惚れてまうやろ、ポール

前日のつづき。

ジョン・レノンに恋して

ジョン・レノンに恋して

「シー・ラヴズ・ユー」

ヘレン・シャピロのツアー・バスの中で、ジョンとポールがいっしょに作った曲で、1960年代初期特有の明るく活気に満ちた雰囲気をとらえている。「イェー、イェー、イェー」のコーラスがたまらなく魅力的で、イギリス中の人たちが口ずさんでいたように思う。(略)
わたしはこの曲が大好きだった。ジョンがくれた最初のクリスマス・カードを思い出すから、「アイ・ラブ・ユー、イエス、イエス、イエス」のあのフレーズを。
 当時は、愛する人への個人的な気持ちを曲にして公に発表するなどということは、一般的ではなかった。けれども、わたしにはわかる。ジョンはよく、自分の作る曲の多くはわたしのために書いていると言ってくれていたから。ジョンとポールは、自分たちのほんとうの経験や気持ちを歌にしていた。

四人の関係

ジョンがいっしょにいていちばんリラックスできるのはリンゴで、リンゴがよく冗談を言うと、ジョンはお腹の皮がよじれるほど大笑いした。
 ジョージには弟に対するのと同じような感情を抱いていて、かわいくてしかたがないという思いと、どこかちょっと軽く見ているところがあった。
 (略)ジョンとポールの関係には、とても複雑なものがある。たとえば、ひとりがピアノに向かって座り、もうひとりが歌詞をメモしたり、ギターをつま弾いたりして曲作りをするのに、とても長い時間いっしょに過ごしていた。(略)
ふたりがいっしょに仕事をしているときは、ものすごく神経が張りつめている。だから、いったん作業が終わると、余熱を飛ばすように、ふたり別々になってリラックスする必要があるのだ。余暇の時間だけをとってみると、ジョンはポールと過ごすよりも、リンゴやジョージと過ごす時間のほうがはるかに多かった。

父現る。
「ぼくがどうしてこんなふうなのか、これでわかったよ」

ジョンがちょうど留守だったある日、アルフがケンウッドに姿を現したのだ。ドアを開けると、頭のてっぺんが薄くなり、白髪交じりのつやのない髪をした小柄な男の人が立っていた。浮浪者のようにだらしなくみすぼらしいのに、不安を覚えるくらい、ジョンと顔がそっくりだ。
 ショックだった。ジョンの父親が現れるなんて。
(略)
 アルフが訪ねて来たことを話すと、ジョンはあからさまに不快な顔をした。実は、ジョンもその数週間前にほんのちょっとだけ会ったという。
[涙の再会スクープを狙った新聞記者の企みだった]
ジョンは激しい衝撃を受けて、記者に対して怒りを爆発させた。そしてアルフには、さっさと姿を消して欲しいと告げた。(略)
 それでも、ジョンは父親に会うようになり、ふたりはその後何か月かかけてしだいに親しくなっていった。本心では、いつまでたっても自分たちの関係から複雑な気持ちを拭い去ることができないでいたのだけれど。(略)
ジョンは一度、こんなことを言った。「あの人は警戒しなくても大丈夫だよ、シン。ちょっとイカレてるけどね、ぼくみたいに。ぼくがどうしてこんなふうなのか、これでわかったよ」。

招かれたパーティーで知らぬ間にLSD飲まされたジョンとジョージ夫妻

 食事が終わってしばらくすると、だんだんとても奇妙な気分になってきた。部屋全体が浮遊している感じで、わたしは最初、食中毒にでもかかったのかと思った。家の主人が愉快そうに笑いながら打ち明けるまで、いったいなにが起こっているのか、わたしたちには見当もつかなかった。ジョージもパティも、ジョンもわたしも、恐ろしくなってその家から飛び出した。(略)
[ヘロヘロでどうにかジョージ宅に]
四人でその晩は一睡もせずに過ごした。まるでときがぴたりと止まってしまったようななかで、動く壁や、話をする植物や、恐ろしい鬼と化したほかの三人をぼんやりした頭でながめながら。身の毛もよだつような恐ろしさだった。自分で自分のコントロールがきかないなんて、最悪だった。

