エルヴィス・プレスリー〈上〉その3

前回の続き。

 シャルル・ボワイエ

ラマー エルヴィスはとてもドラマティックに歌い上げる歌手や、ドラマティックな語りが好きだった。彼はシャルル・ボワイエの語りが入っているレコードを持っていて、本当に気に入っていた。また、彼はペンテコスタルの牧師のあのファンファーレに包まれた説教の仕方とか、ゴスペルのシンガーたちがバック・ハミングに乗せていろいろ語りを入れるやり方が気に入っていた。だからきっと〈今夜はひとりかい?〉は気に入っていたんだろう。暗唱があったからね。

ビリー エルヴィスはシャルル・ボワイエの声の響きが大好きで、彼がどちらかというと歌うというより歌を語っている感じが気に入っていた。彼が好きだった歌のひとつが〈I Saw Venice Turn Blue〉というやつで、あと〈Where Does Love Go〉もそうだったのを覚えている。あれは〈ハロー・ヤング・ラバーズ〉が入っていたりして、とてもロマンティックなアルバムだった。エルヴィスはそのロマンスが好きだったんだ。彼は男らしい声が好きだった。それがソフトであってもね。

 “閃き”

マーティ エルヴィスはいつも、いい歌詞を見分けることができた。特にスローな曲では。彼は個人的なレベルでそれに共感した。そして彼は曲を二回聞いただけで覚えることができた。

ビリー 初期の頃、すべてがホットで素晴らしかった。彼のエネルギーが流れているのが見えたんだ。彼はいくつかのデモを聞き、「これを試してみよう」と言うんだ。そしてスタジオに入ると、彼は「なんかムードが違う。照明を落とそうぜ」とか「青いライトをくれ」なんて言う。また、その結果に耳を傾け、「これはもっとサックスがあったほうがいいなドラムも」などと提案した。エルヴィスは自分や自分のレコードに望んでいることを分かっていた。彼はそれが自分にとってしっくりくるまで突き進んだ。

(略)

 映画時代は、曲があまりにもよくなかったので長い間その“閃き”は失われていた。最初のうちは、自分があまりいいと思わなかったような曲を渡されたとしても、彼は自分の部屋で「これを良くするためには何をすればいいんだろう」と考えていた。彼はいつも自分のベストを尽くした。ひどい曲に対してもそうだった。

マーティ (略)

 RCAはいつも自分たちのプロデューサーをひとり、セッションを監督するためにアーティスト担当にした。(略)

 スティーヴ・ショールズが消えてから、RCA側の人間は何も言わなくなった。五〇年代後半にエルヴィスがナッシュヴィルでレコーディングを開始した頃、セッションのプロデューサーはチェット・アトキンスだった。でもアトキンスは座っているだけで何もしなかった。

[ある晩のセッションでアトキンスが居眠り]

エルヴィスはそのテイクの間ずっと彼を睨み続けたけれど、彼は起きなかった。エルヴィスはセッション終了後、パーカー大佐かトム・ディスキンに「あのクソ野郎にはもう来てほしくない」と伝えた。

ラマー チェットに「来るな」と言わなければならなかったのはおれだ。

包茎

マーティ (略)エルヴィスがトイレに行くときは、男子トイレから他人をシャットアウト(略)

仲間がひとりかふたり、すっと立ち上がって彼のすぐ後ろについていくんだ。そして誰かが先に入っていないか点検するために、ふたりのうちのどちらかが先に入るんだ。

 彼はそのことに関してとても敏感だった。おれにはそれが理解できるよ――だって彼のモノのでかさを見るためにトイレについてくる奴らが結構いたからだ。

ビリー エルヴィスは人に見られることが嫌いだった。彼はいつも小便用便器ではなく、個室を使用していた。

マーティ エルヴィスは包茎であることを少し恥じていたんだ。多分、包茎であることは時代遅れで田舎っぽいとでも考えていたんだろう。彼はかつて、皮が裂けるのでセックスは少し痛みを伴うと言ったとき、連中のうちの誰かが包茎を直せばと提案した。すると彼は縮こまって言った、「嫌だ、嫌だ、それって痛すぎるよ」と。

