その考えにもとづいて、「自家中毒」から体を解放するという代替医療は多い。(略)
 通常医療で浣腸が役立っていることは疑う余地がない。しかし、代替医療の結腸洗浄はまったく別のものだ。体に溜まった老廃物によって私たちが「汚染」されることはない。重い臓器不全を患っているのでもないかぎり、老廃物はさまざまな生理的プロセスによって排出される。
 結腸洗浄が何かの役に立つことを示す信頼できる臨床的根拠はなく、結腸に穴を空けたり、体の電解質を激減させるなどして、深刻な害を及ぼすという根拠がある。

デトックス

 デトックス、すなわち解毒とは、体に蓄積した有害物質を除去することだ。通常医療における解毒は、摂取したり注入されたりした毒を除去するための確立された治療法である。また、デトックスという用語は、ドラッグやアルコールの常用者に対し、それをやめさせる治療を意味することもある。しかし代替医療におけるデトックスは、少々異なる意味で使われている。正常な代謝によって生じる老廃物が体に蓄積して病気になるかのように言われたり、身体に悪い飲食物ばかり取っていると毒素が生じ、それを除去するためには、さまざまな代替療法によるしかないかのように言われたりする。(略)
人体にはきわめて効率的に毒素を排出してくれる臓器(肝臓、腎臓、皮膚)があり、不摂生な生活で取り込んだ「毒素」を除去してくれている。たっぷり水を飲み、適度な運動をして、ゆったり休養し、分別をもって食事をすれば、不摂生をしても体はすみやかに正常に戻る。そのために高価なデトックスをする必要はないはずだ。(略)
患者から除去されていくのは、たいていはお金だけだろう。