エルヴィス・プレスリー〈上〉 その2

前回の続き。

“変態の王者”

ビリー(略)

 エルヴィスは、自分が未成年とセックスをしても逃げきれることを百も承知だった。五八年にジェリー・リー・ルイスが十三歳の従妹と結婚していたことがばれたときは大問題になった。彼はキャリアを十年も台無しにしたんだ。だがエルヴィスにとってたいしたことではなかった。女の子は若ければ若いほうがいい、というのが彼の信条だった。何て言ってたかな? 「若い頃につかまえておけば、自分で好きなように形作れるし、自分の好みに育て上げることができるだろ」かな。

 エルヴィスは妙な性的フェティシズムを持っていた。彼は女の髪をもて遊ぶと興奮すると言っていた。女が彼を手と口で刺激してやって、彼は女の髪に射精するんだ。それが大好きだった。

ラマー エルヴィスは“変態の王者 King of Kink”だったんだ。本当さ。彼は何をやっても咎められなかったから常にいろいろなことをしていた。

デブラ・パジェット

ビリー (略)

 エルヴィスには自分の共演者に手を出す悪い癖がずっとあって、それは彼の最初の映画から始まった。彼は有名になってハリウッドに行く前、興味を持った女に振り向いてもらうためにはいろんな 技を使っていたものさ。アニタ・カーターと五五年にツアーをしていたときには、気を失うフリまでしているんだ。あのときは病院にまで行った。エルヴィスは彼女の歌とルックスの虜だった。で、今回はデブラ・パジェットとつき合いたかったんだ。でも母親べったりで、ビッグスターになる努力を重ねていた彼女にとって、エルヴィスは単なる俳優でしかなかった。デブラに美を感じとったエルヴィスは、それ以降あらゆる女性に彼女のような外見を求め続けた。あのプリシラでさえデブラ・パジェットの亜流だったんだ。強い顎の線と目の辺りがね。

メイク

マーティ エルヴィスは映画のために髪を染めるようになったけど、それ以前からメンフィスあたりの小さなショウで時々メイクもしていた。アイシャドウを少しとか、マスカラをちょっととか。(略)

七〇年代にニクソン大統領と面会したときには、エイボン・レディに匹敵するほどたっぷりとマスカラをつけていた。(略)

ビリー (略)映画を始めた頃、彼はメイクアップ・キットを手に入れた。(略)

そう、彼はまつげにマスカラをつけていたよ――特に髪を染めてからはね。その後、彼はマスカラを使わなくても済むように眉毛とまつげを染めた。

 なんかおかしかった。メイクをしていたとき、エルヴィスは結構自分のルックスが自慢だった。彼はすぐに「おれはあんたが知ってる中でもいちばんかっこいい奴だぜ」と言うんだ。

悪夢

ビリー (略)

 五七年頃、彼は複数の男たちに殺されそうになる夢を何度も見ていた。(略)彼らはナイフを持っていて、エルヴィスを刺そうとする。時々彼は飛び上がって何かを掴んでそれを壊し、拳を振り回して暴れた。

(略)

 一度、彼が寝ていることを知らずにおれがドアのところに行くと、彼は発狂したように暴れていた。彼を落ちつかせると、彼は「おれはお前を消したと思った」と言った。「消した、ってどういう意味なんだ?おれはどこにも行かないよ」とおれが言うと、彼は「お前を殺してしまったかと思ったんだ。お前がおれを刺そうとしている夢を見ていたんだ。おれはナイフを取り上げてお前を刺した。お前は死にかけていた。そしてお前はずっと『おれは死なない』と言い続けて、おれは『何言ってんだ、お前は死ぬんだ』と言い続けるんだ」おれたちは笑ってごまかしたけど、不安な気持ちになったよ。

 とにかく夢遊病のことがあって、グラディス伯母さんは常に誰かがエルヴィスの近くにいることには賛成だった。

ナタリー・ウッド 

ラマー 俺は初めてエルヴィスに会うまで、人生の中で彼みたいな奴を見たことがなかった。俺は南部の中流家庭に育った。だから、モミアゲのあるような奴と馬鹿なマネをしないようにと教育されていた。なぜならモミアゲのある奴はワルか、少なくとも違う世界の人間だからだという理由だった。

