バルタン星人を知っていますか? その2

前回の続き。

バルタン星人を知っていますか?: ~テレビの青春、駆け出し日記~

バルタン星人を知っていますか?: ~テレビの青春、駆け出し日記~

ウルトラQ

 支配人の制作条件の話が続きます。
 「フィルム許容量は、ひとつ、1・5倍ということで、ひひひ、おねがい…」(略)
 一度NGを出せば計算上2倍になるわけですから、めったなことでは、NGに出来ない(略)
 「それはちょっと…」
 厳しいんじゃないか、と言おうとする矢先に、
 「なにしろ、35ですからねえ、本編並みに…ひひひ、よわっちゃいますよ」
 支配人は、時に慇懃に、時に威圧をこめて、おなじ笑いを使い分ける切れ者でしたから、僕など子供あしらいです。
「使用尺数をオーバーしてフィルムをお渡しするときには、監督に始末書をいただくことになっております…」

不退転

 相変わらず五社協定を堅持していた東宝では、専属俳優を映画とテレビで画然と区別していたようで(略)佐原健二桜井浩子、西條康彦など東宝映画専属俳優の人たちも、テレビに出た以上は、たぶんもう映画出演は望めないものと覚悟していたようです。監督も同じで(略)梶田興治、野長瀬三摩地両監督も、不退転の立場だったようでした。それに比べれば(略)TBS映画部の僕たちは、羨ましがられても仕方のない暢気な立場だったのです。

「赤チン弁当」

円谷プロから東宝撮影所に向かう道の途中に、「赤ちょうちん」という定食居酒屋がありました。「赤チン」とは、そこが作る弁当の愛称(?)で(略)見事に薄くスライスした竹輪ふうの練り物にたっぷりと衣をつけた天麩羅を煮て、弁当の表面いっぱいに広げて覆い尽くした隅っこに、黄色い沢庵ひと切れと小梅ひと粒、間違って落っことしたほどのこうなごか昆布の佃煮が添えてあるのが、標準的な「赤チン弁当」です。
 円谷プロでロケーションに出る場合は、近所に食堂や弁当屋がない場所が多いせいもあって、お昼には必ず弁当が出たのですが、ロケ先が、マグロで名高い三浦三崎であろうと、牛が群れている八ヶ岳の牧場であろうと、軽井沢の瀟洒なリゾートホテルであろうと、どこまで行っても、さてお昼になると、満席で荷物があふれかえっていたロケバスのどこに積まれていたのか、まるで手品のように、天麩羅の大きさから佃煮の位置まで毎日きっちり変わらぬ「赤チン弁当」が顔を出すのです。
 「円谷の支払いは、どこもかしこもすべてがツケで、赤チンなんぞは、半年先の手形払いだっていうぜ…」
 夜を日に継いで、ブリキ・スタジオの熱風と火炎に曝されて励んでいる特撮班となると、
 「うっかりすると、一日、2食も赤チンの顔を見るんだから…(弁当を配る)製作に投げ返したくなるぜ」

実相寺昭雄

実相寺昭雄監督は手間のかかった特撮場面を、情に流されることなく、ばっさばっさと切り刻んで、特撮監督と険悪な場面に至ることもあったと聞いています。まあ実際は、人扱いが巧みだった彼のことですから、なんとなく言いくるめてしまったにちがいないのですが、円谷伝説としては、そういうことになっています。でも、そのときの、若い特撮スタッフと、その後京都の松竹撮影所で関わったスタッフとで、やがて生涯彼が行動を共にすることになる同志的集団、コダイ・グループを旗揚げすることになったのですから、映画の世界(活動屋)の人情は、摩訶不思議なものがあります。

金城哲夫

 時に、セリフはひと言ふた言ながらちゃんと目立つ役がいつまでも空欄で、どうなっているのだろうと思っていると、撮影当日、文芸室長の金ちゃんがちゃんと衣装化粧を済ませてセットに入っているなんてことがありました。彼の母校、玉川学園という学校は演劇や歌の活動が盛んでしたから、金ちゃんはどうしても衝動を抑えきれなかったのでしょう。

