青春時代に熱中した漫画を語るときの、初々しさにビックリ。
樹村みのり
初めて読んだ樹村みのりの作品は、『おとうと−弟−』だ。
1969年のことだ。(略)
いったい、樹村みのりの前に、樹村みのりみたいな漫画家はいたろうか。あんな、誰にでもある日常生活の中に、魔法のように輝くものを見つけられる漫画家なんて、ほかにいたろうか。あんな普遍的な風景の中に、いつまでも胸に焼きついて忘れられないシーンを見つけられる漫画家なんて、いったいほかにいたろうか。
ガロのいた風景
あのころ、『ガロ』は身近に存在していた。
ぼくが吉祥寺に住み始めたのは、1972年だった。(略)
吉祥寺には、翁二がいた。(略)
ぼくはろくに大学の授業にも出ず、仲間と麻雀をやったり街をうろついたりして、夜になると、ぐゎらん堂に戻り、朝まで時間を浪費していた。
そこには、翁二がいた。(略)
翁二は、ぼくの憧れだった。年齢は、ぼくと違わないはずなのに、ぼくの知らない世界を生きているように思えた。翁二の住む街には、スクーターに乗った人さらいが夜空を飛んでいたのだ。
そうだ、あのころのガロは、素敵な雑誌だった。
大島弓子
じゅんが、お宅訪問!
大島弓子には、借りがある。
大きな借りがあるのだ。
恥ずかしいことに、そして申し訳ないことに、ぼくは、彼女を訪ねたことがある。
一回だけだ。それも、三十年以上前、学生時代、ほんとに、一回だけ。(略)
ほんのちょっとした、心の迷いなのだ。
あまりに悲しいことがあり気持ちが長い間ダウンしている時に、たまたますぐ近所に大島弓子が住んでいると知ってしまったばっかりに、ふと訪ねてしまったのだ。
じゅんの心の叫び
[『約束の地』系統の注文はマイナー雑誌からしか来なかったので結局描かなくなった]
ぼくは、読者が欲しかった。あのタイプのものを描くには、ものすごくエネルギーが要る。非常な集中力と、時間が必要だ。一生懸命描いたものなら、ぼくはできるだけ多くの読者に読んで欲しかった。数千部から一万部台の発行部数の本では、読んでくれる読者の数も知れている。それはあまりに残念だ。
「吾妻ひでおの希望」
と題されたインタビューは「いしかわじゅんの希望」でもあるのだ
「俺も吾妻さんほどじゃないけどな、ずっと昔、十年やって、おかしくなった」(略)
[仕事ができなくなり、香港、英国を彷徨。]
「ここでやっぱり、おかしくなった時に、躊躇わず入間に向かうかロンドンにいくかって違いがね」
「ちくしょー、悔しい……」
吾妻はそれほど悔しそうでもなく笑った。
(略)
「そのホームレス時代に、ほかのホームレスと交流はなかったの」
「なかったね。ホームレスとは性格が合わない。俺は自分をホームレスとは思ってなかったし。ただ一時的にそういうことやってるだけだ」
吾妻は一度言葉を切って、それから声を少し大きくした。
「俺は、ああいう連中とは違う」
(略)
[ガス配管工ガテン生活に満足していながら、親会社東京ガス社内報に漫画を投稿して、身元がバレるようなことをしたのかといしかわが問うと]
吾妻はしばらくアイスコーヒーのグラスを見つめた。それはたぶん、考えているのではなかった。答は最初からわかっているのだ。
「こんなことはやってても俺は違う、と思ってたからかな……。俺はそういう人間じゃないってプライドがあったから……」
「俺はそういう人間じゃない」という吾妻の叫びの向こうに、いしかわじゅんの「俺はクラタマやヤクとはちがう」という叫びを見てしまうYO。そして別れ際、吾妻を励ます熱い言葉は自分自身にも向けられているに違いない。
[注:9年くらい前の文章なので憶えてないが、多分、この頃、コメンテイターをやっていたいしかわじゅんにちょっとアレな気持ちがあったんだろうなあ]
「これからは、どうするの」
「最近……、やっとギャグをやめるって決心ができたんだ。今から作風変えるってのも遅いけど」
「いや、それはさあ、作風を変えるんじゃなくて、題材を変えるだけだよ。ギャグを描いても日記を描いても、作風は吾妻さんだ。俺たちは吾妻ひでおのギャグ漫画を読みたいと思ってるんじゃなくて、吾妻ひでおの漫画を読みたいんだ。なんでも好きなもの描けよ。俺たちは読むよ。
以下余談。
インドで漫画出版という無謀な行為に見事失敗し、ガンで入院している山松ゆうきちへのインタビューが不思議な味わいで、この路線アリだと思うけどなあ。
『フロムK』でエリカと京子の似顔絵描いて顰蹙買った話だけど、これは少女漫画家二人と同化してすっかり同類気分で内輪ネタを披露したら、男がブスを笑ったという風にとられた、乙女男子の悲哀ということじゃないだろうか。
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