まわり舞台の上で 荒木一郎・その2

前回の続き。

まわり舞台の上で 荒木一郎

まわり舞台の上で 荒木一郎

東映ポルノ路線

[事件でメディアからシャットアウトされていた荒木に東映の天尾完次が接触、『殺し屋人別帳』でカムバック]
石井輝男さんがピンク映画やってて、東映ヤクザ路線の側から強力に排除されて、監督ボイコットみたいなのが始まるわけですよね。中島貞夫さんが、「監督を差別するのも、作品を差別するのもおかしい」ということで、わざとピンク映画っぽい『温泉こんにゃく芸者』を撮るって言ったわけ。中島さんと天尾さんとは仲がいいから、それが実現して、僕に出てくれって言ってきて(略)そこから東映ポルノ路線が始まるんだ。その時代はまだ「ポルノ」という名前はなかったんです。(略)二作目の池玲子主演の『温泉みみず芸者』(鈴木則文監督・71年)、これが日本で初めてのポルノ映画なんだよ。
(略)
[共演の小池朝雄殿山泰司について]
うちのおふくろに連れられて子どものときから文学座に行ってたから、小池さんは、僕が小学校のときから、ずっとかわいがってくれてたのね。あの頃は小池さん、仲谷昇さんとか、その当時の若手の人たちが子どもである僕をかわいがってくれた。だから、すごく変な感じはします。幼いとき、そうやって面倒見てくれたお兄さんみたいな人だから。(略)よく知ってるだけに、芝居があるように見えちゃう。だから、例えば、『(現代やくざ)血桜三兄弟』でヤクザをやられても、人から見ると、小池さんは怖い人に見えるんだろうけと、全然俺には見えない。いい人だっていう感じしかなくて、「そんな怖い役できるのかな?」みたいな(笑)。一緒にやるのはすごく楽しいよ。『(現代やくざ)血桜三兄弟)』みたいな怖い役よりは、『温泉こんにゃく芸者』の方が、小池さんらしくていいよね(笑)。(略)
殿山さんは、まあ、普段でもあんな人だよ。なんか……、分からない人だよ。(略)
殿山さんに褒められたことが一つあって、それは、芹明香っていう役者を世に出したときですね。殿山さんが言ったのは、「芹明香っていう名前がすごい。あの芸名はすごいよ!」って言ったの。感心してたね、なんだか。

