よくわかる最新音響の基本と仕組み

ノイズ

ある周波数間隔あたりのエネルギーが等しいノイズがホワイト・ノイズです。これに対して、ある音程幅あたりのエネルギーが等しいノイズはピンク・ノイズと呼ばれます。

マスキング

順行性マスキングとは、前に出た音が後に出た音をマスクする現象です。逆行性マスキングは、後から出た音が前の音をマスクする現象です。常識から考えると、時間を遡って影響を及ぼす逆行性マスキングはあり得ない現象です。しかし、強い音を聞いたときに発火する神経インパルスの速度が、その前に聞いた小さな音で発火した神経インパルスよりも伝達速度が速いため、逆行性マスキングが生するのです。ただし、順行性マスキングや逆行性マスキングの効果は、同時マスキングに比べるとごくわずかです。また、影響を及ぼす時間も極めて短いものです。

音の高さの二面性

 高さというのは、周波数と対応した「高い―低い」の一次元上の現象であると述べました。しかしその考えだけでは説明のつかない現象もあります。それがオクターブの類似性です。(略)
 たしかに、周波数が上昇するにつれて、音が高くなる様子を感じることができます。しかし同時に、周波数が2倍になったときに「元に戻ってまた始まる」というような感覚がします。それが「オクターブの類似性」といわれる現象です。
(略)
 音の高さというのは、周波数に対応した直線上昇的な側面と、オクターブを周期として循環する側面の2つの面があります。それぞれ、音色的高さ(トーン・ハイト)、音楽的高さ(トーン・クロマ)といわれています。その様子をモデル化したのが、図4―4です。音の高さは、らせん階段を登るように循環しながら上昇していきます。このらせんの一周が1オクターブに相当します。(略)
 音の高さという性質は、基本的には一次元的ですが、ここで示したような二面性を帯びています。その分、音の高さは、音の大きさよりは若干複雑な性質といえます。

音色(ねいろ)

 音の三要素の中で、大きさや高さに比べて、音色の性質はより複雑な様相を呈しています。(略)
「明るさ」や「きれいさ」、「豊かさ」など、さまざまな心理的な性質を帯びています。(略)
物理量との対応関係も複雑で(略)周波数スペクトル、立ち上がり、減衰特性、定常部の変動、成分音の調波・非調波関係、ノイズ成分の有無などがあげられます。
 さらに、音色の特徴として、何の音であるか聞き分ける識別的側面と、音の印象を形容詞で表現する印象的側面の2つの面があることがあげられます。

「らしさ」を生じさせるもの

 「らしさ」を形成する特徴は、楽器にとっても重要な要素です。楽器の「らしさ」を出すためには、倍音構造をマネただけでは十分ではありません。かつて電子オルガンでそのような試みがなされましたが、元の楽器とは似ても似つかない音となってしまいました。楽器音の立ち上がりを中心とする過渡特性やゆらぎ、ノイズといった偶発的要素が、楽器の「らしさ」に大きな貢献をしているのです。
 「らしさ」さえ備えていれば、相当劣化した音質でも楽器を聞き分けることができます。サクソフォーンの音は、コンサート・ホールで聞いても、小型のトランジスタ・ラジオで聞いても、サクソフォーンの音に聞こえます。このような現象は、音色の不変性と呼ばれています。音色の不変性は、音色の「らしさ」に他なりません。

シャープネス

シャープネス、ドイツのミュンヘン工科大学ビスマルクが提唱した音色因子です。「鋭い(sharp)―鈍い(dull)」といった尺度と関わりが強く、金属性因子と同じ性質を持ちます。シャープネスは、スペクトル構造の優勢な周波数帯域と対応します。高域成分の優勢な音ほど、鋭い、かん高い音色になります。(略)
同じ基本周波数の複合音であれば、高い成分音まで含む音ほど「鋭い」音になります。最高周波数の成分が固定された場合は、最低周波数成分が高い周波数であるほど「鋭い」音色になります。
 また、同じ周波数の成分を有する複合音であれば、スペクトルの形状が高域に優勢なものほど鋭い音になります。たとえば、右下がりのスペクトル形状の音は「鈍い」印象、右上がりのスペクトル形状の音は「鋭い」印象になります。平坦な形状のスペクトルでは、シャープネスはその中間程度となります。
 シャープネスは、スペクトルの微細構造にはあまり影響を受けません。連続スペクトル(ノイズ)であっても、離散スペクトル(周期的複合音)であっても、スペクトル・エンベロープが同じであれば、シャープネスは変わりません。
 シャープネスは、音圧レベルの影響も小さく、音の大きさ(ラウドネス)とは独立した性質と考えられます。ただし、音圧レベルが高くなれば、ほんの僅かにシャープネスは上昇、すなわち「鋭い」音色になります。

方向決定帯域

バンド・ノイズの中心周波数が異なれば、音像の感じられる位置が大きく変化している様子がわかります。 300Hzから500Hz付近、および3kHz〜5kHzの周波数帯の音は、前方に定位する傾向があります。これに対して、8kHz付近の音は上方に定位します。後方に定位する周波数帯は、800Hz〜1,600Hz、および10kHz〜12kHz付近です。
 このような音像の方向を決定する周波数帯域は、方向決定帯域と呼ばれています。「天の声」を聞かせたかったら、8kHzあたりを強調すればよいのです。

[関連記事]
kingfish.hatenablog.com
kingfish.hatenablog.com
kingfish.hatenablog.com