最終兵器の夢 真珠湾攻撃元ネタ編

アメリカSF小説における「平和のための戦争」のための最終兵器妄想その他。

1809年 ワシントン・アーヴィング
『ディードリッヒ・ニッカーボッカーによるニューヨーク史』

無防備なアメリカを海外の侵略者が襲う

[彼は地球をはるかに上回る技術を持つ]「月に住む人々」が地球を侵略する場合を想像する。ヨーロッパ人が非白人に対して示すのと同じ文化的帝国主義の態度で「月星人」が地球人に接触してきたらどうなるか。(略)
アーヴィングはこれを想像することで、アメリカ自体が他者からの侵略によって生まれた国であることを明らかにする。
 アーヴィングの風剌とは異なり、1880年代に相次いで発表されたアメリカの未来戦争小説はアメリカの植民地史を裏返し、無防備なアメリカを海外の侵略者が襲うというパターンを確立した。意図的ではないにしても露骨なアイロニーは、こうした作品群がしばしば国内で抑圧されている民族を外敵の同盟者としていることだ。中国人のクーリーたち、黒人、インディアン、ヨーロッパからの移民たちが、国の内部に潜んで、陰謀を企てるのである。

外敵による攻撃を想像した最初期の例、

パーク・ベンジャミン短編
「ニューヨークの終わり」(1881)

[スペイン艦隊の攻撃で]ニューヨークは壊滅する。しかし、まさに降伏しようとした時、チリが送った三隻の近代的な軍艦によって、最後の最後でアメリカは救われる。この「南米の取るに足らない共和国」による救済は、アメリカが恥ずかしいほど軍事的に無力であることを強調している。「ニューヨークの終わり」のような小説は、アメリカの帝国主義化に向けた軍事的準備において重要な役割を果たした。アメリカ帝国主義は、その17年後のスペインとの実際の戦争において解き放たれるが、その頃の両国の軍事力を比較すると、ベンジャミンが1881年の小説で予言したものと完全に逆になっていたのである。
 1880年代を通して、アメリカの未来戦争小説は大衆を剌激し、平和時においても大規模な艦隊をもちたいという気持ちに駆り立てた。

最古の敵、イギリス

[1880〜90年代]多くのアメリカ人が抱いていたイギリス観は、20世紀におけるソ連人のアメリカ観に似ている。イギリスは未来戦争小説においても、主要な新聞や雑誌においても、敵対的な強国として描かれていた。革命をつぶすために艦隊や軍隊を差し向け、数十年後に再度攻撃を仕掛け、分離独立運動に兵器と資金を調達した。そして周囲に次々と基地を作り、アメリカの沿岸防御を突破しようした。

サミュエル・バートン『瀬戸海戦とカナダ占領』(1888)

アメリカは無防備な都市を砲撃するという非人間性と野蛮さに対して抗議したが、イギリスはこれを無視する。(略)「ニューヨークのダウンタウン全体が廃墟と化す」。(略)[英国は勝利目前だったが]
自爆魚雷ボートをアメリカが発明したことで、やがてイギリス海軍はすっかり無力になる。(略)イギリスが無力な島の王国にまで没落するのに対し、アメリカは世界の国家の中でも文句なく最高位を占めるようになる。(略)
 この小説で空想されたテクノロジーによる迅速な解決策は、今では「最後の一手の過ち」と呼ばれているものである。アメリカは自分たちこそが「最後の一手」を打てると信じて、地球という惑星を現代の大規模な軍拡競争へと追い込んだ。(略)[究極兵器で]全世界を武装解除させるか、アメリカが世界的支配権を握ることによって、永遠の平和が実現する(略)
超強力兵器信仰は、数年のうちに自爆魚雷ボートから原子力兵器や光線兵器へと発展していき

