誰も語らなかったジブリを語ろう 押井守

タイトルで勝手に期待値を上げたせいなのか……うーむ。聞き手が違う人ならもっと深い話が出たような気がする。

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

  • 作者:守, 押井
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 単行本

トップクラフト」原徹

原さんというのは、とても男気のあるかっこいい人で、自分の原作である『ナウシカ』を長編アニメーションにしたいと熱望する宮さんのその熱い思いに応えて制作を引き受けた。だから『ナウシカ』の一番の功労者は原さん。(略)
トップクラフトは『ナウシカ』のあとに解体され、それに代わって(略)ジブリが設立された。原さんは複雑な心境だったと思うよ。

となりのトトロ

 『トトロ』を語るには、宮さんの『めいとこねこバス』に触れないわけにはいかない。ジブリ美術館でしか観られない短編だけど、これは正真正銘の傑作です。これこそ子供が観るべき作品だし、紛れもなく宮さんは子供たちに見せるために作っている。上映時間は15分くらいだけど、子供が一瞬たりとも目を離さないような作り。子供が観たら大コーフン、たまらないと思うよ。宮さん得意のディテールだけの映画だから当然、素晴らしいし。いわゆる、アニメーションの楽しさにあふれた作品だよ。
(略)[それに比べて]『トトロ』はどうなんだってこと。
(略)
宮さんはアニメーターとして不世出の天才であることは認めるよ。(略)『トトロ』の樹木が空に向かってニョキニョキと伸びる画なんて宮さんの真骨頂。(略)[でも]監督としての力ははっきり言って二流以下です。(略)
彼の作品を支えているのは演出力じゃなくて、アニメーターとしての手腕。さっきも言ったように構成力がなく、よって長編もできない。にもかかわらず長編を作ってしまうから破綻している。
[だから]『めいとこねこバス』を観るべきだと思う。そうすればきっと『トトロ』の観方も変わるから。

鈴木敏夫

[ハリウッドのプロデュサー]は最終的には権力と金で全部を押さえつけるけど、トシちゃんの場合は得意の恫喝と懐柔(笑)。(略)
本当に上手いんだよ。トシちゃんに囁かれて、どれだけ多くの人が人生を誤ったか。僕はそういう人をたくさん見てますから。自分は利口だと思っている人ほどトシちゃんの魔法にかかり、自分が優秀だと思っている人ほど騙される。洗脳されまくって、喋り方までトシちゃん化していた人もいたくらいだからね。本当にそのマジックは凄いわけ。トシちゃんは、その能力を駆使して『魔女宅』を生んだんだよ。

主題歌

 [『イノセンス』の『アラフェンス』は]トシちゃんの意向です。歌っているオバサンもトシちゃんの推薦。言っておくけど僕は、最後に主題歌が入っているのが大嫌いなんです。『うる星』のときから大嫌いだったし、フリーランスになって一度もやったことがない。実写は別だよ。(略)
トシちゃんの口癖のひとつが「映画には主題歌が必要」だから。『イノセンス』で鈴木敏夫が絶対譲らなかったことがふたつあって、そのひとつがこの主題歌、もうひとつが『イノセンス』というタイトル。まあ、海外に行ったときは「何で主題歌が『アランフェス』でケンジ・カワイ(川井憲次)じゃないんだ」とか、「何でタイトルは『GHOST IN THE SHELL2』じゃないんだ」とか、さんざん言われた。現場でも『攻殻2』。誰も『イノセンス』とは呼ばなかったしさ。

