日本人が知らないMLB

著者には日本通という印象があったのだけど、「斉藤、大塚、岡島は日本では特別すごい投手ではなかった」「斉藤は日本では、いわゆる中継ぎで」なんて書いてて愕然。岡島はともかく、斉藤は87勝48セーブなんだけど。

サクラと星条旗

サクラと星条旗

 

「ボストンは最も人種差別の激しい町」

全米一IQの高いボストン。人種差別の際立つボストン。入団テストを受けに来てオーナーに摘み出されたジャッキー・ロビンソン。「ボストンは最も人種差別の激しい町」と発言して放出されたレジー・スミス。
一方で、移民がひしめき労働者階級を構成するボストン。彼等は日々のフラストレーションを球場ではらす。「何処に坐っても酔っ払いと喧嘩」。

ボストンの人々が松坂に示した大歓迎は、自らの罪の意識を和らげるためであり、「私たちって、心が温かいんだね」と悦にいっているようでもある。
 ノースイースタン大学のアラン・クライン教授はこう言った。
 「(略)腹が立つのは、松坂を応援するボストン市民の間に、“自画自賛”のにおいがぷんぷんすること。(略)レッドソックスのオーナー連は、ボストンが町をあげて、私たちは人種差別から解き放たれたんだ、コスモポリタンになったんだ、という高揚感と強い幸福感にひたっているのに乗じようとしてる。少しうんざりしてきた」

嫌われ者カート・シリング

米球界一の嫌われ者。ボビー・バレンタインの名はよく聞くが、松坂のよき兄貴分みたいな印象のカート・シリングがそんなに嫌われていたとは。あの血染めソックスやらせ騒動というのもそこらへんから来てたのか。プレーオフで松坂を励ましてたあの姿もいわゆる「うぜー」ってやつだったのか。

何かにつけて、うるさいほど見せびらかしたがる、との評判だ。
 特に登板のない日に、テレビカメラに近いダグアウトの階段部分に足をかけ、手を腰にあてがって、胸を突き出す姿はダグラス・マッカーサー元帥そっくりだ。(略)
ラシオのトークショーに電話をかけて、アメリカの政治に関する持論を展開する(彼はブッシュ支持者として有名だ)。
 ESPNにばかげたほど愛国主義的な手紙を送りつけたときは、チームメートもすっかり、あきれ返って、チームバスに乗り込んだシリングをアメリカ国歌のコーラスで迎えたこともある(もちろん、バカにするために)。
 05年、一連のステロイド疑惑に関して開かれた米議会の公聴会では、薬物の恐ろしさを説くというより、いかに自分が倫理観にあふれ、すばらしい選手であるかをひけらかす演説をぶって他の選手の反発を買った。

一番嫌われた日本人選手は伊良部だが

かなり嫌われたという点では石井一久投手も上位にランクする。
 野茂マニアの再来を期待したドジャース首脳の期待を裏切り、制球力不足がひどかった。
 マリナーズ佐々木主浩投手は、パーティー好きがメジャーでの投手寿命を縮めた。
 当時のセットアッパー、ジェフ・ネルソンは佐々木の高額年俸に嫉妬し、チームメートと英語でしゃべろうとしない態度にいらだって、こう佐々木に言った。
 「なんで、その八百万ドルで、会話学校に行かないんだ」

球場使用料の日米差

 [メジャーの]球場のほとんどは、地元からの莫大な助成金に支えられているからだ。
 このシステムのおかげでメジャーのオーナーは一千万ドル(約十億円)単位のカネをポケットにしまいこんでおける。
 一方、日本のプロ野球はといえば、法外な球場使用料でアップアップというのが現状だ。
 例1。オリオールズのカムデン・ヤードは最も美しい野球の大聖堂のひとつだが、使用料はタダ。一方、福岡ソフトバンクホークスは一説に年間48億円の使用料を払っているとされる。
[セーフコ・フィードル建設費は市が負担したが、日ハムは一試合800万円払っている。]

松坂の通訳

 なぜそうなのかをうまく日本語で伝えるのはとても難しいのだが、松坂自身が日本語で話しているときは、ごく普通の野球選手のコメントに思えるのだが、それがいったん通訳氏によって英訳されてアメリカのメディアに載ると、何か国連大使が総会で演説しているように聞こえるのだ。
 ハーバード大学の卒業生を通訳にすると、そういうことになるのだろうか?

「ケンカをするフリ」

ケンカで怪我はしたくないが、チームメイトから臆病だと思われたくない。そのジレンマの解決法は、「ケンカをするフリ」。

 相手選手の胸倉をつかみ、腕を相手の体に巻きつけ、こう耳元で囁く。
 「おれを殴らないでくれ。おれも殴らないから、終わるまでこのまま一緒にいてくれ」
 ケンカの主人公が、仲間の選手に抱きとめられて乱闘を終えるまで、“ダンス”を続けるのだ。

奇人変人

eBayで大枚はたいて自分のサイン入り野球カードを落札するジト。なぜと問われ「だって、本物だから」と回答。遠征にピンクのサテンの枕。海岸でアシカと一緒に吠える。ジトは「アメリカ版新庄」。
レッドソックスのラミレスがeBayに出品。

 リストにはグリルのそばにラミレス自身がいる写真も添えられ、「ハイ、マニー・ラミレスです。私はこのアメイジングなグリルを四千ドルで購入。一回だけ使いました。でもいつも遠征なので以来、一度も使っていないので、売りに出すことを決めました。買ってくれた人にはぼくのサイン入りボールをプレゼントします。エンジョイ」

シアトルの光と影

 シアトルはメジャーリーグの球団をもっている他の都市とは全然、違う趣をもっている。信じられないほど美しい町で、緑の森、内陸を走る水路(運河)、魔法のような小さな島々。エメラルド・シティーという名もぴったりだ。
 地球上で最もリッチな人が住んでいる。
(略)
町は耐えられないほどの政治的な正しさに満ちていて、政治的には左寄りだ。
(略)
[セーフコ・フィールドは]表情のない大きな建築物で専門家からはシックだと評されている。すぐそばを鉄道が走り、時折、列車がすれ違って大きな汽笛を鳴らし、ファンの集中力を削ぐ。まるでメキシコのタンピコ球場。
(略)
汚いヤジを飛ばそうものなら、退場処分にもなりかねない。純粋なモルモン教徒であるCEOのハワード・リンカンのせいだ。家族が楽しむべきところだと信じている。もっとも切符代から球場内の食事、飲み物、駐車料金に至るまでべらぼうに高いが。
 作家のゲーリー・ガーランドはこういってリンカンCEOを批判した。
 「彼のようなポリティカリー・コレクトで洗練された都会的な男性にとって、野球はレディのティー・パーティのようなもので、男のスポーツ・イベントとは思っていないようだ」と。