反人民党的小説

反人民党の立場を取る作家たちは、未来戦争小説の形式を使って、社会主義フェミニズムアイルランド共和主義、非アングロサクソン移民などを攻撃した。作家たちの中には、大英帝国の侵略は「社会主義者共産主義者無政府主義者たち」などからアメリカを救うチャンスであると捉える者さえいる。(略)
[サミュエル・ロックウェル・リード『1886年戦争アメリカ対イギリス』]
イギリスは、無知な群衆による強硬論に駆り立てられ、アメリカに攻撃を仕掛けてくる。皮肉なことに、侵略が成功したことにより、イギリスの「帝国主義外交政策」が過度に拡大し、軍事体制が膨れ上がって、増税と国家の負債の増大につながる。工業は衰退し、無知な多数派が支配階級に成り上がったため、腐敗がはびこる。それに対し、逆説的にアメリカは敗戦によって立ち上がる。「廃墟は、我が国が帝国の地位に昇るための源となった。自然はアメリカにあらゆる資源を与えていたからである」
(略)
 同じような反人民党的小説は相次いで出版された。ジェイムズ・バーンズの『許されざる戦争』(1904)まで、大衆による扇動的な政府がイギリスとの戦争に至るといった物語が語られ続けたのだ。(略)
「人民党」の勝利により、イギリスとの戦争が引き起こされる。バーンズにとって「人民党」は無教養で無知で邪悪な人々を意味する。(略)
[最後は]イギリスとアメリカが平和な「世界の支配者」になり、人民主義を根絶、遅れた国々を啓発するのだ。

人民党創設者イグナティウス・ドネリーの小説

一方、人民党も自分達が権力の座についたら世界の保守勢力の代表イギリスと戦争になると考えた。人民党創設者イグナティウス・ドネリーの小説では

小規模なアメリカの農民が貧困によってつぶされていくさまをリアリスティックに描くことから始まる。続いて、貧しいカンサス州の若者が鉄を金に変える奇跡的な製法を知り、それによって人民党のイデオロギーの中心的教義を実現する。銀貨と金貨を廃止し、紙幣を通貨と定めることで、農民や労働者を金融資本主義から教い、生産と進歩のすさまじい力を解き放つのだ。
(略)
[大統領選挙で勝利したイフレイムは]ヨーロッパの労働者も解放しようとすると、イギリスは(ヨーロッパ大陸のほとんどの強国に後押しされ)宣戦布告する。こうして「自由と独裁政治の積年の戦いが切って落とされる」。(略)
イギリスの大衆が蜂起し、「アメリカ!アメリカ!アメリカ!」という叫びがイギリス中に響き渡る。(略)
[さらにはロシア皇帝との「ハルマゲドン」]
 ここでイフレイムは目を覚まし、この輝かしい勝利がすべて夢であったことを知る。しかし彼は、この夢が政治的かつ経済的な解放への道を示す寓話であることに気づく。紙幣通貨制こそが真の「金のボトル」なのだ。合衆国とヨーロッパの労働者に富をもたらし、君臨する王や資本家たちを倒し、社会主義による壮麗な「パックスアメリカーナ」を成し遂げる道なのである。
(略)
[S・W・オデル『最後の戦争、あるいは英語の勝利』(1898)]
 20世紀中盤、アメリカ合衆国は北米と南米に185の州をもつ国になっている。黒人を海外に移住させることで人種的な純潔をめでたく回復し、繁栄する平等な社会が実現している。世界には「アングロ・アメリカ国家連合」という英語圈の国家連合があり、アメリカはその中心である。(略)
英語を話す諸民族が完全性に近づきつつあるため、「善と悪の境は非常に広くなり、もはや戦争しかないというところまで来ている。それも、最後の戦争。悪を守っている勢力を絶滅させる戦争である」。アングロサクソンの美徳を守る勢力には、それ以外の選択肢はない。(略)
 こうして「ハルマゲドン」が起こり、進歩した英語話者の軍隊は、恐ろしい新型爆弾とアルミ製の装甲飛行船を持つ反動的なロシア・アジア軍と戦う。(略)
[勝利後]ロシア、東欧、アジアでの35年間の占領政策が語られる。この間、無知で野蛮な住民たちに英語を学ばせ、彼らの未開の精神に「文明の習慣」を身に付けさせる。最終的には2600年、世界合衆国ができ、「平和は永遠に人類のものとなった」という言葉で小説は終わる。
 17世紀のアメリカのピューリタンたちは自分たちの小さな植民地を「丘の上のかがり火」と想像するのを好んだ。ヨーロッパという暗い旧世界の道を照らす光と考えたのである。19世紀末のアメリカの空想小説では、進歩的と見なされている勢力が未来の戦争を戦う。(略)
地球上の闇の力と戦い、未開の民族たちを征するという高潔な動機をもって、労働者たちは資本家たちと協力して戦争を戦うことになるのである。