ケネディ暗殺

 誰もが沈黙を守ったが、エルヴィスだけは叫んだり怒鳴ったりしていた。彼は「あんなことをするのはどこの腐ったろくでなしだ?ケネディはいい人間だったんだ!」と絶叫した。彼は自分のコーヒーカップを抱えていたけれど、突然それをテレビの前の大理石製のテーブルに叩きつけたんだ。それは彼の手の中で割れて、かけらが飛び散った。

 ケネディの死は、エルヴィスに自分自身の命の儚さを連想させたのだと思う。それはいつも彼にとって不安の種だった。でもそれ以上の意味をも持っていた。エルヴィスは自分を大統領と同じ情況で考えていたんだ。彼は「クソッ、もし誰かがおれを暗殺したら、お前たちは警察より先にそいつを捕まえろ。そいつの目をくり抜き、喉を裂き、そのくそったれ野郎をぶっ殺すんだ」とも言った。「そいつを苦しませるんだ!おれはどこかの口が達者なろくでなしがテレビに出演して世界に向かい、『私がエルヴィス・プレスリーをやりました』なんて言ってほしくない!」と叫びまくっていた。

(略)

彼のもとには昔から何度となく脅迫状が送りつけられてきていたし、この日から六週間後にもまた受け取ることになったからだ。(略)

宛て先は「テネシー州メンフィス エルヴィス・プレスリー大統領」となっていた。「次はお前だ」と記し

(略)

[連行される]テレビのオズワルドに向かって「このろくでなしのひ弱なクソッタレ!この腐ったクズ野郎!」と罵倒した。

(略)

[オズワルドが射殺された時は]

「そうだ!あんなクズ野郎なんか殺しちまえ!そいつに自分がどうやって大統領を殺したのかみんなの前で暴露させるな!」と絶叫しだした。

 その頃から、彼の銃に対する愛着は執着に変化したのだと思う。彼は、もし誰かがケネディ大統領を引きずり下ろせるんだから、自分だって簡単にやられる可能性があるということに気づいた。でも彼の執着は何年かしないと完全には定着しなかったんだ。その頃は彼は別のものに執着していたんだ――それはアン=マーグレットだった。

 アン=マーグレット

一九六〇年にコメディアンのジョージ・バーンズラスヴェガスで発掘した二十二歳のアン=マーグレット・オルソン(略)

人間的な魅力、過剰な女らしさ、誘うような官能性、そして健全な自然体が一体となり、彼女はすでに真の意味でハリウッドのセックス・シンボルとなっていた。男たちは彼女のためにだったら死んでもいいと感じていた。

(略)

[アンを招いた夜]彼女を迎えにいくときに付添いはいらないと仲間に言いわたした。さらには自分が帰宅した時点では家に誰もいないことを要求した。

 これは普段のエルヴィスのハリウッド女優との密会とは異なっていた。(略)

[アンとの]ツーショット写真では、エルヴィスはとても感情的に不安定な表情を見せている。それは、彼が自分の母親と一緒に撮った写真以来、ほかのどの女性の前でも見せたことがない表情だった。

(略)

ラマー・ファイク エルヴィスとアン=マーグレットの関係はただの遊びではなかった。彼は真剣に彼女に惚れていたんだ。それはホットでヘビーだった。

(略)

ビリー 一度アンに会えば、彼女のことは忘れられない。エルヴィスが女性に及ぼす影響と同じものを、彼女は男性に及ぼしたんだ。

ラマー みんながアンに恋していた。監督のジョージ・シドニーまでがそうだった。(略)

シドニーはアンの尻が動いているショットをカメラマンに四分間も撮らせていたんだ。しかもアップで。ふたりのツーショットの場面でも、ふたり一緒よりもアンひとりのほうが多く写っていたんだ。大佐は発狂した。彼は「こんなことが許されるものか!」と叫んだ。

(略)

