役者は一日にしてならず 林与一、田村亮

役者は一日にしてならず

役者は一日にしてならず

林与一

[必殺の]第一話で室田日出男さんの演じる奉行を斬るんですが、どうやって斬るかを深作欣二監督、栄ちゃん[殺陣師の楠本栄一]、僕で相談しました。(略)あの殺しは血が噴き出して、凄かった。深作さんならではですよ、あれは。大映が倒産した時だったから、楠本さん自身もここでなんとかしようという気持ちがあって、みんなで意見を出し合いました。
(略)
 緒形さんとは仕事は初めてでしたが、彼が新国劇にいた頃から付き合いがあって、普段も一緒に飯を食ったりしていたんです。ただ、芝居になったら格闘技と同じでして。『この野郎!』と思いながら、やっていました。
 たとえば、とあるシーンで二人が会話している。そこは長回しのワンカットで撮るんですが、緒形さんが段々とカメラの正面に入って、僕に後ろを向かせようとするんです。僕もそうはさせじと、胸ぐらをつかんで無理に引っ張って横を向かせたり。すると向こうは怒った顔をする。そういう闘いが楽しかった。
 彼は黙っていても生活感が見える。僕は見えないから、しょっちゅう喋っている。そうしたら緒形さんは『生活感が見えない方が格好よくていいじゃない』と言うんです。僕も『いや、映像は生活感が見える方が得だよ』なんて言い返したり。
 昔は彼が好きじゃなかった。でもある時、芝居を観たら凄く汗かいて一生懸命やっている。それで好きになっちゃった。

 親父が死んで間もなく、東京に引っ越しました。生前、親父が成城に土地を買っていたんです。『これからの映画界は京都ではなく東京がメインになっていくだろう』と考えていたそうです。プロダクションを作ったスターも親父が初めてでしたが、そういう先見の明があったんですね。
(略)
 親父って、殺陣をしていても足を開かないんですよ。斬るとき、みんなはバサッと足の据を拡げるけど、親父は閉じる。そっちのほうが綺麗に見えるんです。そのために、親父は畳の縁をつたって歩く練習をしていました。あの上を何度も急ぎ足で歩くんです。
 着物の着方でも、今はみんなキチンとしているけど、親父はダラッとしていた。それで僕も、着付けにしても袴でもあえてゆったりと着てみたりします。

実相寺昭雄『無常』

『TBS出身で変わった映像を作る監督なんだけど、話が来ているんだ。何しろややこしい本だけど、主役だ』と。その『主役』というので監督に会うことにしたんです。喫茶店でお会いして、ものの十分くらいで『ちょっと過酷なロケになるかもしれないけど、やりましょう』というので『お願いします』と答えました。それが最初の『無常』でした。
 実際、本当に過酷でしたね。
(略)
濡れ場の演出も他とは違っていましたね。『無常』は近親相姦がテーマでしたが姉弟の濡れ場は台本だと『正夫が寝ている。障子が開いて姉の足が入ってくる。正夫の方に歩いていく』それだけなんです。普通なら四、五カットで終わると思うんですが、実相寺さんはなんと八十カット以上。月の光で影が揺れたり、彼女の悶える顔とか、足の指の反り返りとか、繋がり関係なく撮っていきました。それで朝までかかったんです。『はい、オッパイの先を噛んで!』と指示された時は驚きましたね。『え、そんなことするんですか』って。そしたら監督、『えっ、亮ちゃん、やったことないの?』って。