戦争兵器との情熱的な愛の行為

スタンリー・ウォータールー『ハルマゲドン』(1898)

この小説の最も深いエロティシズムは、ロマンチックで軽薄なサブプロットのためにあるのではない。『愛と戦争と発明の物語』と副題がついているように、戦争兵器との情熱的な愛の行為にある。
「我々は双眼鏡を通して、イギリス海軍の鉄の怪物をじっくりと見た。軍艦の不気味な戦列が我々の旗艦に向けて礼砲を轟かせると、私の心臓は喉から飛び出そうになり、めったに泣かない私の目に涙がたまってきた。美しかった。それは恐怖のもつ美だ。金属剥き出しの戦闘マシーンが、どこまでも広がる青い海に浮かんでいる姿は」
(略)
[主人公の天才発明家の超強力兵器により]戦争は不可能になった。天才発明家の恋人は、この点についていかにもナイーブな女性らしい質問を発する。「じゃあ、どうして私たちはこうした殺人マシーンを作るの? 使わないのに?」(略)
[発明家は答える]「世界平和を守るためには、世路を支配する国々に兵器を集めなければならないんだよ。疑問の余地のないほどすごい破壊力をもつ兵器をね。だから我々は破壊のための道具を作るんだ。

ピアトン・ドゥーナー『共和国の最後の日々』(1880)

西部諸州の資本家たちが貪欲に安い労働力を求めた結果、中国人労働者はストライキをして、市民権を勝ち取ってしまう。それによって、カリフォルニア、ネヴァダオレゴンなどの州政府は中国人に乗っ取られる。(略)
白人労働者たちによる抵抗運動は、帝国主義中国に介入の口実を与え、鉄道が支配下に置かれてしまう。ようやく白人たちは武器を手に取るが、中国はアメリカに侵略し、血も凍るような結末が訪れる。アジア人の略奪団が破壊と略奪の限りを尽くし、首都ワシントンに突入するのだ。「共和国は最後の戦いに挑み、敗れた。すでに連邦国会議事堂のドームには中国帝国の竜の旗がはためいている。アメリカ合衆国という国名も、国と人民の記録から消し去られた……」

激しい反中国人感情

「ウォバッシュ河の戦い」

[2081年]二世紀に及ぶ無制限な移民と異人種間結婚により、中国系アメリカ人は三対一の割合で白人を上回っている。白人たちは遅ればせながら武装蜂起するが、中国からの五百万もの「帝国軍人たち」に支援され、濃縮食品で栄養をつける中国人の大軍の敵ではない。[「総アメリカ軍」を皆殺しにした中国人は先例のない「恐怖政治」を始める]
(略)
国民はアジア人の奴隷とされた。(略)私は不快感を抱き、こうひとりごちた。「腰抜けの博愛主義など、政治的手腕とは違うということに世界はいったいいつ気づくのだろう?」
(略)
1882年に中国人移民排斥法が制定され、実質的にすべての中国人移民が禁止された。この法律の制定に成功したことで、中国への反感を表わした未来戦争小説は、その後の十年間すっかりすたれ、イギリスとの未来戦争を扱った小説がこのジャンルの主流を占めることになる。しかし、1890年代に再び書かれるようになった時も、以前の激しい反中国人感情はまったく衰えていなかった。