科学特捜隊設定変遷

 さて、金ちゃんから時折聞かされていた『ベムラー』の企画ですが、どんな話だったのか、ほとんど覚えていませんが、初期の段階では、警視庁の地下の一室に隠棲していた特別科学捜査班が、企画内容の検討が進むにしたがって表舞台にせり上がってきて、いざ脚本に手をつけるにあたって説明された『レッドマン』になる頃には、フランスに本部を置く世界的な組織の日本支部ということになっていました。
 科学的な捜査能力を備える対怪獣組織の一団として(それでも何故か)警察庁でなく東京の警視庁に所属し(略)先進科学兵器を駆使して怪獣を捕獲または撃退する、軍とは一線を画した組織、といった設定になっていて
(略)
実はウルトラマンであるサコミズ隊員が常駐していて(略)
最初に説明を受けたときには、女性のレギュラー人物は、フジ・アキコ隊員ではなくて、ウルトラマンの宇宙船と事故を起こして死亡したサコミズの妹だったかと思いますが、なんだか書きにくくて、(そこを避けて)別な女性隊員のイメージをふくらませてゆくうちに、サコミズ隊員にちょっと惚れている(『ウルトラQ』の江戸川由利子と万城目淳の関係)風になり、結局、最終的には、そのキャラクターがフジ・アキコ隊員になったのです。
 急場しのぎの脚本書きに関しては、スタジオ・ドラマ時代『月曜日の男』でさんざん鍛えてきたことですから、(決して自慢することではありませんが)ある種乱暴な意味で熟達しているつもりでしたが、なにしろ、すべての説き起こしであるべき第1話を、いっさい見せてもらえずに、3本の脚本を作ってゆくのですから、それこそ、目隠しされて走らされるような、滅法な話でした。シリーズ全体をコントロールする立場の金ちゃんは、こちらがどんどん変えてしまう設定を、諸事情をかかえて、自らが書き直している第1話に逆算してフィードバックしなければならなかったのですから、さぞかし大変だったと思います。
(略)
[基地の設定が]エスカレートしていくうちに、ムラマツ隊長率いる科特隊というよりは、大組織の中にある班のように考えなければ、組織のリアリティーが保てなくなってしまったのです。

科特隊がシビリアンであることの証明のために、平常の本部司令室勤務では、科特隊員はブルーのブレザーを着用することが決められていました。
 いざ出動となると、歌舞伎の引き抜きの要領で、すばやく例のオレンジの出動服に着替えることになっていました(略)[が練習しても]どうもまだるこしくて緊迫感を削ぐので(略)他の監督の作品では、ほとんどやめになってしまいました。

円谷英二の熱弁

ある晩、制作室で僕がツブちゃんと金ちゃんと喋っているところに監督が現れて、熱弁を振るわれたことがあります。あれはたぶん、東宝映画次回作の打ち合わせがあった帰りだったのでしょう、お酒が入っていたのでしょうか、珍しく東宝映画首脳部の特撮に対しての姿勢を激しく批判なさりながら、当時NHKからオン・エアされて話題になっていた、人形劇『サンダーバード』のミニチュアやギミックについて、熱っぽく語られたのです。
 「大きさだよ、イイズマ君(イイズマ君と聞こえるのです)…大きさがまるで違うんだよ」
 なぜか突然僕に矛先が向けられたので、『ウルトラマン』に、もっと予算を出せとTBSに言え、とでも仰るのかと思って萎縮しましたが、他でもない、ミニチュアやギミックの大きさのことでした。
 『サンダーバード』は、スタジオそのものや、ミニチュアセット自体が大きいばかりではなく、例えば、トラクターの車輪が、ガタガタの道をたどるアップなど、実際に大きなサイズのタイヤと地面を別に造って撮影しているのだ、と身振り手振りを交えて説明しながら、
「発想が逆なんだよ、会社は。『円谷君、ここは予算がないから特撮で何とかしてくれい』と来るんだ……トリック撮影は、ごまかすことじゃないんだよ…いやだよ、ごまかしは…」
 この円谷英二監督の意思が具体的に取り入れられるのは、次シリーズの『ウルトラセブン』の超兵器出撃シーンなどの特撮ライブラリー先行撮影を待たなければなりませんでした。

サコミズからハヤタに

 さて、『レッドマン』を書くについて、拵井プロデューサーから特に強く要望があったのは、5名の科特隊員の性格づけでした。(略)
実はヒーローのサコミズ隊員(同姓の方ごめんなさい)が、どうしても僕にはヒーロー隊員のネーミングとしてしっくり来なくて、ペンが動き出しませんでした。迫水という字の連想がきつ過ぎて、どうしても、若いヒーローと結びつかないのです。
 『ウルトラQ』「SOS富士山」のタケルが日本武尊の連想だったように、サルタヒコとかハヤフネとか日本の神話にありそうな語感のある名前を浮かべているうちに、ハヤタという名にたどり着いたのです。速人であった可能性はありますが、隼人であったと断じる記述は違うと思います。あの頃はまだ僕にとって沖縄は沖縄でなく琉球でしたし、琉球から来ている金城哲夫さんに、薩摩隼人を押しつけることは、いくら即席とはいえ、あり得なかったはずだからです。