(略)
 オーデュボン・ドライブからすべてが動きだした。つまり、五六年から転がり始めたんだ。エルヴィスは上昇気流に乗り始め、しばらくすると……すごかったよ!皆が彼のことを欲しがったんだ。あのジェームズ・ディーンの集団――ラファエル・カンポス、ニック・アダムズ、ジャック・シモンズ、ナタリー・ウッドといった連中――が彼のご機嫌を取って、エルヴィスはそれが楽しくて仕方なかった。なぜならディーンはトニー・カーティスの次に好きな俳優だったからだ。

(略)

エルヴィスとナタリーは、『やさしく愛して』撮影時に付き合っていた。ニックがふたりを紹介したんだ。(略)

[ニックとナタリーがメンフィスに]

 おれは心底ナタリー・ウッドに惚れていた。それまでの人生でいちばん美しい人だと思った。おれは彼女から目が離せなかった。彼女にはそういう力があったんだ。彼女がしばらく家にいたので、おれはとうとう我慢できなくなり、エルヴィスに「彼女と一緒にいるのはどんな感じだい?」と聞いた。そしたら彼はにやりと笑い、彼女の、女性特有の衛生、についてかなり具体的でとても面白おかしいコメントをしたんだ。おれは「ああ神様!」と言って、がっかりしてしまった。彼はおれの楽しみを台無しにしたんだ。何年も経ってから彼女の姉妹のラーナが書いた本の中に、「エルヴィスは歌はうまかったけれど、ほかにたいしたことはできなかったわ」とナタリーがもらしていたと書いてある。彼がそれを聞いたらショックで死んでいたよ。

ハリウッドでスターに出会うこと

しょっちゅうあった。ジョン・ウェインに会ったときもおれは「あなたが第二次世界大戦をひとりで戦い抜いたのかと思っていました」と言った。そしてある日マイク・トッドとエリザベス・テイラーを見かけたんだ。おれは「うわあ!」と叫んで彼女に追いつこうと駆けだした。「おれの名前は……」と言いかけて、自分の名前を忘れてしまったことに気がついた。彼女はあまりにも美しく、出会えたことで我を失っていたんだ。

 結構変なことも目撃したよ。ナタリー・ウッドが何回かスイートにやってきた。おれたちは彼女を“天然狂気”と呼ぶようになった。ナタリーはいい人間だが、クレイジーだった。彼女は自分に自信が持てなくて、何をしでかすか誰にも予測できなかった。ある日(略)彼女はエルヴィスのために自殺をすると言いだした(略)

[エルヴィスに知らせたが]彼は「飛び下りやしないさ」と答えた。彼女は結局そこに三十分ぐらいしゃがみこんだまま「飛び下りる!」と断言したり、吐き捨てるように言ったりしていた。やっと彼女を説得して部屋の中に連れ戻し、おれは椅子に倒れ込んだ。エルヴィスは気楽なものだった。「な、飛び下りないって言っただろう」

前戯の王様

ラマー (略)彼の性的指向はとてもとても変わっていて、女の子にのしかかるだけの問題じゃなかったんだ。彼は女性がパンティをつけたままで、陰毛が端から少し見えるのを好んだ。彼にとってはさわったり、撫でたり、ペッティングすることのほうが実際の行為より大切だった。性交そのものは彼にとってそんなに興奮することじゃなかったんだ。彼はその途中の行為全般のほうが好きだったんだ。

 エルヴィスは前戯の王様だったんだ。彼が子供の頃から母親と繰り返してきたことの現れだったのだと思う。(略)彼は両親とずっと一緒に寝ていた。あの家族の間につながっていたのは糸なんてものじゃない。あれはケーブルなみの強い絆だった。

 だからアニタが処女だったということは信じることができるし、ふたりの関係が厳しい意味で“プラットニック”だったとは思うよ。エルヴィスは処女性を尊重したんだ。彼はアランに「おれは処女を奪ったりはしない。世の中には売女が多すぎる」と言っていたという。

 薬

ラマー (略)グラディスは酒を飲んでいたうえ、アンフェタミンも服用していた。エルヴィスは(略)初めての覚醒剤を五七年に母親からもらったんだ。グラディスは生活の変化にうまく対応できなかったんだ。彼女は徐々に消耗していた。医者が彼女用に薬を処方するんだけど、彼女の知らないうちにエルヴィスが何錠かかっぱらっていた。(略)薬はデキセドリンで、ときどきはデスビュタルだった。

(略)

錠剤が馬鹿みたいに好きだった。薬がもたらす効果が好きだったんだ。どんな錠剤でもよかった。(略)

薬が世界を形成できると信じている人間がいるとしたら、それはエルヴィスだった。

(略)