マーティ あのふたりが理解し合えたのは、同類だったからだと思う。ふたりとも官能的な人間だった。

ラマー エルヴィスはあまりひとりで行動をしなかったけど、アンとだけはふたりきりで外出した。それはおれたち全員を苛々させた。

(略)

ラマー おれは、エルヴィスは彼女とニューヨークの二丁目で結婚していたと思うよ。でも前提として、アンが仕事を辞めなければそれはありえないということを明らかにしていた。エルヴィスは、妻は家にいて夕食を作り亭主が帰ったらテーブルに料理が並んでいる、といった古い南部の考え方を信じていた。アンはとても仕事熱心だった。辞めようとはしなかった。(略)

ビリー エルヴィスがアン=マーグレットを愛していたのはまちがいない。でも彼は、自分の母親がくれたアドヴァイスを忘れるはずがなかった。それは「同じ業界の人とは結婚するな。互いの仕事がぶつかってしまうから」というものだった。

マーティ これにはもっと簡単な解釈があるんだ。彼はスクリーン上で、彼女がほかの男とベッドでキスしているのを見たくなかったんだ。彼はその苦痛に耐えられなかった。

ビリー プリシラはエルヴィスがアン=マーグレットと結婚してしまうのではないかと心配のあまり、アンのようになろうとしていた時期がある。

ビートルズ

マーティ (略)彼らが家に入ってきたとき、おれたちはプレイルームで待っていた。エルヴィスはあまり大袈裟にしたくなかったので、出迎えるつもりはなかった。彼らはエルヴィスと会った瞬間、まるでトランス状態に入ってしまったかのように彼を見上げて握手した。テレビでの彼らはあんなに騒々しかったのに、ここでは本当に静かだった。ビートルズは「あなたに会えて本当に幸せです」と言ったきり、何を言えばいいのか分からなかったんだ。

(略)

とうとうエルヴィスが彼らのひとりを見て「ぼくは、この集いが“王に謁見する配下の者たち”にするつもりなんてなかったんだよ」と言った。「正直に言って、もし君たちが一晩中ぼくのことを見つめ続けるつもりならぼくは寝るぞ。少し話をしてからジャム・セッションでもしようと思っていたのに」とも言ったんだ。エルヴィスがそう言った途端、ビートルズは大騒ぎを始めた。彼らは全員ピアノに向かい、エルヴィスはギターを一、二本手渡した。そして彼らは歌い始めた――エルヴィスの曲、ビートルズの曲、チャック・ベリーの曲。エルヴィスが〈アイ・フィール・ファイン〉のポールのべース・パートを弾いたとき、ポールは「エルヴィス、あなたのベースは結構有望ですよ」とお世辞めいたことを言っていた。おれは、後になって「ああ、テープレコーダーがあったらなあ…」と思ったことを覚えている。

ビリー おれたちはなるべくさり気なく、遊びに参加しようとした。リンゴはビリヤードをやりたがったので、おれたちも乗った。(略)[メイドが]リンゴの爪先を踏んづけちまった。彼は大袈裟に顔をしかめ、「彼女はおれの爪先を血で染めた」と言った。彼は面白かった。彼はエルヴィスの近くに寄って、ギターの代わりにキュースティックを使いエルヴィスの物真似をした。それから彼は玉を打つんだ。とてもいい夜になった。みんな楽しんでいるみたいだった。

マーティ しばらくすると、大佐がやってきた。それは“カジノ・タイム”を意味していた。(略)

大佐とジョーはブライアン・エプスタインを丸裸にしてしまい、彼らに二、三千ドルの貸しがあると自慢していたのを覚えている。

 ビートルズ一行は午前二時頃まで帰らなかった。

(略)

マーティ 別れの挨拶の後で、ジョンとポールは「ぼくたちはマルホランド・ドライヴにある家に滞在しています。明日、皆さんを招待したいんですけど…」と告げた。ポールはエルヴィスに「おいでくださることを願っています」と言ってからおれたちのほうを見て、「もし彼が来られなくても、皆さんを歓迎します」と付け加えた。彼らが去った後、エルヴィスは「おれは行かない」と宣言した。

(略)

