萌えるアメリカ

アメリカの出版流通話だけを。

萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか

萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか

検閲機関CCA(コミックス・コード・オーソリティ

ビズがマーケットに登場した80年代は、コミックス市場がコレクターズブームに沸いた一種のバブルともいえる時期で、コミックスは読まれるためというよりも、その後の価値の上昇を見込んで買われる「株」のような扱いで売り買いされていた。
こうしたコレクターズバブルを引き起こした背景には、40年代から60年代にかけて、コミックスに対して倫理規制を求める保守的な世論が強く影響したことがあげられる。(略)
当時のアメコミ流通は、ニューススタンドマーケットと呼ばれるスーパーやキヨスクなどで売られる雑誌の販売ルートを利用しており、マーベルのような大手のコミックスは、この検閲を受け入れないわけにはいかなかった。このため、アメコミはしだいに子供向けのストーリーやキャラクターが増えて単純化し、それに満足しない読者たちを失っていった。結果として、それまで黄金期を謳歌していた大手のコミック出版社は、この検閲制度の導入によって大きな打撃を受けることになったのである。
一方で、こうした検閲に通りそうもないコミックスはしだいにアンダーグラウンドコミックスとして密かに流行し、通常の正規ルートに乗せなくてもかえってよく売れるという逆効果を生み出すことになった。
このようにコミックスに対する世間の風当たりが強かった50年代前後、教育に悪影響を与えるという理由で多くのコミックスが親たちによって廃棄処分され、のちにこれらのコミックスがレア物として取引されるようになったといわれている。

イタリア事情

イタリアで最も印象的だったのは、コレクターたちのマニアックなムードが漂うアメリカのコミックショップとは違い、どの店もおしゃれで明るい雰囲気が漂っていたことである。コミックスのようなポップカルチャーを売る店が、古く味わい深い街並みのなかに何の違和感もなく溶け込んでいる様子は、この国の文化の成熱度を象徴しているようにも思えた。(略)
イタリアで火がついたマンガ人気は、まもなく同じラテン系のスペイン、ポルトガルヘと飛び火し、やがてスウェーデンやフランスからも問い合わせが来るようになった。さらに、我々のサブライセンスの取引先はメキシコやブラジル等の南米諸国へも広がりはじめた。

なぜ「アメリカのコミックスは一般書店ではなくコミックショップでしか売られてこなかったのか」二つの理由

ひとつは、アメリカにおける書籍流通システムの複雑さと、販路拡大の厳しさである。アメリカには、日本のトーハンや日販のように書籍の流通を一手に仕切る大規模な取次業者が存在しない。したがって出版社側は、コミックスならダイレクトマーケット、一般書籍ならトレードブックマーケット、雑誌ならニューススタンドマーケットという具合に、出版物の種類や流通チャネルによって、まったく異なる取次会社、セールスマングループと組まなくてはならない仕組みになっているのだ。
しかも、それぞれの流通チャネルには、それに適した出版物のフォーマットがある。[薄い中綴じのアメコミは一般書店のフォーマットには適さない](略)
雑誌についても同じだ。一般の書店内にはたいてい書籍以外に雑誌のコーナーを設けているが、そこは「スペシャリティ」と呼ばれ、一般書籍を扱う業者ではなく、ニューススタンドマーケット専門の業者が流通を担う。日本のように、雑誌もマンガも一般書籍も同じ取次業者に任せるというシンプルな構造にはなっていないのだ。
アメリカのコミックスが一般書店で売られていないもうひとつの理由は、アメコミ業界全体の体質の問題である。なぜ、マーケットの異なる雑誌は一般書店にも流通しているのに、コミックスだけは流通してこなかったのか。それは、「返本なしの買い取り制」というダイレクトマーケットの心地よさに甘んじ、アメコミ業界全体がコミックショップ以外の流通チャネルを本気で開拓しようという意欲を持たなかったせいである。

マーベルやDCがそこまでダイレクトマーケットにこだわる理由は、

単にこのマーケットが彼らにとってコントロールしやすいからである。多くのコミックショップでは、まずマーベルとDCのコミックス用の予算を決め、とりあえずこの両社のタイトルをすべて注文したあとで、残った予算で他の出版社のタイトル注文にあてる。したがって、マーベルとDCは、タイトル数や出版時期、価格などを操作することで市場を意のままに動かすことができる仕組みになっていたのだ。
このなんとも不公平なシステムこそが、長年にわたってアメリカのコミックス業界の成長を阻んでいる最大の理由だと僕は考えていた。

トレードブックマーケットの仕組み

出版社は通常、出版する書籍のラインナップを遅くとも発売の九ヶ月前までに決定し、ぺージ数や内容などの情報を記載したカタログをシーズンごと(主に春夏期と秋冬期)に作成しなくてはならない。このカタログに間に合わなかった出版物は、次のシーズンに回されることになる。したがって、緊急な追加や変更はできない。企画が持ち上がったときにすぐ出版を行える日本とはかなり状況が異なる。
そして、これらのカタログを携え、出版社の手足となって一般書店に商品を売り込みに行くのが、各地域のセールスマンである。(略)
出版社から営業委託されたセールスマンは、まず担当地域の大手ブックチェーンを回ってカタログを配り、そのあとに個人経営の書店にも足を運んで売り込みに行く。カタログには地域別に担当セールスマンの連絡先が記載されており、書店側はそれを頼りに書籍の注文を行うのだ。
さらに、アメリカには「ホールセラー」と呼ばれる卸売業者があり、彼らも出版社にとっては重要な顧客である。(略)彼らは一度に大量の仕入れをするので、一般書店よりもさらに10%程度多めにディスカウントを受けることができる。そこに利益を上乗せして各書店に販売するというのが、彼らの商売の仕組みだ。
なぜこのようなホールセラーが介在するのかと言うと、書店舗が品切れですぐに再注文をしたいという場合に、セールスマンを通じて出版社へ注文するよりも、すでに大量に在庫がある地域のホールセラーから仕入れたほうが、値は少し高くついてしまうがすぐに届けてもらえるというロジスティクス面での利便性があるからである。これも、国土の広いアメリカならではのシステムといえるだろう。

定期購読で愛国心育成

[雑誌売上の87%が定期購読、その理由は]
19世紀後半にアメリカ合衆国政府が制定したある政策が影響している。それは、雑誌の全国への郵送料金を低額化するというものだった。この政策は、雑誌という媒体を通じてアメリカ国民の意識を統一させ、愛国心を育てることを狙いとしており