ウルトラマン造形

[成田から見せられた最終デザインは]
正直にいうと、僕は、まったく不満でした。
(なんという温かみのない、無機質なデザイン!)と思ったのです。(略)
(子供たちが、このヒーローに、感情移入できるだろうか…)(略)
 『レッドマン』の脚本を書こうとする時に、千束北男の頭の中にあったヒーローは、あのウルトラマンではなかったはずです。その前に見せられた成田デザインの、クラシックな雰囲気に満ちていて牧神的な頭部と、見事な筋肉を備えた肉体でなければならなかったのです、(略)
今目の前にある、金属的なボディーで、無表情な顔面を持つ宇宙人は(略)
 「ロボットだ」(略)
 でも、デザイン画を見せている成田さんの微笑には、いささかの変化も起こりません、非難する僕から目をそらすこともなく、梃子でも動かない印象で、いつもながらの、いかにも慈しみにあふれた微笑をそそぎかえしてくるのです。そこに、特撮生兵法の僕などがとても太刀打ちできない自信が裏打ちされているのを感じました。
「これから、いろいろと…ですから…大丈夫です」
赤子をなだめるように言われて、黙り込んでしまいました。勝負あり、でした。
成田さんには、あのデザインで行く勝算があったのです。
(略)
ウルトラマンのデザインが、あの時唐突に豹変したのは、僕には、いまだに解けない謎のままです。当時めきめきと発言力を増してきたTBSの企画部あたりの要請かと思ったのですが、先年、機会を得て、あの頃当事者に近い立場だった、もと編成企画部の石井宏さんに直接お聞きしたところ、それは絶対にない、と完璧な否定形のお答えでした。結局、今でも僕には、あの豹変が、成田亨さんから出たものか、それとも…は、わからずじまいの謎として残っています。拵井巍プロデューサーが、メタリックにこだわったのが転機だった、という見方は、一理あると思いますが、完璧に、そうだとは、今でも断じきれない謎なのです。
 さて、最初のウルトラマンを造形するときには、まだ第1話第2話の脚本が出来上がっていませんでしたから、僕は、ウルトラマンは、言葉を発するのだとばかり思っていました。工房で初めて造形されたウルトラマンを見た時には、成田さんの配慮があったのか、口が動くように、頬の部分がわざわざ別な素材で作られていたのです。(略)
ところが、あの口のあたりのしわが見苦しいという意見があったのでしょうか、次にウルトラマンがつくられる時には、またまた無表情な仮面に戻ってしまうのです。
 よくある質問に、「ウルトラマンは裸なのか、コスチュームなのか?」というものがありますが、僕は、「あれは、ウルトラマンの生命体の宿っている肉体なのだ」と答えることにしています。(略)
 ウルトラマンの体躯に描かれた稲妻のような赤い模様も、当初は、地球とは違う自然環境であるM78星雲のウルトラの星に適合してゆくうちに、超金属に進化した肌に網羅する血管の筋模様、であって、それが、ウルトラマンの生命の証である、と解釈していたのです。つまり成田さんと僕は、ウルトラマンの姿は、決してバトル・スーツを纏ったものではない、と設定していたのです。だからこそ、十字に掌を交錯しただけで、スペシウム光線を放つことが出来るのです。ですから、
 「ウルトラマンは、裸なのか?」
 外国人が、そう訊ねるというのは、当たり前のことだと思っています。
 「そうです。はじめは、裸だったのです…」
 成田亨さんだったら、きっと、昂然とそう答えるに違いないでしょう。