天たま』やってるときに「あれはお前の娘だよな?」って師匠に言われたから。それはそうかもしれない。(略)
なぜか自分でも判らないけど、ある時期まで小さな女の子がもれなく自作に登場していたことは認めるよ。(略)
実際、娘が結婚してから女の子は出なくなったから。それに、ある時期まで娘が観る前提で作っていて、「娘が観るんだから、恥ずかしいものは絶対に作れない」と思ってやっていた。だから一本一本全力投球だよ。(略)
久しぶりに娘に会ったとき「セルが欲しい」と言われて当然、自分の作品を想像するじゃない?ところが彼女の口から出たタイトルは『紅の豚』でさ。(略)それでやるかたなく、ジブリの制作担当者に電話して用意してもらい、取りに行ったんだよ。それも恥ずかしかったから喫茶店で待ち合わせして。その彼に「(宮崎さんの)サインは?」って尋ねられて「いらない」って言ったけどさ。(略)
その頃の娘はまだおチビちゃんだったから『パト』とか言われたら、それはそれでちょっとビビるかもしれないけど、でも、やっぱりショックだよ。

画のクオリティのピークは『魔女宅』

画のクオリティのピークは『魔女宅』だと思う。そして、自分の作品としてのピーク、つまり成熟度は『千尋』辺りからかな。(略)
[自分の場合]クオリティのピークは『イノセンス』、作品としてのピークは『スカイ・クロラ』。これは自信がある。

宮さんとはそれ以来、会ってないよ

[宮崎が春巻きの食べ方で何度もダメ出ししたという話から]
僕に言わせると「いまさら」だね。[昔から今のアニメーターは実感の世界から遠ざかってると言ってた](略)
僕が『イノセンス』を作っている頃、宮さんが『ハウル』をやっていて、僕はよくジブリに出入りしていたんだよね。あるとき、最初は穏やかに話していた宮さんの機嫌がだんだん悪くなってきて「最近のアニメーターは……」「絵描きの心情が……」とかグチャグチャ言い始めた。僕はだんだん腹が立って来て「いまさら何言ってんだ。そんなものは10年も20年もまえから何も変わってないよ!」って。で、怒鳴りあいになった。もうスタジオ中に響き渡る怒鳴りあい。たぶん、それが最後。宮さんとはそれ以来、会ってないよ。
(略)
まあ、宮さんの言うことが正しいのには変わりなくて、いまどきの若いアニメーターは、要するに紙の上でしか仕事をしていない。アニメーションしか観て育ってない。

鈴木敏夫による宮崎・押井の“家族論”

当時、トシちゃんは僕の『イノセンス』のプロデューサーもやっていて、こんなことを言ったんだよ。「いやあ面白いなあ。図らずも宮さんとアンタが同じような映画を作ってる。要するに家族。家族の物語なんだ。片方は、魔法使いのばあさんだろうが孤児だろうが、誰でも家に引きずり込んで、みんな家族でどこが悪いという映画。アンタの家の場合は、イヌだろうが人形だろうがなんだっていい。人間かどうかさえも関係ない。新しい絆としての家族論として考えると、実に面白い」ってさ。

OVA『デビルマン

文字だと何てことない表現が、画として起こすととんでもないものになってしまいがちなのがアニメーションという形式なの。(略)いい例をあげると、OVAの『デビルマン』。スタジオジブリがヒマな時期に、錚々たるアニメーターが作画を手伝ったんだよね。で、美樹というヒロインが、お風呂に入っているとデーモンに襲われるというシーンがあった。永井豪らしいエロチックなシーンで、そこをジブリのベテランアニメーターが担当したんだけど(略)
[丁寧な作画で]動かされた美樹は、驚くほどエロかった。本当にヤバいくらいにエロだったんだよ。(略)プロデューサーや演出は、「上手いアニメーターだったらきっといいシーンになるだろう」という考えだったんだろうけど、それが大きな間違い。上手ければ上手いほど、演出家の思惑を超えてしまう。

火垂るの墓

高畑さんは冷徹な人で、実はリミッターがない人。子供が観るからとか、そういうことはお構いナシでとことんやる。しかも演出家としては超一流なんだよ。彼の影響を受けなかった人なんてアニメ業界にいないんだから。僕だって受けてますよ。そんな高畑さんが思う存分やった。公開日を無視してまでやったんだから、途方もない凄みが『火垂る』に宿るのは当然なの。僕も「ここまでやれるんだ」というか「ここまでやるんだ」と思ったからね。好きか嫌いかはさておき、高畑さんの最高峰には間違いないよ。