彼は、五七年頃にはすでに自分の人生が自分のものではなくなってきていると感じていたのではないだろうか。ビックなスターになりたかったのは事実だけど、これほど有名になりすぎるとは予想していなかったんだ。あの頃から彼はおれに「ラマー、おれはロボットだ。誰かがおれに命令して動かしているんだ」と言っていた。

(略)

ビリー エルヴィスが心底傷ついたのは、スコティとビルが去ったときだった。

(略)

彼らは十分なギャラをもらっていないと考えていたんだ。エルヴィスが素晴らしい財産を築き上げていたとき、彼らは地元で週百ドル、ツアー中は週給二百ドルにプラス千ドルのクリスマス・ボーナスを受け取るだけだった。彼らは自分たちを認めてほしかったのと同時に、初期の頃のように利益の歩合を要求したんだ。大佐は「くそくらえ。お前らにそんなものを受け取る資格はない。はっきり言ってその程度だよ、坊ちゃんがた」と突っぱねたんだ。

(略)

[エルヴィスは落ち込んだが]

大佐は「別に問題ない」と言って(略)ナッシュビルのグループを結成した――ピアノがフロイド・クレイマー、ギターがハンク“シュガーフット”ガーランド、そしてベースがボブ・ムーアだった。

 彼らは観客を圧倒してしまった。エルヴィスはフェアのステージを終えると、満面に笑みをたたえておれのほうを向いて言った。「なんだ、結局スコティとビルなんていらなかったんだな」でもスコティは完全にどこかへ行ってしまったわけではなかった。彼とは六九年まで付き合いがあった。

母の死

[入隊中、危篤の報]

エルヴィスは「自分に緊急休暇を許可してください。母が死にかけているんです」と頼んだ。するとその大尉は「彼女はすでに死んでいるのか」と聞いた。エルヴィスの動きが止まった。顎に力が入り、「あんたにこれからぼくが何者であるかということと、これからぼくが何をするかということをよく理解してほしい」と始めた。「ぼくはエルヴィス・プレスリーだ。レコードをしこたま売っているスターなんだ。ぼくはあんたたちの軍隊ごっこに付き合った。あんたたちの銃も撃ったし、戦車も操縦した。でもこれは自分の母親のことなんだ」

 そして「五分間のうちにぼくの手の中に許可証がなければ、あんたたちは後悔することになるぞ。ぼくはAWOL(無断欠勤)になってやる。そして記者会見で『自分がAWOLになった理由は、軍がぼくに母親に会うための緊急休暇を許可してくれなかったからだ』と発表したとしたら、あんたたちの立場はヤバくなるだろうよ。さあ、どうするんだ」と脅したんだ。(略)

そうしたら即座に効果を発揮した。大尉は真っ白いシーツのような顔色で飛び上がり、少佐の事務所に行[き](略)許可証を手に戻ってきて「行っていい」と言ったんだ。

(略)

ラマー グラディスが死んだ四週間後、エルヴィスは海外に派遣された。彼には彼女の死を乗り越える時間がなかったんだ。何週間も彼女のナイトガウンを抱えて歩いていた。何があってもそれを離そうとせずに、ガウンとともに椅子に座って寝ていた。そしていつも泣いていた。いつもだ。(略)

 エルヴィス・プレスリーの死を記録する際に覚えておかなければならないのは、“傾き”はグラディスが死んだときに始まったということだ。それは彼にとって最も強烈な体験だったんだ。彼はもう二度と同じ人間にはなり得なかった。

空手

[空手は]ドイツ滞在中に始めたんだ。(略)アメリカではほとんど誰も空手なんて聞いたことがなかったから、エルヴィスは一気に魅了されてしまった。(略)
アメリカに戻ってからもいつも空手の話をしていた。その頃、黒帯を取得した。見方によっては、彼はこの国に空手を普及させる手助けをしたんだ。雑誌は彼がマーシャル・アーツを習っていることを書き立て、その記事を通して子供たちが情報を得たわけだ。彼は木材を大量に買い込み、仲間と一緒にダウンタウンメンフィスのメイン・ストリートのど真ん中で、空手チョップでぶっ壊すデモンストレーションを行っていた。

ラマー エルヴィスはワルぶっていたけど、実際は全然違う。空手は、彼に“ワル”になるチャンスを与えてくれたんだ。

除隊後

ラマー あっちにいた十八ヵ月間は本当に辛かった。(略)彼は惨めだった。自分のキャリアが干上がってしまうのではないか気が気じゃなかったんだ。(略)