マーティ 次の日の午後、ジュリーとリチャードとビリーとおれは、彼らが滞在しているという場所に行ってみた。彼らはおれたちに会えて本当に嬉しそうだった。本当だよ。ジョンはおれを見晴らし窓の側まで引き寄せて、「昨日の夜はおれの人生で最も素晴らしい一夜だったんだ」と言った。

 その後も何年か、ビートルズがこっちにきたときに仲間の奴らは三、四回遊びにいっている。むろん、エルヴィスは一度も行かなかった。

(略)

 六六年以降、ビートルズは変わってしまった。彼らは常にラリっていて、マハリシのトリップにハマっていた。そして前ほど友好的ではなかった。六六年か六七年だったか忘れたけれど、何回目かの訪問のとき(略)ポールはおれを見て「エルヴィスはいつかぼくの曲をリリースしてくれるかな」と言った。その頃ビートルズは宇宙でいちばん大きな存在だったんだ。でも分かるだろう……彼らは未だにエルヴィスのほうがでかいと考えていたんだ。

性癖

マーティ 六〇年代中頃、エルヴィスはポルノグラフィに興味を持つようになった。おれが言っているのはペルジア・ウェイやベラージオ・ロードにあったような、マジックミラーで人を観察することではないよ。

ビリー どうやって発見したのかは覚えていないが、エルヴィスは女が動物とセックスしているデンマークのポルノフィルムを気に入っていた。(略)

女性がふたりでレスリングをしている八ミリフィルムを見るのも好きだった。だからアランをハリウッドのサンタモニカ・ブルヴァードに行かせて、そういうフィルムを作らせていた。女同士でセックスしているものも。

 彼は特定の性的空想を持っていた。女性が完全に裸になるのは好きではなかった。それは彼を興奮させるというより、ひかせてしまうことだった。彼は白いコットンのパンティとブラを着けたままの状態を好んだ。女性同士が揉み合っているときやセックスしているときもそうだった。彼はブラとパンティを着けた状態を要求した。

マーティ 白いパンティのことだけど.……おれは、彼がテレビで見たアイス・スケート選手のペギー・フレミングに憧れていたのを覚えている。いつも白い衣装を着ていたので、彼女が滑っているのを見るのが彼は好きだった。彼女がテレビに出るたびに(略)「おい、彼女は何てゴージャスなんだ。ああ、彼女はおれを熱くする。あの白いパンティをみて見ろよ」と言うんだ。

ラマー 彼は時々映画を見ながらマスターベーションをしていた。(略)

前にも言ったように、エルヴィスは大変なのぞき魔だった。彼は観察するのが好きだった。

マーティ しばらくの間そういう映画を見ていて、エルヴィスは興味の対象を八ミリフィルムから本物の人間に移した。言葉を代えれば、彼は目の前でライヴでそういうことをしてくれる女の子が欲しかった。

ラマー 神聖なものなんてなかった。あるとき、おれの妻のノーラが子供に何かを食べさせようとして屈んだときに、エルヴィスは彼女のスカートの中を覗いたんだ。おれが「いったい何考えてんだ!」と騒ぐと、彼は「だって彼女は屈んでるんだぜ。おれにどうしろというんだ」と言ったんだ。彼があまりにもおかしそうだったので、おれは怒ることができなかった。

 おれが言いたいのは、要は、彼にはこだわりがあったということだ。彼は、パンティを着けたまま女がレスリングするのを見るのが好きだった。そしてプリシラにも、ほかの女とそういうことをするようにと教え込んだ。それが彼の好みだったんだ。(略)

マーティ エルヴィスが、プリシラレズビアン・セックスをさせていたという話だけど……プリシラはある女と“友だち”になったんだ。(略)

おれは、プリシラが彼女の上に馬乗りになっているポラロイドを見たことがあるんだ。ふたりともブラとパンティしか着けていなかった。話によると、プリシラがこの女にオーラル・セックスをしている写真をエルヴィス持っていたらしい。(略)

 エルヴィスがそういった写真を撮っていて、プリシラにそれをやらせていたことは確かだよ。

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