西武では堤の「特命」を受け働き、さらに長嶋の黒子としてメイクミラクルを御膳立てし、ジャイアンツCIAを設立しようとした河田弘道の厖大な「Gファイル」を元に、大相撲八百長告発渦中の著者が放つ巨人内幕暴露。プレジデント連載だけあって権力闘争話テンコ盛り。
- あの奇蹟の96年、日本シリーズを前に長嶋は監督を辞めようとしていた
- 80年解任直前、対応を相談した電話内容が詳細に週刊誌にすっぱ抜かれて以来、長嶋は「盗聴」恐怖症だった
- 95年負傷した桑田は大リーグ入りを目論んでいた
なんて話が。それにしても長嶋さんのヘンテコなカタカタトークって嫁と河田の影響なのだろうか。
とりあえず野球ネタは明日に回して、今日は「権力者のケツを舐めて権力を手にする」男達のげんなりする話を主に。
川上の怨念がもたらした退廃
V9時代優勝して読売本社に行けば「元アカ」のナベツネや氏家の冷たい視線。所詮野球選手は親会社の駒でしかない。監督引退時にも屈辱を味わった川上の怨念が産んだ理想郷が退廃をもたらした。
藤田の使命は、“待遇”や“福利厚生”の改善だけではない。正力亨の横暴を排除することもそれである。川上と藤田は読売新聞の務台光雄の威光によって政権基盤が支えられている。(略)
川上と藤田が成しとげたかったことは、野球人による、野球人のための“聖域”づくり、もしくは“王国建設”だったのではないか。ライバルを蹴落とし、傷つき、血のでる思いをして勝利に勝利をかさねてきたのは、なによりも選手たちなのだから、独立採算事業体の実現が無理ならば、そして読売新聞が購読部数を増やす手段としてだけ巨人軍を位置づけるのだったら、その収益の相当部分は選手に還元されてもよいはずだ。(略)そういった意識の底には、ユニフォーム組をつかさどる背広組への強い反感がある。
巨人軍や組織といったものへの底深く拭いきれない不信感と絶望が、川上と藤田にはある。身を粉にして働いても弊履のごとくうち捨てられる無惨さ。男芸者のようにあつかわれる屈辱感。それが野球人主導による球団経営という理想郷を夢見させ、現場への利益分配という構造を育んでいったのだが、それは同時に、V9戦士の増長と球団全体の構造腐食をまねいた。(略)
川上の「管理と統制」による抑圧の日々にならされたV9戦士たちは、「信頼と自律」を標榜する長嶋の登場によって一気に弛緩し、さらに藤田が実現した利益還元制度ですっかり球団の財布をあてにするようになった。(略)
自分たちがいまの巨人を築いたのだから、今後もなんらかの恩恵を享受する権利が存分にあるではないかと、そんな感覚をもっているようだった。彼らは選手を導くコーチ、というより、まるで約束手形の回収に血道をあげる債権者だった。
だから選手の扱いはぞんざいになり、V9の“約定”をもたない外様のコーチや医療専門家は邪険にされ、先進的なスポーツ医科学の導入はすっかりなおざりにされてきた。川上がつくりあげたかつての有能な戦士は、長嶋が再登壇したときには、すでにチーム進化の足かせとなっていたのだ。
80年3位で留任と務台のお墨付きがあったのに
なぜ長嶋は解任されたか
[川上提案は]長嶋監督留任のまま川上が代表に就き、球団社長として読売本社から人を迎えるというものだった。これにあわてたのが正力だ。それが通れば現場の実権を務台と川上に奪われる。そこで義弟の小林与三次をたてて、「巨人軍再建案」を掲げる務台との綱引きとなった。この折衷として落ちついたのが、川上の代表就任取りさげと、川上派の大番頭である藤田の監督就任である。正力は実をすてて名をとったのである。
96年10月の衆院選で水野賢一*1の応援をナベツネに頼まれるが、長嶋ブランドは“不偏不党”だと反対の長嶋家。