かぐや姫の物語

 あとは、かぐや姫が凄い形相で都から逃げ出すところ。ああ、これがやりたかったのかって。だからこそ、強弱がつきまくった、ラインのつながっていない絵柄なんだって。でも、あの表現をするため、どれだけのアニメーターが死ぬ思いをしたのかと言いたくなる。
 確かに、迫力があるし面白い。でも、それだったら短編でやればいいじゃない。あのシーンだけで短編を作れば誰も死ぬ思いをしなかっただろうし、50億もかからなかった。

第三の監督たち

スタジオを維持するためには毎年毎年、長編アニメーションを作っていかなきゃいけないわけで(略)当然、第3の監督がマストだと考えて探し始めたんだよ。細田守にも声がかかったし、僕も2回くらい声をかけられた。もちろん、決裂しちゃったけど(笑)。(略)
1本は『アンカー』という企画。声がかかった時期は覚えてないけど、高校生の話だった。リレーの最終走者のことだから。
 宮さんの別荘で、宮さん、高畑さん、トシちゃん、(宮崎)吾朗くん、そして僕かな。その面子で企画会議をやったんだよ。宮さんは「俺は絶対口出ししない。アンタの好きなようにしていい」とか言っていたけど、その時点でもう「俺ならこうやる」って言い出してるから(笑)、信用なんてできるわけがない。で、延々と議論して、最終的には決裂。最後は確か、高畑さんと僕の怒鳴りあいだった。
(略)
 でも、それに懲りてないのか、あるいは本当に人材に困っていたのか、再び呼ばれたんだよ。今度は『墨攻』という作品でね。

耳をすませば

気持ち悪すぎてちゃんと観られなかった。もう悪夢に近い。(略)[監督のフェティッシュをまったく感じない。登場人物の]欲動とかリビドーとか、どうなっているんだろうって。(略)
動画の世界がもっている魔術や官能性、心が弾むようなリズム感とか躍動感がまったくない。
(略)
面白いことに、宮さんが絵コンテまで切っているのに、宮さんの匂いがまるでしない。この作品以降、いろんな監督がジブリ作品を作ったけれど、大体が宮さんの劣化コピー。みんな宮さんの影を引きずっている。でも、この一本だけはほぼ影響を感じないんだよ。(略)
さすがの宮さんもあまり口出しできなかったのかもしれない。
[あとの方で、宮崎・高畑作品以外でジブリのベストはと問われて、ジブリの呪縛を感じなかった『耳をすませば』と回答]

猫の恩返し

 いくら腐ってもジブリだろうと思っていたら、ただ腐っているだけだった。これはちょっと酷すぎるよ。(略)
[それでも64億円の大ヒット]
おそらくトシちゃん自身、「これで大ヒットするんだったら、宮さんが監督じゃなくても、ジブリブランドというだけで行けるかもしれない」と思っても不思議じゃない。

ゲド戦記

僕が『ゲド』のアニメーション化について宮さんと話したのは、確か『ラピュタ』のあとくらい。さんざん話しまくった。で、ふたりの一致した結論が「これは映像化不可能」だったんだよ。第一巻の『影との戦い』のその「影」をどうやって映像化するのか?おそらく無理だろうってね。だから、製作のニュースを耳にして「いまさら」と思ったんだよ。
(略)
[吾朗との対談で「なぜとどめを刺さなかった」「父親を殺せ」と挑発したが、話は]
かみ合わなかった。僕が挑発していることには気づいたみたいだけど、最後までそれに乗ることはなかったよね。ただ、面白いなと思ったのは「監督として尊敬している」という言い方。つまり、父親としては尊敬してなかったということだよ。

宮さんの影響

建築物に関しては宮さんに借りがあるんだよ。(略)
建築に興味をもったのは、宮さんと付き合ったから。なのでしばらくは必ず建築を意識して作品を作っていた。いまはもうやめたけど
(略)
『パト1』のときは看板建築とか、日本独自の和洋折衷建築をバンバンだしてみた。それは宮さんの影響だったから。

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