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ポルノの裏の帝王

――荒木さんはこの頃、池玲子杉本美樹らポルノ女優が所属するプロダクションの経営者でもありました。(略)
役者は東映専属じゃないから、東映としては信用できるプロダクションにタレントを置いておきたい。スターを作ってくためのベースが欲しい、ということで、うちに来た。(略)東映ポルノに出てくる女の子たちの面倒を僕が一切見ていくという状況が、そこで作り出されたんです。(略)
鈴木則文と天尾完次と僕との三人で、ポルノ時代が築かれていって、そのあと、すぐに日活がまねして、「日活ロマンポルノ」っていうのを作ったけど、そこにもまた、芹明香とかを送り込む形になるわけだ。(略)
[池玲子杉本美樹ら]がトップスターになって、テレビのレギュラーやったりっていうふうになっていって。日活でも東映でも、主演女優を出してたから、何かポルノの裏の帝王みたいになっちゃった。
(略)
女優になりたい女と片っ端から契約していくわけじゃない。ほとんど詐欺師みたいだよ。自分でやっててそう思うもん。
(略)
[池玲子が突然歌手転向し俳優を休業したので杉本美樹を看板女優にしたと鈴木則文]
まあ、確かに、杉本美樹よりも池玲子の方がわがままっていうか、自分が強い人だから、こうしたいああしたいってことは、結構言ったと思うんだよね。歌を出すってことに異常に興奮したんだと思う。それで、天尾さんも、杉本美樹に乗り換えようとしたんだろう。(略)
[所属女優は]うーんと、20人ぐらいいたかな。(略)
東映の映画に新人として出るんだったら現代企画」みたいな、暗黙の了解みたいなのがあって。(略)
[『温泉こんにゃく芸者』で片山津のヤクザと仲良くなって]
温泉芸者がダメになってきた時代だったから、かわりにポルノ女優がそこで、トップレスでダンスを踊るように契約したことがあったんです。(略)女優さんを一ヵ月も送れないでしょう。だから、もう何でもいいからとりあえずポルノ女優に見えそうなやつをみんな契約しとくの(笑)。女の子の写真だけ撮って、何にも出てもいないやつを、何でもいいから「映画女優」と称して出したわけ。そうやってダンスを踊ったら、その当時で女の子は月30万ぐらいもらえるわけだよ。
(略)
で、その中から映画に使えそうなのを選び出す(略)なんか奴隷市場みたいな感じだね(笑)。
(略)
[池玲子杉本美樹]
……性格は全然違うんだよな。美樹の方はすごく真面目で、最終的には映画をやめて、普通の主婦になっちゃうじゃないですか。で、玲子は、バーをやってく。水商売の方になるよね。美樹は下着のモデルだったのね、最初。言うことをキッチリカッチリ守ってく、みたいな子。池玲子の方は結構大ざっぱで、普通にざっくばらんで面白い子ですよね。どこかのロケから車で帰ってくるときに、助手席に玲子が乗ってて、前にパトカーがいるんだよ。そしたら、フロントのパネルに両足をあげて座って、脚をじょじょに広げて見せるの(笑)。そういうことをわざとやる子。
(略)
[杉本美樹は]バイクに乗ってる温泉芸者の役をやるために、バイクの免許をとにかく早く取らなきゃって言うんで、茨城県の教習所だったら一週間で取れるっていうから、毎朝六時に起きて茨城に行ったんだよ。(略)一週間、前日がどんなに遅くとも全然文句も言わずに早起きして通ってた。
(略)
 芹明香のときなんかは、男っていうよりも、麻薬絡み。東映京都は危ないんだよ、ほんとに。人が麻薬漬けになっていくんだよ。危なくてしょうがない。うちのポルノ女優を入れたら、いつのまにか麻薬をやってて、それが他の女優にもウツってたりするわけだよね。そういうものが京都にあるっていうのは分かってて、それをどうやって防ぐかっていうのもあったよ。いちばん、大きな犠牲になったのが芹明香で、そのまんまドップリ入っちゃった。でも、そこまで行かない子もいたし。京都は、そういう所が、ちょっと裏に入るとあるんだよ。

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頭脳警察

――頭脳警察とのつながりはどのようなものだったんですか?
頭脳警察は、しょっちゅうこっちがMCAにいて、いろんなことをやってるじゃないですか。たまたま、頭脳警察のディレクターか誰かが知り合いで、「頭脳警察やってもらえないか」っていう感じで話が来たんだよね。だから、ほんとのプロデューサーみたいに自分が発掘しに行くんじゃなくて、自分がレコード会社にいるから、ある種、便利使いっていう感じで、プロデュースをやったわけ。
 頭脳警察を『鉄砲玉の美学』のときに、音楽を俺との共同名にしたのは、こっちが頭脳警察を売ろうとしてたからです。『鉄砲玉の美学』の音楽を頼まれて台本読んだときに、「頭脳警察の感じだなあ」って思って。インストでやるよりは、頭脳警察の曲をバンと持ってきた方が、鉄砲玉の感覚を出すのに合ってるなと思った。シャウトしていく、何かにぶつけていくっていう部分をBGMとして考えたら、「あ、これ」っていうふうに結びついたわけですよ。
(略)
[ATGは予算がないので]予算をMCAからもらうためには、頭脳警察がいいかなっていう考えもあって

『鉄砲玉の美学』主演:渡瀬恒彦

あの台本を見たときに、渡瀬だとは思わなかったんだよね、俺は。渡瀬の芝居はよく分かってるから、ATGをやるのに、東映色を強くしない方がいいと思ったんだよね。(略)
今まで世に出てない、もうちょっと埋もれたところの人を使ってもいいんじゃないかって思ってた。そうじゃないとATGをやってる意味がない。中島さんって、東映っていうところの中で、ある意味でATG的な、ヤクザ否定をやろうとする人だから。今度はATGなんだから、キャスティングから何から違う形が取れるはずじゃないですか。だから、東映色は消した方がいいっていうふうに、僕は思ってたんだよね。
 だけど、渡瀬が日参してたんだよ。とにかくやりたくて、やりたくて。こんなにやりたがってるんだったらって、中島さんはやらせる形になるだろうなあと思った。でも、中島さんのためには、他の人がやった方がいいって思ったね。
(略)
渡瀬の場合、ホンの色が見えないから、自分がやることじゃないっていうのが分からなかったんだね。渡瀬はニュアンスは出せないから、一直線になっちゃう。役は一直線の役だけに、そこに、人間的なものを醸し出さなきゃならないんだ。渡瀬だと、単純なヤクザ映画みたいになっちゃう。これは一本線に見えて、一本線でやってはいけない映画だから、あれは、中島さんの邪魔をしない方が良かったよ、みんな。ちゃんとやらしてあげれば良かったんだよ。そうすれば、歴史に残る一本になったんだろうけど。