選挙投票日は東京ドームでおこなわれる日本シリーズの二日目にあたる。おどろいたことに長嶋は、渡邉との約束をはたすのと引きかえに、監督の座をおりるべきだという家族会議の結論に、すでに同意しているというではないか。
何故ナベツネの頼みを断れないかというと
[近所同士の縁で中曾根ラインで]何度も渡邉に指揮官復帰を打診していたのだ。中曾根と渡邉の政治的関係をよくわきまえたうえでの行動である。
92年秋の渡邉による長嶋監督復帰の決断は、前年の務台の死去を受けてのことだ。渡邉にしてみれば、その授けたものの大きさから考えて、選挙応援など取るにたらない役務だったろうし、すでに中曾根という政治家の力を利用していたのだから、亜希子のいう“政治的中立”などとうの昔に手放している。
渡邉に直接ことわりをいれることができなかった長嶋の事情はここにある。
結局、長嶋が応援テープを吹き込むという妥協案に。でもナベツネ激怒。
亜希子が「渡邉社長にユニフォームをお返しする」と通告した翌日の10月4日、読売新聞東京本社の社長室に響きわたった渡邉恒雄の怒鳴り声と、それに応戦する鯉渕の大音声に、秘書たちは固唾をのんだ。
「今になってなにをいうか! こっちは無理強いしたわけじゃない! 長嶋が受けるというからそのつもりで話を進めたんじゃないか! 鯉渕、だいたいおまえが何でこの話を知ってるんだ!」
ここで鯉渕が気圧されたように亜希子と河田の名前を出すと、渡邉は怒りにまかせてさらにこう言った。
「河田と長嶋の女房の差し金なんだな! 長嶋の野郎、女房の尻にしかれやがって、一茂はいったい誰のおかけでユニフォームを着てられると思ってるんだ! とっとと脱いでもらおうじゃないか!」
結局、渡邉は長嶋による街頭演説を断念し、水野推薦の弁を吹きこんだ録音テープを提供するという折衷案を受け人れたのだが、水野はあえなく落選してしまい、渡邉と球団フロントの間には、大きな禍根がのこった。
フロントの実権を握る鯉渕が機能停止したせいで「落合と清原」問題もこじれた。しかも鯉渕の代わりをやる深谷代表に落合が失言してた。
その年のオールスター、富山での第三戦の夜、巨人選手&スタッフで無礼講宴会の席。
酒がすすむにつれて饒舌になった落合から、「代表は蚊帳の外に置かれてるんですよ」と小馬鹿にされたというのだ。さらにその場にいた斎藤投手の年俸が低いと言ってなじられ(略)
落合にしてみれば、東大教育学部を卒業し、務台光雄、渡邉恒雄の歴代権力者に可愛がられた深谷は、鼻持ちならないエリート臭ふんぷんたる存在だろうし、フロントの実権は鰹渕が掌握していることは誰の目にも明らかだったから、「無礼講」の勢いもあって、発言に軽侮の色がにじんだのだろう。(略)
深谷は河田らにこう吐きすてた。
「(略)『他人の契約にかまってる場合か』とよっぽど言ってやろうかと思ったよ。大事なシーズン中だからやめたが、だいたいあんなやつ契約しなきゃいいんだからなんてことないよ」
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河田が見た、西武の裏側
「義明の左右」豪放磊落な戸田博之と冷徹な山口弘毅
山口は慇懃な姿勢をくずさない。堤猶二がたまに原宿の国土計画を訪れると、帰りぎわに玄関まで見送りにでて、車のドアを開けて最敬礼し、猶二が乗りこむのをかしこまって待ちうける。だが、彼には裏の顔がある。
義明が猶二をプリンスの副社長に降格させたきっかけといわれる出来事がある。じつは猶二がウェスティン・ホテルズの会長令嬢と結婚したとき、山口は義明に「外資と手を組んで猶二さんがプリンスを乗っ取ろうとしている」と耳うちしたというのだ。義明は、この讒言を真にうけ弟の処断にいたったというのである。
