ルネサンス哲学&貨幣空間

ルネサンス哲学

ルネサンス哲学

  • 作者: チャールズ・B.シュミット,ブライアン・P.コーペンヘイヴァー,Charles B. Schmitt,Brian P. Copenhaver,榎本武文
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2003/09/01
  • メディア: 単行本
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新世界の種族は人間なのか

学問の世界が印刷された言葉の射程とともに拡張するのと同時に、経験の世界もますます広く大胆になっていく探検航海によって拡大した。哲学者の書斎に及んだその波及効果は予想外に大きなものだった。新しい土地や民族の発見は、プラトンアリストテレスがその中で生き考えた空間を破り、彼らが自然哲学と道徳哲学の枠組として当然のように受けいれていた狭い境界を破壊した。とりわけ緊急を要する問題は、新世界の人々がヨーロッパ人と同じだけ人間的なのか、それとも何か新奇で下等な種族なのかというものだった。この問いは、十六世紀スペインにおいては大問題であり、アメリカ合衆国の建国者たちがその憲法を起草した後の人間の平等と奴隷制に関する哲学的議論にも、依然として反響していた。

ネットはネットで取り締まれ。思想弾圧も印刷技術で対抗。

逆説的なことに、この新しく効率の悪い検閲制度に技術的基盤を与えたのは印刷機だった。書物が印刷されるのを妨げたり、出版された書物の流通を制限したりするための権力以外に、多数の人間の意見を操作しようと望む検閲者は、独自の禁書リストを流布させ統御する必要があったからである。一旦印刷してしまえば固定化し流通させやすくなるために、検閲者は、印刷された目録あるいは反=目録を求めた。

スコラ学の最大の勝利

スコラ学の最大の勝利は、もちろんアリストテレス主義の伝統のキリスト教化だった。最も偉大なスコラ学者アクイナスは偉大な論理学者ではなかったが、彼がつくりあげた哲学的神学は、異教徒のアリストテレスキリスト教会に奉仕させた。これは、異教的過去の叡知を回復すると同時に浄化する必要を強く感じていた文化にとって、はかりしれない価値のある贈りものだった。

貨幣空間

貨幣空間

第一章だけ。

皇帝から海岸地帯を与えられたファウストは、海を埋め立て、運河を掘り、堤防を築いて、新しい居住地を建設する。彼の仕事は人民の生活を”豊か”にしたはずだ。しかし広大な新しい土地を支配する領主である彼にも〈所有〉し切れないものがあった。菩提樹の木立ち、その傍らの茶色の板小屋、朽ち果てた礼拝堂、そしてそこで昔ながらの慎ましい生活を続けるバウチスとフィレモンという老夫婦の狭い土地だ。ファウストは、老夫婦の生活が自らの築き上げた新世界秩序に属していないことに苛立ちを覚え、礼拝堂からの鐘の音に胸をかきむしられるような苦しみを覚える。”全て"を同一化する貨幣の論理は、自らの領域内に同化されない、”異質なもの"が残留することを許さないのだ。(略)
彼が近代的な生産の力によって所有権を拡大すればするほど、ますます彼から遠ざかっていくものがある。ゲーテが『ファウスト』を書き終えた十三年後にマルクスが『経哲草稿』で定式化したように、近代的な生産は生産者を自らが獲得しようとしているものから〈疎外〉してしまうのだ。