鉄砲玉の美学

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伊佐山ひろ子

伊佐山ひろ子に会ったときにびっくりしたけどね。何でこんなブスが主役やるんだと思ってさ(笑)。(略)
 で、やりだしたら、面白いんだよ。芝居が独特だよね。例えば、鏡で自分を見てるんだけど、ああいう芝居、普通はやらない。普通、上にこうやって髪を持ち上げて鏡を見るっていうのは(髪を指でつまんで上にひっぱる仕草)、やらないだろうなあと思うんだよ、誰も。すごく自然なんだよね。そういった仕草に、今までにないものがあって、そこが面白かった。
 あいつは、私生活でも変わってるんだよ。(略)ずーっとうちの事務所に出入りしてて、何かにつけては相談に来たり、犬みたいになついてた。俺が麻雀やってるときに電話かかってきて、「もしもし……。マリリンやってるの」って、いきなり言うんだよ。(略)来ると、マリリン・モンローの格好してるんだよね。で、麻雀やってる俺の横にベタッて座って、うちの奥さんに「お借りします」ってまじめに言うんだよね(笑)。
(略)
 それが芝居にも自然に出てくるんだけど、どこまでほんとにやってるのか、全然分かんない。天然といえば天然だよね。で、桃井かおり伊佐山ひろ子に対して、芝居に対して嫉妬するわけだよ。かおりは自分で言ってるから、「私はアレンジャーだ」って。自分は天性でそれをやるわけじゃないって。だけど、伊佐山ひろ子は天性でそれをやる。そういうことを言ってたよ。

曾根中生内田裕也

曽根さんがね、僕のいる現場、現場に付きまとっていたことがあるんだよ。『不連続殺人事件』って映画を彼が撮ろうとしてたときね。曽根さんが主役をやってくれって言ってくるんだけど、「俺はとても地方には行けない。協力できないから」って言って。それでも、とにかくずーっと、どの現場にも来るから、それで考えたのが裕也のこと。「どうしても俺のイメージで撮りたいんなら、俺に似たような感じの雰囲気が出るやつがいるよ」って内田裕也の話をしたんだよ。裕也は、当時、映画に出たくてうずうずしてたしね。久世さんとこなんかに出入りして、でも出してもらえなかったから、多分、やるはずだし、やればそういった雰囲気が出る。ただし、裕也に俺が推薦したって絶対に言わないようにって。言うとこじれるから。なんか、変な虚栄の強い人だからね。いちど頭脳警察か何かのことで、なんか訳の分からない横車を入れてきたことがあるんですよ。ロックは自分だとか、変な虚栄が強いから、親分風を吹かしたかったんじゃないかな、ケンカ腰で言ってきたんですよ。で、自分たちが遊んでる場所でそれが起こって、そこのママが、「裕也、やめてよ」って間に入って収まったんだけと、要するに、そういう人。
 それでいて卑屈なコンプレックスみたいなのがあるから、僕が推薦したとなると、自制できなくなって、いろんな問題を起こしちゃうんじゃないかと思って。(略)だから、曽根さんには、「絶対、俺の名前は出すな」つって、推薦したんだよ。

役作り

 人間の生活っていうのは、客観的に見たとき、そこにある悲劇とか事件も、コメディとして見れば見れなくはないですよね。ある事件は、悲劇と喜劇、どっちとしても見れる。だから、現実の中の可笑しさ、それを演じるのが好きなんだよね、俺は。デフォルメしてコメディのタッチでやるんではなくて。で、いろんなところでそういうニュアンスを出そうとした。眼鏡をかけてて、ぶつかって割れちゃうっていう設定を作って哀愁を出していったり。自分が演技をするとき、いちばん大事なことは、映画が終わったあとにその人にまた会ってみたいとお客さんが思うかどうかなんだ。荒木一郎に会いたいって思うんじゃなく、その役の人、モグラならモグラに会いたいってね。
(略)
 後年、ハリウッドの映画を見たときに、「ああ、ハリウッドの役者さんっていうのはみんなその形を取ってんだな」っていうのが分かってく。でも、日本の役者さんでそういう人はほとんどいなくて、ただ役をやってるだけだね。でも、役を作るってことは、人間の心の中に、「ああいうやつがいたんだな」って、ほんとに人間がそこにいたみたいに作り上げることじゃないかと思うね。だから、そういう意味では、人を作っていくわけですよね。着るものはもちろん、仕草から何から、「こういうモノを持ってるだろう」って考えたり。