炎上現場

 「ボン!」
 直前に、セット全体にまかれたガソリンが爆発して、一瞬、青白い閃光がスタジオ内を走り、僕たちが乗っているセット全体の床が、僅かに持ち上がる迫力でした。
 「ドドーン!」
 爆風が、頬をかすめて、たちまち炎上する発電所に、時をおかず中島春雄さんのネロンガが突入して大暴れ…メラメラと、大きな炎が上がり、ステージ中が焔の影に揺らめきます…「カーット!」
 的場監督の声がかかり、同時に、ステージ内に構えていた撮影所消防隊がホースを構えてセットに上がりかかるのを、
 「待て待てっ!消すなっ!」
 キャメラを抱えた高野宏一キャメラマンが、燃えさかる炎の中に、続いてサブ・キャメラ(略)
それを知った中島春雄ネロンガが、焔の中でアドリブの動き…いわゆる、拾い、と言われるカットが思わぬ効果を上げて、いざ編集というときに、迫力を増すのです。
(略)
 「監督、おでこ…」
 例の彼に言われて、額に手をやり、ふと目尻近くに感触があって、指先を見たところ、赤いものがちょっと…爆風と一緒に、何かの破片が、眼球をわずかにかすめて瞼に当たっていたのです。
 ようやく消火作業が終わって、スタジオの扉が開けられ、外に出ると、まあ、スタッフ全員目の周り、鼻の下が、煤で真っ黒です。

 ステージいっぱいに組まれた火力発電所のミニチュアセットを、美術部さんが虫眼鏡で見るように細部まで装飾し終わるあいだ、怖いほど高い天井に吊られた板の上で、何時間も大怪獣ネロンガのしっぽを吊ったロープを摑んだまま、転げ落ちそうになる眠気と闘っていたあげく、ようやく、いざ本番の声がかかれば、タンクの爆発したミニチュア発電所の大火焔の中を縦横に暴れ回るネロンガの激しい動きに振り回されて、噴き上げてくる熱風に煽られながら、板の上で右往左往走りまわる助監督の彼。
 すでにセットいっぱいにガソリンが撒かれて着火手前というとき、未だに一瞬にして吹き飛んでしまう小窓に豆球を括り付けている美術助手の彼。
 「この野郎、ガソリン撒いてからこんなに待たされちゃ、セットごと吹っ飛んでも知らねえぞ!」
と怒鳴っている操演の彼。
(略)
ワンカットの闘いを終えるたびに、そこここの色が剥げ落ち、破れの広がる古谷敏ウルトラマンに取りついて忙しく修繕のテープを貼り付けたり、銀を塗りたくる特殊美術の彼…。

スペシウム光線のポーズ

 「監督、どうしましょうかねえ…」(略)
 現場にあった絵コンテは、的場特技監督との打ち合わせをもとにして高野キャメラマンが描いたものでしょうか、ウルトラマンが、胸前に構えて拡げた両掌の指先から、ジグザグな光線が広がっているものでしたが、撮影現場に居合わせた光学撮影技師の中野ちゃんから、疑問が出ていたのです。
 「監督、これだと、スーパーガンの光線とあまり変わらないんじゃないすかねえ?もっと迫力がないと…」
 「…」
 指先からの線では、たしかに迫力がありませんし、構えとしても、もう一つ勇壮な感じが伝わらないように思えました。魔女の杖や指先から出る、蜘蛛の巣状に広がる光線ではなく、直線だが、単純な一本の線ではない、帯状の、量感のあるものが出したい。
 中野ちゃんの意図を聞かされて、それならば、指からでなく、掌全体から強烈な光線を発射する構えにしようということで、高野ちゃんが僕に相談を持ちかけてきたというわけです。(略)
[チャンバラごっこで秘剣を繰り出す時の構えなどを即席で披露したうちの1つ](略)
 とにかく中野ちゃんの要求は、幅広く光線を発射する掌を固定すればいいわけですから、中学時代の軍事教練で習った小銃の膝射ち(略)の姿勢や、写真を撮るときに、カメラのぶれを防ぐために、何かに固定した左腕にカメラを載せてシャッターを切る姿勢など(略)
 あの構えを文章で表現すると、水平に固定した左腕手首に右腕の手首を合わせて十字を作り眼前に構え、銃の照準器に見立てた右の掌を立て、狙いを定めて光線を発射する姿勢、とでもいうことになります。

バルタン星人

 『ウルトラマン』のオン・エアが開始されると、拵井プロデューサーを中心にした番組推進機関であるウ連協(ウルトラ連絡協議会)は、凄まじいほどに、広報、宣伝活動を展開しました。(略)
戦火の坩堝と呼ばれたバルカン半島から、千束北男が暗黒の惑星人として発想したはずのバルタン星人のネーミングも、たちまちウ連協の手によって、
 「監督が ♪アイドルを探せ の歌手シルヴィー・バルタンのファンなので、バルタン星人!と名づけたのです」
 などと、勝手にネーミングの由来を変えて発表されたり