入隊した最初の年の十二月、彼のチャート上での衰退は明らかだった。
(略)

ビリー (略)

エルヴィスは、大衆が彼のことを以前と同じ目で見てくれるかどうか心配だった。そして、音楽そのものが変化してしまっているのではないかとも心配した。彼は「自分がドイツにいる間、まるで時間が止まっているようだったよ」とこぼした。(略)

 だから除隊したとき、〈イッツ・ナウ・オア・ネバー〉をレコーディングしたがったんだ。彼は本当にあの歌を誇りに思っていたよ。五〇年代、人々はずっと「エルヴィスは流行歌手だ。そんなにいい声をしているわけじゃない」と評していたからだ。彼はその意見に挑戦するアイディアを気に入っていた。ドイツにいる間ずっと、声を鍛えていた。自分が除隊したときにどうすべきか、どういう風に聞こえるかということを常に考えていたんだ。以前は、彼の音楽には遊び心のある純粋さみたいなものがあった。でも六〇年代の初期には「おれには勢いがあるから、それを利用するんだ」という意識がエルヴィスの中で芽生えたんだ。

マーティ エルヴィスがドイツにいる間、RCAの重役が、帰国したエルヴィスは自分の音楽のスタイルを変化させるだろうと記者会見で発表した。すると大佐の事務所にはファンから「何も変えてほしくない」という電話が何千本とかかってきた。でもエルヴィス自身が変わってしまったんだ。突然彼はクルーナー(低くて甘い声の歌手)になりたがった。彼が向こうで経験したことを考慮してほしい。彼はヨーロッパの音楽を聞いていたんだ。そして〈オー・ソレ・ミオ〉のリメイクである〈イッツ・ナウ・オア・ネバー〉を作ったんだ。

 エルヴィスはオペラ、特にマリオ・ランザが大好きだった。彼はハイデルベルグが舞台の「学生王子」を何回も繰り返して見ていた。彼は大きな声の発する力強さが大好きだったんだ。そして大人数から成るオーケストラが大好きだった。彼はとてもドラマチックなものが好きだったんだ。彼はマエストロが指揮しているのを見ながら立ち上がり、テレビの前に立ってその真似をするんだ。

プリシラ

ラマー (略)おれはエルヴィスに「彼女は確かにかわいいよ。でもまだ十四歳なんだぜ。おれたちは間違いなく終身刑を食らうよ」と釘を刺した。(略)彼女は青と白のセーラー服に白い靴下を履いていたのを覚えている。おれはそれを初めから無気力に脅えながら見ていたよ。

(略)
 よく質問されるのは「プリシラをどう思っていたか?」ということだ。おれは「彼女はとてもラッキーな十四歳の女の子だったと思う」と言うことにしている。とても野心的で、攻撃的で、いつも悪さをしようと狙っている典型的な十代の女の子だった。

(略)

マーティ プリシラは自分の本で、エルヴィスと自分は結婚するまでセックスをしなかったと書いているけど、個人的にそれは信じがたいね。(略)

ラマー エルヴィスがプリシラを創り上げた。そして彼女の今の性格は、当時彼女が十四歳のときに彼と生活をともにしたことが大きく影響している。彼はあまりいい仕事をしたとはいえないけど、一時期、プリシラはとてもおもしろい人だった。ここで覚えておかなければならないのは、エルヴィスが自分にとっていい仕事をしていたということだ。それしか彼は関心がなかった。例えば、彼は彼女にセックスに関してすべて教えた。彼女は、彼がそうあって欲しいと願うような存在だったんだ。

 もちろんあのふたりは結婚する前から一緒に寝ていた。実際に性交はしなかったけど、それに近いことはすべてやっていたんだ。セックスに関しては彼が刺激するほうに興味があったことを忘れちゃいけない。彼は挿入そのものはあまり好きではなかった。彼は割礼を受けていなかったから、性交ではときどき彼の包皮が破れて出血したんだ。だが彼は完全な変態だったよ、それだけは確実だ。ありとあらゆるフェティシュを持っていた。彼は初めから彼女にそういう真似をさせていた。

ビリー ああ、エルヴィスは結婚前からプリシラとセックスしていたよ。プリシラがおれの女房のジョーにそう言ったんだ。(略)

でもエルヴィスのこだわりは処女性だった。彼は彼女に「ほかのみんなの前ではお前は処女だ」と言ったという。

次回に続く。