神経症

その頃、神経症になってたんだよ。シャットアウトされると、普通の人だと、精神的に結構キツいもんがあると思うんだよね。けど自分は、そのときはあまり感じないっていうか、面白がってるところがあったの。でも(略)
シャットアウトから一年経って、物事を順調に動かせるようになってきたときに閉所恐怖症になっちゃった。そのあおりをくうわけですよね。そっから、ほんとに十年近く、何の活動もしたくなくなった。(略)
飛行機に乗れないとか、新幹線に乗れないとか、高速道路がダメとかが、始まるわけですよ。家から半径500メートルの範囲を出られない。(略)
池玲子やって杉本美樹やって、自分の音楽やって、京都行ったり来たりしてた。けど、とても健康体ではないわけですよ。(略)仕方なく車で五、六時間かけて[混雑をさけて真夜中]京都まで行くわけ。
(略)
[「広島ロケはなし」という条件で受けたのに「第一日目 広島ロケ」ときたので『仁義なき戦い』降板]
 なんでも平気だったものが、あるときからまったく逆になって(略)人っていうものを理解する力が強くなったよね。人はみんなどこかで神経を病んでるな、っていう。(略)だから、人に対するいたわりみたいなものはすごく強くなったよね

若山富三郎

勝さんに「祇園行こう」って言われて、行ったら、勝さん、「空に星があるように」を歌ったんだよ。ちゃんと歌えんの。びっくりした。僕の音楽っていうか、そういう傾向のものを好きなんだなと思って。
(略)
京都東映を牛耳ってんのは俊藤一派。石井輝男のボイコット事件があって、今度はポルノが始まるもんだから、向こうは気に入らないわけだよね。
(略)
[それ以前にも軽く挨拶はしてたが]
何かのとき、勝さんに紹介されたんだと思う。若山さんが安田道代と付き合ってたから、そういう線でも、なんとなく知ってたんだよ。(略)
[ある日撮影所に行ったら]
「お前、ポルノやめろ」って突然言ってくるの。「俺の映画に出ろ。俺と一緒にやろう」って。「そんなこと言ったって、今まで呼んでくれてないじゃないですか」って言ったら、「いや、分かった、俺がちょっと考えるから。次、お前とやるから、出ろよ」って言って(略)
[一ヶ月後また呼ばれて]
大映では勝がいて、東映では俺がいるんだ。だからポルノなんかやらなくていいんだよ」って、また言うんだよね。「そう言うけど、若山さん、この間も何かやらせるって言って、何も言ってこないじゃないですか」って言ったらさ、「すいません」って(笑)。頭下げるんだよ。怖そうな人だけど、実際は、そういうひょうきんなとこがある人なんだよ。
 そのあと、テレビドラマの『悪魔のようなあいつ』でずーっと一緒になるんだけどね。そんなんで、仲はすごくいいです。芝居の勘もすごくいいから、一緒にやってると面白いですよね。
(略)
ちゃんとしたものをやらすと、すごくうまい芝居をする人だと思うよ。(略)怖いところはみんな知ってると思うけど、ひょうきんで優しいところは、あまり知られていないかも。俺はすごい若山さん好きだけどね。

