歌は録音でキマる! 音の魔術師が明かすボーカル・レコーディングの秘密

 

歌は録音でキマる!  音の魔術師が明かすボーカル・レコーディングの秘密

歌は録音でキマる! 音の魔術師が明かすボーカル・レコーディングの秘密

 

 太い音

 平均的な音量を落とすことで、ピークに対するマージンができて、ダイナミクスを有効に使うことができるようになる。また、ダイナミクスのコントロールによって生じる音色の変化こそ、表情や表現力になるのだ。

(略)

これは楽器の録音でも全く同じことが言える。強く演奏するほど、音量が上がると同時に倍音が多く出ることになり、鋭い音になる。楽器の場合は、ボーカル以上にピーク成分があるので、レコーディングでは相当レベル設定を下げて録音するしかなくなってしまい、かえって細い音になってしまうわけだ。太い音(低音にエネルギーがあったり、重量感のある音)が欲しければ、強く弾きすぎないことだ。例えば、低音がズシリと効いたバスドラムの音が欲しければ、強く叩くのではなく、比較的ソフトに叩くことで倍音やアタック音を抑える。音量自体は小さくなるが、レベルは録音する際のHAのゲインやコンプによって稼ぐことで、太くて存在感のあるバスドラムの音が作れる。パワフルに踏んだバスドラムからでは、どれだけ頑張っても絶対に作り出せない、イイ音になるのだ。

 「ん」の発声

ここで歌唱法のアドバイスをひとつ。ボーカル録音では「ん」の音を発声するときに、唇を閉じないことだ。口をあけたままで「ん」を発音することで、明瞭度が上がる。

 個性を保ちながらのEQ

 ボーカルの場合、倍音は母音よりも子音に多く含まれるし、歌い方(略)によってもかなり変化する。やみくもなEQ は、この倍音構成を大きく変更することになり、ボーカリストの個性を損なうことにもつながる。では、その個性を保ちながらのEQとはどういったものなのだろうか?

 人の声の主な成分(基音)は、200Hz~4kHzくらい(略)

その範囲は補正程度のEQに留めて、それより上の倍音を活かして8~16kHzあたりでヌケの良さや張りを出すのが良い。また、アタック感が足りなければ、1~4kHzをちょっと上げたり、ふくよかさが足りない場合は、基音の下の方の3~400Hz辺りの帯域を持ち上げることもあるが、元の声質によっても全く変わるので、それぞれのボーカルに適した帯域を探そう。

音量と音色の関係

 音量と音色には相関関係にある。一般的に、音量が上がると倍音が増える。楽器を優しく弾けば音量が小さくなるだけでなく、音色は柔らかくなる。逆に激しく弾けば、音色は硬くなったり明るくなる。ただし、強すぎると特定の倍音だけが特出してしまうことが多く、サウンドとしては決して美しくなくなり激しさが目立ってしまう。適度な強さによって、豊かな倍音を導き出すことが大切。優れた演奏家は、楽器の最も良い響きを見つけ出す天才でもある。例えば、初めて訪れたホールで、初めて触るピアノを演奏している時、暫く演奏するうちに次第に美しい音色になってくることがある。多くの人は、眠っていた(あまり弾かれていなかった) 楽器が次第に鳴り出したと思うようだが、実は、そのピアニストがその楽器の最も美しく響くポイント(タッチ)を見つけ出したからなのだ。では声で考えてみよう。小さな声を出すときは比較的楽に出せるため、丸い滑らかな音になるけれど、大きな声を出そうとすると、どうしてもアタックが付いてしまい、特定の倍音を含んだ硬い音になってしまう。

(略)

大きな音の方が倍音が増える分、相対的に基音が小さく聞こえるため、聴感上は細い音になることを実感してほしい。

 改めて言う。強い音は大きな音量で細い音。優しい音は小さい音量だけど太い音なのだ。

(略)

優しく歌った方が、幅広く豊かな倍音を含んでいるため、EQの掛かりが良くなる。また、特定の音程やフレーズがEQポイントにモロに影響されるという現象も避けられる。

 自然な響きが得られるリバーブ・センド・テクニック

特に好みではない倍音のトゲトゲしさや、低音域のブーミーさを回避したいなら、リバーブが演算を始める前にそれをEQで抑えよう。リバーブで広がってしまってからEQするのではなく、広がる前に除去しておくわけだ。いわば「臭いものは元から絶たなきゃダメ」というわけだ。

 ボーカルの場合、1k~4k辺りのアタック感を抑えてあげると、非常にスムースなリバーブサウンドが手に入る。また、150 ~ 500Hzあたりを比較的鋭いQで抑えることで、低音のもたつき感やブーミーさを抑えることができる。

本当に美しいハーモニーは平均律ではない 

自由にピッチを操れるものの中でも、最高に表現力があるのがボーカルと言えるだろう。

 ボーカルでは、音程を自分の耳で聞いて気持ちよい高さに合わせよう。ピアノやシンセは平均律だから、必ずしも美しいハーモニーとは言えない。人間の声は、自由にピッチを取れる素晴らしい音源だ。フレットのない弦楽器も声と同様だから、合唱やストリングス・アンサンブルは、美しい響きを作り出すことができる。(略)本当に美しいハーモニーは残念ながら平均律ではないのだ。

 魅力的な響き

いい声を出そうとしたら、自分の声が一番魅力的に聴こえる強さを知るべきだ。無理に大声を出すと音が細くなる。

 高い声を出そうとするとき、大きな声でないと高い声が出ないと思っている人が多い。確かに勢いよく息を出すことで高い声になることもある。それは吹奏楽器なども同じだ。歌でも楽器でも、高い音が強くなり過ぎると耳障りになることが多い。最も魅力的な響きのまま、高い音を出せるような工夫が必要だ。

(略)

英語では子音で終わる言葉がたくさんあるが、日本語はすべて母音で終わる。(略)

母音は子音のように発音時に口が閉じたり、息が止まったりすることがないので、音の終わりがあいまいになる。逆に子音で終わると、音の切れ際がハッキリするので、音の頭と終わりの2箇所でビート感を表すことができる点が音楽的だ。

(略)

また日本語では単語の終わりがあいまいなため、音の終わりを意識しないで歌いがちだが、たとえ子音で終わっていなくても、語尾を意識するだけで見違えるように歌がうまく聴こえ出すのでトライしてみてほしい。ミックス時に、波形処理によってボーカルの音の長さを調節することで、音の終わりのグルーヴを作り出すことも効果的だ。 

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