マネーの進化史

マネーの進化史

マネーの進化史

アダム・スミスは、

次のように記している。
「法律に基づいて銀行業務をおこなうと、部屋のなかには紙が充満し……金や銀を乗せた車が空中を飛び交う」

借金まみれの個人

アメリカ人は破産を「生存し、自由を満喫でき、幸福を追求する権利」とほぼ同等な、「不変の権利」だと心得ている。その根底にある理念は、法によって企業家精神を奨励しようという姿勢だ。(略)
[だが]全米倒産裁判所メンフィス支部で扱っている事例は、事業が倒産したのではなく、請求書に見合う額が支払えない(個人の健康保険ではまかなえない)、多額の医療費である場合が多い。普通の一般市民がほとんどだ。倒産裁判所の本来の役割は、事業主を救済することだ。ところが現在では、98%が事業に絡むものではない
(略)
 金融史の専門家たちがいま悩んでいる問題の一つは、個人の家計が借金まみれになっている原因は何なのか、その結果がどのような事態を生むのか、テネシー州に見られるような破産状況が蔓延することは避けられないのではないか、という不安だ。
(略)
貧困は搾取経済の帰結だ、とは言いがたい。貧しさの原因は、むしろ金融機関の不備であることが多い。銀行が存在するからではなく、銀行が不在であるために貧しさが増す。

伝説ではワーテルローの勝利が伝わる前に債権を安値で大量に購入したことで巨万の富を得たとされているが、ヘタをすれば破産だった。紙幣など役に立たない大陸で英国軍が物資を購入するには金貨が必要、ロスチャイルドは大陸封鎖令をかいくぐって金を密輸した経験を買われ資金調達。ナポレオン、エルバ島脱出の報に早速金の購入を再開。だがワーテルローの戦いは予想より早く決着

彼ら兄弟は、いまやだれにとっても無用の金貨の山の上にすわっているのも同然だった。そのカネが必要とされる戦争は終わってしまったからだ。(略)金の価格が暴落することは、目にみえていた。(略)
ネイサンは、イギリスのワーテルローにおける勝利と、それに伴う政府借入金の減少によって、イギリス国債の価格が高騰することに賭けた。ネイサンはさらに国債を購入し、コンソル公債が読んだとおりに値上がりすると、さらに買い続けた。

賠償金だけが原因ではない。大戦中国際的債権市場から締め出され戦時公債があまりさばけず、戦争末期のドイツ帝国の負債の1/3が短期借入金、戦時価格統制のおかげでかろうじてインフレは防げていた。ドイツは賠償金のためのマルク増刷がインフレを招いたと主張するが

ワイマール共和国の税収は、新しい政権の正統性に異議を唱える高額所得者層が納税を拒否したため、かなり困窮していた。(略)[ドイツ金融界エリートの思惑はマルク急落で]ドイツ製品の輸出価格が安くなるから、連合国は賠償協定を修正するに違いない、というものだった。マルクの下落がドイツ製品の輸出を促進しているうちは、そのとおりだった。だが[米英は戦後景気後退](略)インフレによって引き起こされたにわか景気が輸入の急増を促し、彼らが行使しようと考えていた経済的な圧力が相殺されてしまった

1914年6月28日オーストリア皇太子暗殺

だが金融市場は当初、気にも留めなかった。(略)経済紙が深刻な懸念を報じたのは、ようやく7月22日になってからだ。投資家たちが、本格的なヨーロッパ戦争が始まるかもしれない、と遅ればせながら気づいたときには、流動性などというものは、風呂の底が抜けたように世界経済から消えていた。最初に金融危機の兆しが現れたのは、オーストリアセルビアに最後通告を突き付けたことを受けて、運送保険料が値上がりしたときだった(略)先を読んだ投資家たちが、資産を現金化して流動性を高めようと動き始め、債権や株の価格は急落した。(略)国外の債権者たちが資金を自国に送金しようとやっきになったために、為替レートは乱高下した。ポンドとフランが高騰し、ルーブルとドルは暴落した。7月30日は、ほとんどの金融市場がパニックに陥った。(略)
1914年の危機で最も目立った特徴は、世界のおもな株式市場が、最長で五ヶ月も封鎖されたことだ(略)国によって手順は異なるものの、市場の一時的な封鎖、負債の支払猶予、政府による緊急の紙幣増刷、脆弱な機関に対する緊急援助など、応急対策はどこも似たようなもので、規模も前代未聞の広がりを見せた。

レーニン

ケインズのこの洞察は、レーニンの次のことばに基づいていた。
「ある社会の既存の基盤を、確実かつ巧妙に覆すには、その社会で通用する通貨を無価値にするに限る」
レーニンが実際にそう述べたという記録は残っていない。だがボルシェヴィキのなかで彼の同志だったエフゲニー・プレオブラジェンスキーは、紙幣印刷機を評して「ブルジョワ社会の背後から銃撃を加える、人民委員会の財政部門におけるマシンガン」と断じたことがある。

この本をどこまで信頼していいのか不安になる日本に関する記述

[戦後の福祉国家・日本では]生まれながらの病気でも、国が治療費を払ってくれる。教育を受ける経済的な余裕がなくても、国が教育費を払ってくれる。仕事が見つからなくても、国が給料を払ってくれる。病気で働けなくなったら、国が生活費を払ってくれる。退職したら、国が面倒をみてくれる。そして亡くなったあとは、扶養家族を養ってくれることになる。