ジョンの離婚宣告

ほとんどだれからの接触もなかった。たぶんジョンが、自分だけでなく、ビートルズの関係者全員にわたしを切り離すように圧力をかけていたのだろう。
 わたしに会いに来たのは、ポールただひとりだった。ある晴れた日の午後、ポールは一本の赤いバラを手にやって来た。「ぼくも残念でしかたがないよ、シン。ジョンはいったいどうしちゃったのか、ぼくにもわからない。こんなのって、ないよ」。わたしたちに会いに来る途中で、ポールはジュリアンのために曲を作ってきてくれた。そのときは、「ヘイ・ジュールズ」という曲だったけれど

ポールの贈り物

離婚したとき、わたしはジョンがくれたほかの何通かといっしょに、この手紙も売却してしまった。さらにその何年かのちに、持ち主が手紙を売りに出して、ポール・マッカートニーが買い取った。ポールはこの手紙を額に入れて、わたしとジュリアンにプレゼントしてくれたのだ。嬉しくて、胸が熱くなった。

ヨーコとミミ

ジョンは、ヨーコを「マザー」と呼んでいるらしかった。ふたり[ジム・ケルトナー夫妻]が見たところ、ジョンはヨーコに対して愛憎入り混じった感情をもっているという。自分自身をヨーコから切り離すことができず、それでいてヨーコに対して常に怒りと恨みを抱いている、と。
(略)
[ヨーコがメイ・パンをあてがったと聞き]
わたしはあぜんとしてしまった。もしそれがほんとうなら、ジョンは莫大な権力を、ヨーコに譲ってしまったことになる。ジョンは、ヨーコが演じる支配欲の強い親をもつ、いたずらっ子を演じているというわけだ。(略)
わたしの知っている、自分に誠実な自由な精神をもち、自立心の強いジョンは、いったいどうしてしまったのだろう。(略)
 わたしのなかで、ヨーコとぴったり重なる人物が浮かんだ。ミミだ。ジョンは、暴君のような女性が身近にいる環境で育ったのだ。だから、そういう環境しか知らず、そういうものだと思っている。わたしはジョンの実の母親が亡くなったあと、ジョンに必要だった献身的な愛情を捧げ、愛情をもってありのままのジョンを受け入れた。一方ヨーコは、ジョンがいちばんよく知っている強硬な「母親像」を示して、安心感を与えたのだ。何年かあとに、ヨーコのインタビューのなかで、自分をミミになぞらえているのを読んで、思わずにんまりしてしまった。さすが、自分をよくわかっている。

ジュリアンのトラウマ

ジュリアンのことでジョンが態度を豹変させる(楽しんでいるかと思うと次の瞬間には猛り狂う)ことは、その後も続いた。それはショーンに対しても同じで、幼いショーンを怖がらせ、泣かせてしまうのだ。
(略)
ある日のジョンの怒りはジュリアンの心にくっきりと傷跡を残すほどのダメージを与えた。それは、家族全員でわいわい楽しくミッキー・マウスのパンケーキを作っていたときのことだ。ジョンが、ケラケラ笑っているジュリアンのほうに向き直って、怒鳴ったのだ。「おまえのそういう、クソいまいましい笑い方には、耐えられないんだよ。二度と、その不気味なクソ笑いをオレに聞かせるな」。ジョンが延々と言葉の暴力を浴びせ続けたので、ジュリアンはこのときも、いたたまれなくなってとうとう泣きながら自分の部屋に逃げ去ってしまった。あまりにも残酷な仕打ちで、そのことによって息子は、以来ずっと残るような心の傷を負った。今でもジュリアンは、めったに声をあげて笑わない。

うーむ、残り少しだが、午前三時になるので、明日につづくか、ここに追加するかは明日考えよう。