黄禍文学、ジャック・ロンドン

20世紀を迎えるまで黄禍文学はほとんど全面的に反中国で、ウィリアム・ウォード・クレインのように日本を西洋諸国の同盟国と捉えるのは極めて普通のことだった。日本が黄禍文学で敵となるのは、1905年、日本がロシアとの戦争で勝利するというショッキングな出来事があってからなのである。
(略)
[イギリスの未来戦争小説も]アジア人の大量殺戮を好ましいものとして想像している点で、アメリカのものと同じくらい憎悪に満ちている。そしてイギリスのアジアにおける植民地政策は、こうした本から多くを学んでいるかのように思えるのだ。(略)
[M・P・シール『黄色い危機』ではヨーロッパになだれこんだ中国人の大群を二千万人溺死、1億5千万人を細菌で抹殺]
(略)
 ジャック・ロンドンが短編「比類なき侵略」を発想したのは、日露戦争の戦場レポーターとして働いた経験からである。アジア人が西洋人の最新の管理方法と大量殺戮兵器を効率的に使っていることを知り、衝撃を受けたのだ。(略)
日本が中国を支配下に置き、その眠りを醒ますことで、中国が超大国に変身するさまを想像している。中国は工業化と近代化を成し遂げ、世界制覇をもくろむようになる。日本人は中国から追放され、日本が中国における覇権回復のために派兵すると、このフランケンシュタインの怪物に完全につぶされてしまう。(略)
[中国は西洋世界になだれこむ]「戦争は無益」だ。「中国人の驚くべき出生率と戦う術はない」のだから(略)
[最後はアメリカの天才科学者が20の疫病の入ったガラス管を中国本土にばらまき]「疫病を生き残った者たちも、見つかり次第、殺されたのである」。こうして中国は滅亡する。あとに残ったのは、進歩による勝利を達成した軍勢のユートピアだ。

真珠湾攻撃予言、

というか、元ネタかも?w

 私が知る限り、日本をアメリカの敵として描いた最初の小説は、J・H・パーマー『ニューヨーク侵略、あるいは、いかにハワイは併合されたか』(1897)(略)
[1898年アメリカがハワイ併合]ところが、日本が突如として奇襲攻撃を仕掛け、スペインの艦隊がアメリカの大西洋岸に向かう。(略)ニューヨーク港の沿岸警備隊からの魚雷がスペイン艦隊を破壊する。アメリカの太平洋艦隊は日本の艦隊を破り、さらに日本の沿岸都市を破壊して、日本に降伏を迫る。(略)「平時こそ、戦争に備えん」
(略)
[1909年刊のホーマー・リー『無知の勇気』は真珠湾攻撃の数ヶ月後の1942年に再版された]
リーは「軍事的活動」を国家の存在の主目的であると称え、フェミニズムと商業主義を軽蔑する。それらは健康的な国家に必要な男らしさと純粋性を蝕むものなのだ。
(略)
日本はアメリカの弱点を見逃さず、ハワイとフィリピンを占領し、アメリカ西海岸への侵略を企てる。リーは、日本がカリフォルニアと太平洋岸諸州を占領するための計画を詳細に描き出す。地図と図表、予定表まで付け、数学的な正確性をもって、合衆国が侵略者を撃退できないということを証明しようとする。
(略)
日本語に訳され、日本の陸軍士官学校で課題図書に指定されることで、この本は日本軍の指導者たちにインスピレーションを与えたかもしれないのだ。日本がアメリカを攻撃すれば、確実に勝てる、と。1942年、アメリカでこの本が再販された年に日本でも再販され、日本の大衆にもこのメッセージが届いた。アメリカの軍備拡張を促進した超愛国的な作品が、皮肉なひねりで――しかも、アメリカの最も恐るべき敵として想定していた国に対して――アメリカ占領の具体的な方法を詳しく教えることになったのだ。

次回につづく。