マーシャル・プラン、フォレスタル

穴埋めで「トイレで古い新書を猛烈に消化する」シリーズ。

トルーマン・ドクトリン

英外務省も、たかだか「4億ドル」程度のギリシャ援助の肩代わりを発表するだけなのに、米国の大統領が行使した「大騒ぎ」に驚きの色を隠さなかったと伝えられ、「これではソ連に対する宣戦布告とみられかねない」という声すら出た。
[前年中間選挙での敗北からトルーマンは「打ち上げ花火」の必要に迫られていた]
単純なまでに明確化された原理の方が、訴える力を持つ。トルーマン・ドクトリンがその後長く米国の外交政策、とりわけ対ソ政策の基本原理として生き廷びたのはその深遠さの故にではなく、単純さの故にであろう。

ジョージ・ケナンの「封じ込め理論」(1946年に登場)は実際

ソ連の権力はその内部に自分を亡ぼす種を含んでおり、この種の発芽がかなり進行しているという可能性が残ることになる。

といった放置プレイの勧めであった。

封じ込めは、ナポレオンの大陸封鎖のような「ブロッケイド」ではないし、ましてダレス国務長官が宣言した「巻き返し」政策のように、相手に対する攻撃的で干渉主義的な政策とは違うのである。長期の持久戦がその本質である。その間にソ連はじわじわと内部に宿す崩壊の種を育て、自ら変化せざるを得ないだろう、というケナンの考えである。確かに、これは具体的な政策というよりは、歴史のものの見方に近い考えだろう。

ケナン自身の分析による誤解を招いた理由

①東欧圏についての説明がなく、ソ連体制の脆弱性を周辺にまで及ぼす議論をしなかった、②封じ込めは軍事的封じ込めでなく政治的脅威の政治的封じ込めであることを明確にせず、肝心の点で誤解を招いた、③封じ込めの地域区別を明らかにしなかった

米西戦争がもたらした海軍重視は日本にも

短期圧勝に終わった米西戦争は、アメリカにとって「すばらしい小さな戦争」(ジョン・ヘイ国務長官)であった。すでに国内でフロンティアを失っていたアメリカは、フィリピン、グアム、プエルトリコなどを領有、ハワイも併合して、〈世界帝国〉としての道を歩み始めた。〈明白な運命〉という言葉が、これを正当化する。米西戦争で、アメリカは世界第2位の海軍力を遺憾なく発揮した。この戦争に先立つこと8年、アルフレッド・マハン提督は有名な『海上権力史論』を著し、主として大英帝国の興隆の歴史をたどりながら、大海軍を中心としたシーパワーによって制海権と通商支配を確保する海外膨張論を説いていた。彼の思想は、次の大統領セオドア・ローズヴェルトや、ドイツ皇帝ウィルヘルム二世、さらには日本海軍にも大きな影響を与える。

大恐慌の際に自分だけはうまく株を売り抜け他人に大損害を与え罪悪感にかられた<ウォール街の鬼才>フォレスタルはニューディール政策に積極的に参加

一方、ウォール街の仲間たちは、彼らを〈ホプキンス子飼いの大金持たち〉と皮肉った。彼らより一世代上のバルークなどは、「国民にはよくわかっていないだろうが、われわれはフランス革命よりももっと過激な革命の中にいるのだ」と、ニューディール政策を非難していた。大企業よりのビジネス雑誌『フォーチュン』も、ローズヴェルトが相次いで設立する行政委員会を皮肉って、「委員会の委員会による委員会のための政府」と呼んだ。

まず海軍ありきの戦略&仮想敵国

「もっとも重要なことは、戦後海軍が空母海軍であったということである。そのため海軍関係者には、空母がもっとも効果的に作戦行動をとりうる地域と、合衆国の国益とを同一視する傾向が生まれてきた」と、アメリカ外交史の碩学アーネスト・メイは述べている。もとより、ソ連は巨大な陸軍国だが、このビヒモス(旧約聖書ヨブ記に登場する陸の怪獣)を海洋から封じ込めるという使命抜きには、戦後のアメリカがリヴァイアサン(同じく海の怪獣)として存立することは不可能であった。
この点で、陸軍は対ソ封じ込めの主力ではなかった。スティムソンやマーシャル、アイゼンハワーら陸軍首脳が、フォレスタルほど反共イデオロギーの虜ではなかったことは、決して単なる偶然ではあるまい。むしろ、陸軍はドイツ占領でまだまだソ連との協力を必要としていた。

空母無用論

他方、独立を悲願とする陸軍航空部隊は、戦略爆撃機を武器にして海軍無用論に類する”空爆”を重ねていた。東京大空襲の指揮官として知られるジェームズ・ドーリットル将軍は、「空母には二つの特徴がある。一つは動き回れることであり、いま一つは沈められることである」、「十分な航続距離をもつ航空機が開発されれば、空母など無用の長物になる」などと公言して憚らなかった。

狂った長官。マジで自殺する五秒前。

このころには、フォレスタルの心を病魔が蝕んでいることが、明らかになってきた。1948年暮れの閣議のことである。クリフォード大統領特別顧問は、国防長官のうしろに着席した。会議中にフォレスタルがしきりに頭のうしろを爪で引っ掻いているのに、クリフォードは気づいた。やがて皮膚はー面真っ赤になり出血しだした。それでもフォレスタルは止めない。クリフォードは得体の知れない恐怖に包まれながら、ただそれを見守るしかなかったという。

コードネーム「ナイチンゲール

ウクライナ民族主義者組織(OUN)という集団があった。OUNはウクライナの独立を求めて、戦前にソ連国内で過激な地下活動を展開していた。やがて、ナチス・ドイツソ連に侵攻すると、OUNは彼らと手を組み、何千人というユダヤ人に共産主義者のレッテルを貼って虐殺した。戦後になると、当然OUNは追われる身となった。しかし、CIAが彼らに目をつけた。CIAはOUNに資金・武器を提供し、さらにはアメリカ国内で軍事訓練を施して、反政府活動のためにソ連に送り返していたのである。この秘密計画のコード・ネームが「ナイチンゲール」であった。