悪魔のようなあいつ沢田研二

沢田っていうのは、ナベプロによって作られたスターであり、要するにイエスマンだから、基本的には「はい、分かりました」っていうところでしか動かない人じゃない? 沢田とは、もちろんドラマ作る中でもずっと一緒だったから、話はするけれども、常にお利口さん。全然、自分の意見を述べない。(略)
ショーケンとか松田優作でも何でもいいけど、そういう主張のある人間を撮ってるんだと、なんでもないシーンでも面白くなると思うんだよ。だから、久世さんがあれをやってるのはどうなのか、現場では、不思議な感じがしたよね。
(略)
 で、結局これがきっかけで、久世さんに頼まれて、沢田のアルバムに「片腕の賭博師」っていう詞を書くわけ。曲を沢田が書いてて(略)ネバダかなんかの賭博師の話を書くわけですよ。自分のイメージとしては、沢田はちょっとバタ臭いにおいを出した方が面白いっていうふうに思ったから、そうしたのね。ところが、ナベプロのプロデューサーから電話かかってきて、いきなりもう却下。(略)「もっと、日本の歌謡曲的な感じでやりたいから、ネバダを五反田に変えろ」って。
(略)
[ケンカになって降りたら、久世がとりなしてきて]
沢田も気に入ってるから、それでやらせてくれ」って言うんで、「分かった」ってスタジオ行くんだけと、沢田はそういうことに関しては一切ノータッチなの。何にも言わない。だから、そういうところであの人はスターになれたんだよ。俺とはまったく真逆の人。だから、俺と話してても、普通に友達としては話せるんだけと、なんていうか、面白味のない人。実際、あの歌詞を僕が作ったあと、次からは、バタ臭い路線になってくんだよ。俺があれだけケンカして、向こうはあれだけ日本だ日本だって言ったくせに、次からは臆面もなく、そうなっていっちゃうわけ。(略)
あれによって路線を変えたのに、プロデューサーからは、何も挨拶はなかったけどね。

桃井かおりをプロデュース

あるとき、お母さんとかおりと三人で話してたときに「かおりちゃんは、なんで秋吉久美子ちゃんや中野良子ちゃんみたいに主役ができないのか」って、お母さんが俺に聞いたんだよ。だから、かおりに「主役やりたいの?」って聞いたの。それまでは、「私は樹木希林になりたいから」って話してたから。(略)
絶対に主役をやりたいなんてことは間違っても言わない子なんだけど、そのとき、「うん」って返事したんだよ。びっくりした。そんな素直な返事されたら受けるしかないじゃないか。だから、「分かった、じゃあ俺がやるよ」って。
(略)
 まずは、本人にはっきり主役をやれる自信とかね、表側で付けてほしかったんだ。もともとシャイな性格だし、脚が太いとかコンプレックスがあったりで(略)『夕暮まで』撮影のときに、走ってるのを横から見ると脚が綺麗に見えるから、それを言ったり。かおりの脚は、普通の人と違って、膝から下が長いんだよ。だから、横から走ってる姿とか見ると、綺麗に見える。エメロンシャンプーのCMを撮るときに、そのへんがはっきりしてくるんだよね。
[CMでまず主役のイメージを作った](略)
全部。プロデュースというか、マネージメントのあらゆる部分を自分がやったんだよ。
(略)
[パルコで緒形拳の相手役、ところが緒形が降板]
「主役はかおりでいいから、他の主役を探すなよ」って言ったんだけど、そしたら「桃井かおり主役では人は呼べない」って言われて
[それでも押し切って一人舞台にしたら超満員]
NHKで、かおりがディスクジョッキーをやってたんですよね、僕が構成して。そのときの手紙の量がすごくて、90%以上、女の子なんだよ。だから、かおりっていうのは、ほんとに女にモテる女だ。つまり、女にモテるような言葉を吐いてるわけだよ。これがそうだってことを知ってて、女の人が憧れるようなことを、すごくうまく口にする。本当は本人とは違うものでも、そういうものを作っていく。それはすごい才能だよね。まあ、それで、女の子のファンがいるってことは分かってたから(略)そのまんまやれば、絶対に満席にできるっていう確信はあった。で、その通りになった。
(略)
パルコの台本は僕じゃないです。(略)NHKのディスクジョッキーの方は全部僕が書いてたけどね。かおりは、一字一句、僕の書いた台本をそのまま読んでるんだけど、誰が聞いても桃井かおりがアドリブで言ってるようにしか見えない。「こうしゃべりたいだろうな」というものを分かってるからやれるわけ(略)語尾はこうしゃべるだろうっていうのまで、全部。
(略)
人は「桃井さんは荒木さんの言うことしか聞かない」って言うんだよ。全然そんなことない。誰の言うことも聞かないんだよ。俺の言うことなんて聞くわけない。要するに、かおりがどうするかを知ってるだけ。何がが気に入らなくて、どうしたいのかを知ってるっていうだけなの。
 ちなみに、この頃もNHKでは「荒木一郎」っていう名前を出すわけにはいかなかったの。
(略)
自分は桃井かおりの曲書いてるわけだし、桃井かおりをテレビに出すときに、どうしても制作の中に僕がいないとできない、だから、クレジットに「荒木一郎」って入るんですよ、シャットアウトしてるのに。他のテレビ局も、みんなシャットアウトしてるんだけと、すごいのは、シャットアウトしてる理由が、それぞれ、みんな違う理由なんだ(笑)。
(略)
一言で言えば、かおりは女性そのものなんだよね。どんな女性の中にもあるものを彼女は、はっきりと出してくる。女性の代表的なものだから、女の人は共感してファンになっていく。