ガッツ星人

[セブンの視聴率が伸びず、「視聴率奪回、飯島監督らしく最強の宇宙人で!」という注文に]
バルタン星人で前後編ならば勝算あり、とも思ったのですが、あれこれかけ持っていた僕には、とても脚本を書く時間がありません。それに、あまりに急な話で、ウルトラセブンのコンセプトもしっかりと把握していなかったので
(略)
バルタン星人同様に火星人の概念があったので、結局ガッツ星人のデザインは、頭でっかちの宇宙人になったのです。
 あの、鳥の頭蓋を思わせる大きな頭に描かれた模様は、本来は、頭蓋を透して見える脳のイメージで、という注文です。脳と腸の構造が似ているので、腸(ガッツ)をデザイン化したのです。

合理化で出向

 せっかく組合が、オーバータイム青天井(実働時間すべて)支給を勝ち取ったというのに、作品につけない僕たち社員監督は、オーバータイム、ゼロの勤務です。
(略)
 そしてある日、すでに内職にしていたCM界で実績を上げはじめた実相寺昭雄君の退職の挨拶に同行したTBS諏訪博常務室で、
 「そうだ、君がいた…木下恵介先生のところで、会社を作りなさい…」
のひと言で、
昭和45年4月(株)木下恵介プロダクション設立(略)
に出向の運命となり(略)
 事前制作委員会まで立ち上げて、自社企画、自社制作にこだわってきたTBSが(略)局を取り巻く衛星のように制作プロダクションを設立して、制作部門を多様化するというのです。もちろんそこに、競争による経営の合理化、つまり人件費、制作費節減の狙いが十分窺われましたが…。
 TBSは、まず大手代理店電通をからめてテレパックを作り、制作局長だった石川甫さんを社長に据えてスタジオ・ドラマ制作の主軸とし、報道、情報のスタッフと、制作局で専業志向の強い若手ディレクター、プロデューサーを主体に、テレビマンユニオンを起業させ、そして、博報堂との連携の深い木下恵介監督の(有)木下恵介プロダクションを株式会社化して新規に設立。ドラマ部門では、違う性質の3つの衛星プロダクションそれぞれに社員を出向させたのです。当時、民放の中で、もっとも積極的に方向転換したのが、TBSではなかったでしょうか。
(略)
 絶対にあと戻りはしない、と決めたのです。このときを期して、ウルトラと僕の関係はここまで、と思ったのです。
 こうして、TBSの映画部監督は、その存在意義を失うことになりました。

円谷一急死

 まったく突然の死でした。耳を疑うとは、ああいうことでしょうか。取るものもとりあえず駆けつけた円谷邸で、ツブちゃんの枕頭で合掌していた金ちゃんが、縁先に飛び出して、振り絞るような泣き声をあげながら、誰に向けてか、いや、おそらく、円谷一に向けたに違いなく、「どうして!どうしてだ!」
 という怒りの呟きを繰り返していたのを忘れることが出来ません。
 ツブちゃんこそ、金城哲夫を厳しく育て、しかも、高く評価していた人だったからです。
ウルトラマンも、これで、終わったな…」
 覆われた白布から垣間見える、あの愛らしい笑顔とは程遠いツブちゃんの静止したマスクに、安穏は窺われませんでした。志半ばの無念、あのとき、僕は、そう読みました…。

製作中止

 とりあえずTBSに飛んでいき、関係者に聞きただすと、昨夜設けられた、円谷皐社長とTBS磯崎洋三社長との会食の席で、両者の意思が急変したのだというのです。まだ最終的な詰めの出来ていない段階で行われた会食の席が仇になってしまったのかもしれません。結局、この映画に関する両社の権利主張が合意に至らなかったのだ、と言う話を聞きました。(略)どちらかといえば血の気の少なくない両者の折り合いは、それまでも決してよくはありませんでした。ここであえて書くこともありませんが、衝突の前兆ともいえる出来事がすでに2つほどあったのです。(略)
キャラクターのマーチャンダイジングから生まれる利益が膨大になっていたための悲劇だったといえます。円谷皐社長にしてみれば、円谷プロダクションが、全ての権利を独占するのは当然と思い込んでいたでしょうし[TBS側は製作委員会方式を主張したのだろう]
(略)
「なにも、こんなときに社長2人で飯なんか、食わせることなかったんですよ」
 小山さんの嘆きは、もっともな嘆きでした。
 こうして、『ウルトラマン・バルタン星人大逆襲』は、前代未聞のハプニングから、クランク・イン直前の中止というまぼろしの作品となってしまったのです。

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