安息日の前に/エリック・ホッファー

安息日の前に

安息日の前に

1974/12/02
 波止場から引退してもうすぐ八年になるが、いまでも夢の中で船荷を積み下ろしている。朝目覚めると、夜のきつい仕事のせいで体中が痛いように感じることがある。年金とは、われわれが引退後も夢の中でつづける仕事に対して支払われる給料のようなものなのかもしれない。
 現在においては、非効率的な社会のほうが安定しやすいように思われる。一つの仕事を成し遂げるのにできるだけ多くの労働者を雇う社会、それが非効率的な社会である。そうした社会は自分が役に立っているという感覚を成員に分配する。これは富や権力の分配よりも、社会の安定にとって不可欠なものである。
  
1974/12/07
 第二次世界大戦後の西洋におけるナショナリズムの衰退は、相反する二つの傾向をもたらした。イギリス人やフランス人、ドイツ人であることにさほど栄誉を感じなくなったとき、人びとはヨーロッパ人や大西洋共同体の一員であることに以前よりも魅せられるようになった。しかし同時に、スコットランド人やウエールズ人、ブルターニュ人やブルゴーニュ人として生まれ変わることにも魅力を感じるようになったのだ。ナショナリズムの低下は、国際社会への帰属意識を増大させると同時に民族的分離主義への衡動を高めるのだ。
  
1975/01/25 (略)
 対等になりえない者を対等に扱うと、彼らの不平等感を助長することになる。同じく、自助努力できない者に自由を与えると、彼らの被抑圧感を増長させることになる。さらに、自助努力できない者に自由と平等を同時に与えると、彼らから気休めのアリバイを奪ってしまうことになる。
  
1975/05/24
 不正を正しても社会の協調度が増すわけではない。女性解放、人種間の平等、貧困に対する闘いは、さらなる国民の結束をもたらしはしなかった。それどころか、社会正義は不満を倍増させ、不和に油を注いだ。完全な自由のように、完全な正義も社会分裂の原因になるのかもしれない。
 文明生活は不完全さを引き受けること、つまり、もっている権利を行使し尽くさないことを前提に成り立っている。