桃井かおりの作り話

[桃井から荒木の悪口を聞かされて]研ナオコもかおりがかわいそうだっていう形を取るんだよ。
 かおりは自分自身のドラマを作るんだ。だから、面白いんだよ。かおりの話の中にも、なるほどと感心するような作り話が出てくる。(略)[多忙で]彼氏に何もしてあげられない。だから、うちにいるときには、……何だっけな、トーストをハートに焼くって言ってたかな、そんなこと。シチュエーションとしては面白いわけだよ。でもそういう子じゃ全然ない。そんなの見たことも聞いたこともない。料理しない子だから。(略)
その場その場でアレンジしてくの、自分っていうのを。自分はこんなに悲劇の女だっていうのを出したりね。かおりの仕事をやらなくなったときに(略)見城徹から呼ばれて、「桃井かおりの話を書いてくれ」って言われるわけ。「桃井かおりに話を聞いて、荒木さん、かっこいいなあと思った」って言うから何を話したのか聞いたら、「最後は、あの人がすべて持ってったよ、って。『お金も何も、おまえはスターにしてやったんだから、あとはいくらでも手に入るだろう』って、そう言った」って言うんだ。それで見城がさ、「かっこいい男だなと思った」って言うから、返答に困ったよね。せっかく、かっこいいと思ってくれてるんだから、本当は、とは言いにくいけど、でも、本当はまったく逆だ……かおりからは一文ももらったこともないし、一切のピンハネもしてない。どんな場合も、何かあれば俺がおごってるし。でも見城が、作り話の方を「かっこいいよね」って言うから、困るんだよね(笑)。(略)
桃井かおりって実名で書かなくていいから、女優っていう形で書いてくれればいい。そしたら直木賞を必ず取らせるから」って言われてさ。でも、書けば、ばれるからね、かおりに。かおりは嫌だろうと思うから[断る意味で]「かおりに聞いて、かおりが書いていいっつったら書くよ」って言ったんだ。絶対、OKするわけないんだけと、わざとそう言ったの。本は売れるだろうけどね。(略)
かおりと一緒にいて、誰かと話してるときに、突然、「イッチャンはこうこうこうこうなんだよ。ねっ」って俺に言うんだけど、本人の前で、本人を違う人間に作って、本人に確認させようとするんだよ。「そうじゃねえよ」って言うわけにも行かず、あいまい。気分で、面白い話を作っちゃうからね

色々難しい桃井

[桃井に憧れてた岸本加世子と]会うたんびに「今日はかおりさんは一緒だったんですか?わー、うらやましい」「うらやましくねえよ!大変なんだから」とかやってたわけだよ(笑)。そしたら、『ちょっとマイウェイ』で、加世子がかおりと一緒になったわけじゃない。一ヵ月もしないうちに気持ちが壊れて、もう二度とやりたくないって言ってた。八千草薫も「二度とやりたくない」ってなったでしょ。黒柳徹子さんなんかも、もう冗談じゃないってなって、……これは『徹子の部屋』のときだけど。
(略)
例えば、テレビドラマのリハをやってて、いきなり不機嫌になって「ちがう、おかしい」とか言い出してリハがストップしちゃう。ディレクターとか、かおりが何を要求してるのか分からないから、みんな黙ったまま困るわけじゃない。そうすると僕が出ていくしかないから出てって、「カメラはこっちから撮ったらいいんじゃないの?」って、かおりが気に入らないところが分かるからね。とりあえず演出家も無視して、カット割りとか作っちゃう。そうすると、かおりが不機嫌を取り下げて「うん」ってなるから、人は俺の言うこと聞いたように見える。でも、そうじゃないの。桃井かおりのやりたいことを知ってるだけなんだよ。レコーディングスタジオでも[同様]
(略)
[桃井を]プロデュースしてマネージメントやったことは、すっごく勉強になったよ。(略)修行させてもらってるみたいなもんで。そういう意味ではすごく感謝してる。

次回に続く。