前日のつづき。
- 作者:シンシア レノン
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
すべてに関心を失っていたジョン
ジュリアンの見たかぎりでは、(略)[主夫業]どころか、ジョンはベッドルームの中の自分の小さな世界だけで生きているようだったという。すべての権限を放棄して、ヨーコにゆだね、ジュリアンにまでヨーコのことを「なんでもいちばんよく知っている」と言うほどに。
死
『ダブル・ファンタジー』の制作に取り組んでいた。ジョンからジュリアンヘの電話も、以前より頻繁になった。まるで、創作意欲が湧き出してきたら、ジョン自身も長い眠りから目覚めて、息子が自分を必要としているのだということにはっと気づいたかのようだった。制作中のアルバムからのトラックを、ジュリアンに聴かせて、意見を求めることもあった。それまでには、決してなかったことで、ジュリアンの自信をどれだけ高めたかしれない。
ふたりの距離が急接近しはじめ、ジョンの人生がまわりだしたように思われたちょうどそのころのことだ。
父の死にかけつけた17歳のジュリアンに
[私設秘書の]フレッドから呼ばれて、ヨーコはいかなることがあっても、ジュリアンをいっさい関与させないつもりでいるから、承知しておいて欲しいと、静かな口調で告げられた。「ニューヨークに来ることは許しても、調子に乗ってそれ以上出すぎた行動をしたら許さないというのが、ヨーコの考えだ。それを通すためなら、ヨーコはなんだってするだろう。ヨーコにとって大事なのは、ショーンだけだ。はっきり言って、ヨーコの世界にはきみの居場所はない」。フレッドの警告は、かなり手厳しいものだった。けれども、それから数週間、数か月たつうちに、まさにその警告どおりだということがわかった。
ジョンの血まみれ眼鏡をジャケに使って顰蹙買ったヨーコですが
[「ストロベリー・フィールズ」起工式に]
ヨーコはジュリアンに、家族の一員として、どうしてもいっしょに出るようにと望んだのだ。しかも、ジュリアンにジョンのキャップとマフラーを身に着けて欲しいと言って。ジュリアンはヨーコからの圧力を感じ、ジョンを介したふたつの家族の関係がこれでよくなるのであればと願って、ヨーコの申し出を受けることにした。式のあいだ中、ジュリアンはいたたまれない気持ちにさいなまれ、一刻も早くダコタに戻って、キャップもマフラーも脱ぎ捨てたくてたまらなかったという。(略)
[ジュリアンとうまくいっていることをアピールしようという意図も感じさらに不快感]
以下、ビートルズ以外の話題
キース・ムーン
[ロンドンに移りセレブの仲間入りした頃]
お気に入りの店のひとつが、アド・リブ・クラブだった。(略)双子のシンガーのポールとバリー・ライアンや、リバプールの同志フレディ&ドリーマーズとジェリー&ペイスメイカーズ、それにザ・フー、ローリング・ストーンズ、アニマルズ、ジョージー・フェイムらも来ていて、夜どおしおしゃべりしたり、飲んだり、踊ったりして過ごしたものだった。ザ・フーのドラマー、キース・ムーンとは、会うたびにふたりで哲学的な会話を楽しんだ。キースには狂気のロッカーのようなイメージがあるけれども、ほんとうは繊細で真面目な人柄で、その10年後に若くして亡くなってしまったときには、ほんとうに切なかった。
アルマ・コーガン
ジョンと関係をもっているのではないかとわたしが疑っていた女性のひとりが、アルマ・コーガンだった。ふたりのあいだに流れる妙に生々しい緊張感、そしてアルマがジョンにちょっかいを出すときのこれ見よがしの態度。でも、それを裏づける根拠はなにもなかった。ただ、それを強く直感しただけだ。
インド行
[部屋は]二段ベッドと、飾り気もなにもないタンスだけだ。ジョンはもの珍しくておもしろがっている。「うちと違うなあ。そう思わない?」と言う。確かにそうだった。
そのとき、ミック・ジャガーとマリアンヌがふらっとわたしたちの部屋にやって来た。ふたりとも、あまりにも質素な施設なので、戸惑っているようだ。「おい、ジョン、いったいどうなってるんだ? それで、俺たちはこれからどうなるんだ?」
「学生生活に戻るのさ」。ジョンは笑ってそう答えた。
ボロボロになる前のマリアンヌ・フェイスフル
全員が絨毯もなにも敷かれていないむき出しの木の床に、あぐらをかいて座っている。隣に座っていたマリアンヌが、わたしの耳もとでささやいた。ちょうど生理が始まってしまって、なにも用意してこなかったので困っていると、わたしに助けを求めてきたのだ。よかった、ちょうど用意してきていた。それにしても、マリアンヌがなんだかかわいらしく思えた。ドラッグやロックの世界に身を置くには、あまりにも可憐な感じがして。わたしはマリアンヌがとても好きになった。
その日の午後、ビートルズは記者会見を開き、マハリシの教えに従って、ドラッグを断つことにしたと宣言した。
[だがこのニュースを吹き飛ばすエプスタイン死去の報が]