山口弘毅の影の力はすでに絶大だった。プリンスホテルでのパーティや、ゴルフ場のセッティングなどの“便宜供与”を求めて堤義明のまわりには自民党の政治家たちが群棲している。それら代議士の利用価値や将来性にもとづいて格付けをし、利用料金をきめて差配するのは、すべて山口に一任されていた。このため政治家の秘書らは競って山口に媚び、そのもとめられるままに情報を吐きだした。
土下座して実権を握る男達
河田は、堤が戸田を殴りつけるところを目の当たりにしたことがある。あまりの光景に目をそむけるほかなかったのだが、信じられないことに、なんと山口にもそうすることがあったというのだ。
そこにたいした理由などありはしない。抗命など断じてゆるされず、長年にわたってその打擲に堪え、社長室の和間でひたすら平伏する山口の心のなかに、暗い情念の種子が宿ったとしても不思議はない。
独裁者は平和を好まない。つねに「こと有れかし」と、剣をふりかざす時をもとめている。情報屋が暗躍する舞台はまさにそこにある。その絶望的な猜疑心につけいることによってのみ彼は生きる術を得られるのだ。独裁者に対して、平然と同僚やその係累を中傷し、“危機的状況”を織りまぜて加工し、おとずれもしない乱世を「今そこにある」と予言してみせ、その裏側でひそかに自分本来の欲得をみたすのだ。
堤義明はもう山口弘毅を切りすてることなどできなかった。
「国土やプリンスの役員は山口の関係者ばかりじゃないか」
周辺にそうぼやいたこともある義明だが、時すでに遅しだった。西武グループの旗艦企業「国土計画」を掌握した山口は、実質的に西武グループのすべてをつかんだことになる。
堤が河田の義父の日体大人脈を利用しようとしていることに気付き河田は西武を去る
河田はいまだに堤義明が好きなのだ。東京プリンスの一室でふたりきり、仕事の話がひと段落した食事の際になど、義明は子供のころのことや学生時代の思い出を語ることがよくあった。河田もアメリカに渡ったばかりのころのできごとや世間話で応じると、義明は熱心に耳を傾け、にこやかな笑顔をうかべた。そこには普段の暴君ぶりからは信じられないほどうち解けた表情の義明がいた。そしてちょっとした仕種が弟の猶二にそっくりだった。
江川巨人入団に有利な裁定をした金子コミッショナーに激怒した義明の“富豪刑事”な報復
金子の出身母体である富士銀行から西武グループ関連の預金をすべて引きあげ、役員数名を退任に追いこんだといわれている。また西武は三菱グループとは月に一度連絡会議をひらくほどの協力関係にあり、西武系のバスやタクシーはすべて三菱自動車の製品だったのだが、江川を匿い、宮内に門前払いを食らわせた三菱商事への報復として、すべての自動車を他社メーカーの車両に切りかえさせた。それは数百億円規模の契約だったという。そんななか、西武鉄道の各駅売店から読売新聞が一時的に姿を消した
森祗晶
ひたすら勝ちつづける森監督は、チームの現場掌握にあきたらず、GMとして球団経営への願望をほのめかしていた。堤にはそれが森の増長に映った。いくら勝っても爆発的な人気につながらない“陰鬱な森”に代わって、華のある長嶋か王をもってきたいというのが堤義明の考えだった。しかしそれもワンポイントの話で、いずれ生え抜きの石毛宏典を監督に据えたいというのが、堤の側近の思惑だ。さらにその向こう側には企業の生き残りをかけた「一リーグ制導入」が見え隠れしていた。
こんな下世話な話を延々と引用してて心が汚れました。それでも明日につづく。